第二十八話 対ギガロドン戦(前編)
火竜の心臓が手に入って十日後のことだった。
いつものようにバナナ商会に顔を出す。水樹がいたので雑談する。
「他のメンバー、中々、帰ってきませんね」
水樹が愛想もよく答えた。
「私は会ったわよ。テリーさん。何でも宝探しから面倒な展開に巻き込まれたって愚痴っていたわ。それで、すぐまた出かけたわ」
(一日だけ帰ってきたのかな。挨拶はまた後でいいか)
「レジェンド・モンスターさえ討伐できれば、応援に行けるんだけどなあ」
ガイウスが三階から降りてきた。
「ちょうどいい。水樹とユウトがいたか。団長室に来てくれ。話がある」
団長室に行くとライアンが待っていた。真剣な顔で切り出す。
「伝説を狩る者から応援要請が来た。標的はレジェンド・モンスターのギガロドンだ」
(ギガロドンもサイクロプスと同じレジェンド・モンスター。討伐をすればジャクリーンのお題がクリアーになるな)
だが、問題もあった。
ギガロドンは初めて戦うモンスターで、攻撃手段も対策もわからない。
(初参加で初討伐は理想だけど。そんなに上手くは行かないだろうな)
ライアンは真剣な顔で説明を続けた。
「開催は一週間後だ。伝説を狩る者はギガロドンの手の内をできる限り明らかにしたいと考えている」
水樹が真剣な顔をして確認する。
「秘儀石の力を使いたいんですね。大丈夫です。十日後なら、秘儀石が使えますよ」
(十日後なら僕の秘儀石の力も使えるかな)
「水樹とユウトは参加してくれる――と考えていいんだな?」
ライアンが念を押し、水樹が威勢よく応じる。
「行きます。行って戦います」
「僕も行きます。討伐が無理でも、戦いの流れを掴んでおきたいです。ただ、危険な状況も考えて、緊急脱出のスクロールは持って行きます」
「緊急脱出は用意しておいてくれ。私も用意しておくが、念のためだ。使うタイミングは任せる」
ユウトはスクロールの準備をして戦いに備える。
一週間後、シモン村は冒険者の活気で満ちていた。
ギガロドン討伐には二百人以上の冒険者が参加する。
シモン村には六十五m級の軍艦五隻と輸送船一隻がいた。
ギガロドンのいるニンゴーナ島に渡るための漁船も二十艘、準備されていた。
空は快晴で風もない。海上で戦うにはいい日だった。
ユウトたちバナナ商会はオリヴァーの船に乗った。
「それにしても、漁船の参加数が凄いですね。村の漁船が総出ですね」
オリヴァーが複雑な表情で語った。
「誰しもギガロドン戦になぞ、行きたくないのが本音じゃ。じゃが、報酬がすごくいいんじゃよ。ここいらで稼がんと、本当に海賊になるしか道はのうなる」
「漁師さんの生活も大変ですね。でも、ギガロドンが不漁に関係しているかもしれないから、討伐できたら、魚が戻って来るかもしれませんよ」
「だといいんじゃがな」
ユウトたちは漁船にバナナ・チップスを積んでシモン村を出た。
ニンゴーナ島には昼に到着する。湾の狭い入口から軍艦四隻が入った。
湾内に菱形に軍艦を配置して砲撃を準備する。
最後の一隻は旗艦として、湾の出入口から少し南の配置に着いた。
軍艦の間を縫って二十隻の漁船が湾内に入る。
海賊たちが乗る漁船五艘も、入ってきた。
旗艦から花火が上がる。
バナナ商会が乗る漁船と海賊の漁船が一艘ずつ湾の中央に進んだ。
湾の中央に浮きを入れたバナナ・チップスの袋を投下していく。
海上に八十袋近いバナナ・チップスが浮く。
全てを投下し終わると、オリヴァーの船は軍艦の近くに移動した。
移動後すぐに、旗艦より花火が連続で上がる。
ライアンが険しい顔で叫ぶ。
「旗艦からの合図だ。ギガロドンが浮上してくるぞ」
湾内の水が盛り上がり、ギガロドンが浮上した。ギガロドンは真っ黒いシャチのモンスターだった。
全長百二十mのギガロドンの浮上により発生した、波で漁船が大きく揺れる。
(でかい! こうして見ると、なんてでかいんだ!)
ギガロドンは海上に現れると、バナナ・チップスの袋を次々と飲み込む。
(本当だ。ギガロドンは甘い物が好きなんだ)
海上に姿を現したギガロドンに、軍艦四隻より砲撃が開始される。
百を超える砲弾がギガロドンに目掛け、飛んで行く。
砲弾は次々と命中し、ギガロドンが怒った。
ギガロドンがユウトの近くの軍艦に目掛けて向かってくる。
軍艦からは砲撃が飛ぶ。魔法や弓での攻撃も行われる。
海上を突進するギガロドンは止まらない。
オリヴァーが魚船を操縦して軍艦から離れた。
ギガロドンと衝突した軍艦は横転しそうになる。軍艦は魔法の力で艦の姿勢を維持しようとした。
ギガロドンが跳ね艦の上に落下する。
さすがの軍艦も耐えられなかった。軍艦が木端微塵になった。
他の艦や船より、砲撃も魔法による攻撃も続いている。
ギガロドンとて無傷ではない。だが、ギガロドンは一向に気にした様子がない。
次の軍艦にギガロドンは向かっていく。
オリヴァーが沈んだ軍艦の近くに行き、艦から落ちた人を救助する。
視界の端では、別の軍艦が沈んでいた。
水樹が険しい顔で意見する。
「まずいわ。このままだと軍艦は全滅よ。軍艦がなくなれば、足場がなくなる。そうすれば、機動力を奪われて敗北よ」
旗艦より花火が上がる。ライアンが花火を見て水樹に向き直る。
「秘儀石を使う合図だ。秘儀石で奇跡を起こしてくれ」
水樹が手を空に翳して叫ぶ。
「献身を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて、奇跡を起こせ」
水樹の手から秘儀石が現れた。秘儀石が海中に飛び込む。海面が光かった。
艦の残骸が浮かぶ。海で救助を待つ人間が海面に立ち上がった。
梓が海面に足を付けて叫ぶ。
「海の上に立てるようになりました。不安定だけど、足場が確保できました」
ユウトはオリヴァーに確認する。
「漁船は動かせますか、オリヴァーさん?」
オリヴァーが少しだけ船を前進させる。
「漁船は問題なく海上を動けるな」
海上をさっと確認する。湾内では人が海に立てる状態になっていた。
ライアンが険しい顔でオリヴァーに指示した。
「ギガロドンの近くに漁船を移動させてください。ギガロドンに接近戦を挑みます」
オリヴァーはとても嫌そうな顔をした。だが、オリヴァーはライアンの指示に渋々従った。




