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第二十九話 対ギガロドン戦(後編)

 ギガロドンの近くに移動した。ギガロドンの近くでは海上に立った冒険者たちがギガロドンを攻撃していた。


 海上での足場は不安定だ。だが、それでも立てるようになった効果は大きかった。

 ギガロドンが跳ねた。近づいて行こうとしていたオリヴァーの漁船が波に煽られる。


 漁船に乗っていた冒険者と一緒に、海上に投げ出された。


 ギガロドンは海上に姿を曝すとダメージを受ける。ギガロドンは海中からの飛び上がりや飲み込みに攻撃を切り替えた。


 旗艦から光が飛んできて、ギガロドンを打った。ギガロドンの体が海上に浮上した。

 ギガロドンは海底に潜ろうとしていた。だが、海中に逃げられなくなっていた。


(秘儀石だ。伝説を狩る者が秘儀石を使ったんだ)

 冒険者に勢いが付いた。冒険者は海上に立つ。海中にギガロドンは逃げられない。


 ギガロンドンは大きな的と変わりがなかった。冒険者がギガロドンに群がる。

 ユウトも空中に文字を書き、魔法で戦った。


(行けるかな、ギガロドン。初参加で初討伐)

 空が急に曇った。風が強くなり突風が吹き、シャワーのような雨が降った。


 突然の時化だった。湾内でも風が起きれば波は高くなる。

 不安定な足場がさらに悪くなった。冒険者が浮き足立った。


 ギガロドンは波の上を滑走する。ギガロドンは次々と冒険者を轢き、跳ねて行く。


 ユウトは転びそうになるのを耐える。だが、限界だった。あちらこちらで冒険者が転倒している。魔法も矢も、狙いが定まらない。同士討ち事故も起きていた。


 旗艦のいる方角から光の柱が天に立つ。誰かが秘儀石を使った。

(三つ目の秘儀石だ。今日は大判振舞いだな)


 不自然に風が止み波が収まった。足場が安定すると、冒険者が巻き返した。

 ユウトもここぞとばかりに、がんがん魔法で攻撃した。


 ギガロドンの突進を回避して、魔法と矢の攻撃が再開される。

 ギガロドンは暴れていた。だが、冒険者がギガロドンの体力を徐々に削っていた。


 勝てるかもしれない、と思った時だった。ギガロドンの黒い体が真っ赤になる。

 ギガロドンの体が体積比で四倍になった。


 ただでさえ、でかいギガロドンの巨大化には驚いた。

(ここに来ての体力と攻撃力の増加だと)


 優勢になっていた冒険者が尻込みする。

 ギガロドンが超巨体を使い、海上を転がり回る。


 堪らずに冒険者が雨の中で逃げまくる。

 ユウトも圧死を回避するのでやっとだった。


 秘儀石による解除を期待した。だが、秘儀石の使用はない。

 ユウトの秘儀石は再使用が可能になっていた。ここで使うかどうか躊躇っていた。


 逃げ惑う他の冒険者に突き飛ばされた。ユウトは転倒した。

 運悪くギガロドンが転がって来る光景が見えた。事故死の言葉が頭を過ぎる。


「謙虚を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて奇跡を起こせ」

 ユウトの右手に現れた秘儀石が光となる。向かってくるギガロドンを光が打った。


 光に打たれるとギガロドンは元のサイズに戻った。おかげで、ギガロドンとの衝突は回避できた。

 ギガロドンが小さくなると、冒険者側が優勢になる。再び冒険者の猛攻が開始される。


(もう、四つも秘儀石を使った。これ以上は秘儀石の使用はない。ここで押し切れないと負ける)

 ギガロドンは傷ついていた。攻撃も通っている。ギガロドンに奥の手がなければ行ける気がした。


 体が急に沈んだ。すぐに体は海に浮く。だが、もう海上に立てなかった。


(水樹さんの秘儀石の効果が切れた。まずい。だとすると、ギガロドンを海上に浮かせている秘儀石の効果も、もうじき切れる)


 ここに来てギガロドンを海中に逃がすのは痛かった。海中に逃げられれば攻撃手段は制限される。

 ギガロドンが鳴いた。ギガロドンの鳴き声が空に響き渡った。空が光り落雷した。


 落雷が海面を打った。ギガロドンはまだ奥の手を残していた。

 ギガロンドンを倒すにはあと少しの気もした。だが、雷が容赦なく降ってくる。


 冒険者も戦いで疲弊している。

(どうする? 粘るか? 徹底するか?)


 水樹の笑顔が脳裏に浮かぶ。

(撤退だ。僕だけなら、残って戦いを最後まで見てもいい。だが、この戦場のどこかには水樹さんがいる)


 オリヴァーの船から落ちて以来、水樹を見ていなかった。

 一緒にいればまだ状況から残る判断は有り得た。だが、水樹が見えない状態が不安を掻き立てた。


 ユウトはポケットから緊急脱出のスクロールを出す。

「緊急脱出発動」


 辺りが青い光に包まれる。光が収まった時はバナナ商会の転移門だった。

 床を濡らさないように、近くにあったタオルで体を拭く。


 二階での物音を聞きつけたのか、イザベラがやって来た。

 イザベラが不安顔で尋ねる。


「どうだった、ギガロドン戦?」


「危なくなったから緊急脱出で逃げてきました。皆も帰ってくると思いますので、タオルの準備をお願いします」


「わかった、すぐに用意するわ」

 イザベラがタオルの準備をしていると、まずガイウスが帰ってきた。


「ギガロドン戦、ご苦労だった。あの雷の雨で緊急脱出を発動させたのは、正解だったぞ」

「他の皆さんとは一緒でしたか?」


 ガイウスは渋い表情で答える。

「梓とは一緒だったが、団長や水樹とは途中で(はぐ)れた」


 ガイウスがイザベラからタオルも貰っていると、梓が帰ってきた。

 梓の表情は明るかった。


「帰るかどうか、迷うところでしたが、帰ってきました。帰れる時に帰るのが冒険の鉄則ですからね」


 次に水樹が帰ってきた。水樹は悔しそうな顔をしていた。

「残念だったわね、ギガロドン戦。もう少しで勝てそうだったのに」


 水樹が無事でユウトはほっとした。だが、素直に口に出すと、梓に茶化されそうだった。

 ユウトの口から別の言葉が出る。


「チャンスは、またあるさ。それに、サイクロプス戦だってある」

「そうね、ジャクリーンのお願いはまたの機会ね」


 最後にライアンが帰ってきた。


「結果は敗北だ。正式な結果は伝説を狩る者からの報告を待つ状況になる。でも、次々に緊急脱出で撤退している味方が見えた」


 イザベラがほっとした顔で、ライアンにタオルを渡した。

「でも、みんなが無事に帰って来られて、よかったわ」


 梓が残念がって口にする。

「あと、秘儀石が一個あれば倒せそうだったんですけどね」


 ライアンは不思議がる。


「今回の戦いで用意した秘儀石は水樹の分を入れても三つ。四つ目の秘儀石は誰が使ったんだろうな?」


(乱戦のさなかだった。だから、誰かが秘儀石を使ったまではわかっても、誰が使ったまでは、わからなかったんだな。もう、しばらく秘密にしておこう)


 ギガロドン戦は失敗に終わった。

 ただ、ギガロンドンは、次に準備を整えて戦えば勝てそうな相手に思えた。

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