第二十六話 会談の仲介
いつものように、バナナ商会に顔を出すと、イザベラがいた。
イザベラが感じもよく話し掛けてくる。
「団長がユウトに話があるそうよ。団長室に来てって」
「はて、何の用だろう? 何も怒られるような不始末はしていないけど」
三階の団長室に行き、ドアをノックしてから入る。
ライアンは腕組みして難しい顔をしていた。
「先日の情報提供はご苦労だったな」
(珍しい、お褒めの言葉だ)
「バナナ商会の利益になる話だと思ったので、お教えしました。バナナ・チップスも団員価格で売っていただけたことですし」
「ギガロドンなんだか、伝説を狩る者は、ギガロドン討伐もサイクロプス討伐と並行して目指したいと言ってきた」
(レジェンド・モンスターの討伐を主眼に置くクランとしては、ギガロドンを捨てて置けないか)
「なかなか豪気な姿勢ですね」
ライアンは真剣な顔で持論を述べる。
「伝説を狩る者には、そこまでの力がある。だが、ギガロドンは海にいる。海賊から横やりが入れば、成功するものも成功しない」
「懸念はわかります。どうせやるなら、レジェンド・モンスターに集中したいでしょう」
「そこでだ、伝説を狩る者は海賊の元親と組みたいと言い出した。海賊との仲介をバナナ商会に依頼してきた。仲介の話を受けようと思う」
無理からぬ話だった。
「話を受けるのは伝説を狩る者が、お得意先だからですか?」
「バナナ商会は小さい。大手クランとの付き合いは大事だ。そこで、ユウトには元親と伝説を狩る者の副団長のガロウとの会談を、セッティングしてほしい」
(団長も都合がいいな。あれほど海賊との取引を嫌っていたのに。なのに、伝説を狩る者がやりたいと騒ぎ出したら、掌を返した)
だが、団長には団長としての立場があると思い直す。
「わかりました。会談の場を設けさせていただきます」
二階に戻ると、水樹がいたので相談する。
水樹も苦い顔をして「調子がいいわね」と団長を腐した。
「偉い人には偉い人なりの苦労があると思うんだ。過去は忘れよう」
水樹が機嫌よく付き合ってくれた。
「いいわ。なら、私がガロウとの連絡係になるから、ユウトは元親と話を付けてきて」
「わかった、海賊との交渉は任せてくれ」
オリヴァーの漁船に乗って海賊島に行く。
「元親に会いたい」と、港にいた海賊に頼む。ヴィクターが港に現れる。
ヴィクターは漁船を見て拍子抜けしていた。
「何だ? バナナ・チップスをどこかで仕入れてきたのかと思ったぜ」
「同じくらい有意義な話を持ってきた。ギガロドンの話だ」
ヴィクターが顔を顰める。
「お前、ギガロドンの情報をどこから聞いた?」
ユウトはヴィクターの問いを軽く流した。
「ある筋からだよ。それで、ギガロドンに興味を持ったクランがある。伝説を狩る者だ。伝説を狩る者がギガロドン戦を行うにあたって協定を結びたい、とバナナ商会に仲介を頼んできた」
ヴィクターは警戒していた。
「俺たちをギガロドンにぶつけようってのか」
「詳細は会談しだいだから何とも言えない。だが、上手く交渉を運べば、伝説を狩る者が戦っている間に、お宝がある海底洞窟に行けるぞ」
ヴィクターは唸った。
「何だ? ユウトは海底洞窟の話まで知っているのか?」
「海底洞窟の情報もある筋からの情報だよ」
「わかった。しばし、ここで待て」
ヴィクターがいなくなる。
かなり待たされると思った。だが、ヴィクターは十五分ほどで帰ってきた。
ヴィクターは明るい顔で承諾した。
「伝説を狩る者との会談に応じよう」
「決断が早いですね。もっと掛かるかと思った」
ヴィクターは自慢する。
「元親の親分は頭も切れる、いい男なんだよ」
「わかりました。会談の場所と日時が決まったら、また連絡しますよ」
シモン村まで送ってもらう。帰って来ると夜も遅いので一眠りする。
翌朝、バナナ商会に行くと、水樹がもう帰ってきていた。
「ガロウと話を付けてきたわ。会談場所はナンナーラの料理屋の大蛸亭。時刻は四日後の夕刻よ」
「早いな、水樹さん。もう、そこまで話を詰めてきたの?」
水樹は胸を張って自慢した。
「できる女は、仕事が早いのよ」
「それは頼もしい」
すぐに、シモン村まで行き、オリヴァーに魚舟を出してもらう。
オリヴァーはぼやく。
「金になるから行くが、こうも海賊島通いをするとは、思わなんだ」
「世の中って思い通りに行かない事態はままありますよ」
海賊島に着くと、ユウトの顔は覚えられていた。
スムーズにヴィクターを呼んでもらえた。
「会談の日時が決まりました。四日後の夕刻、ナンナーラの料理屋の大蛸亭で会談です」
ヴィクターは軽く驚いていた。
「随分と急いで日程を決めたな」
「それだけ伝説を狩る者は、やる気なんだろう。元親さんの都合は、どうなんです?」
「大丈夫だ。大蛸亭なら海賊が時々利用する場所だから、行き方もわかる」
「よし、なら四日後に大蛸亭で会いましょう」
四日後、団長、ガイウス、梓、水樹、ユウトはラザディンの街の転移門からナンナーラに飛んだ。
ナンナーラは縦横に水路が張り巡らされた商業都市だった。
転移門の近くの渡し場から、渡し船に乗って大蛸亭に向かう。
大蛸亭は広さ五百mの二階建ての建物だった。
大きな水路に面しており、お客用の専用船着き場もある。
先代まで高級料理屋だった。だが、代が替わってから値段を抑える中流料理屋に方針を変更していた。大蛸亭は冒険者でも気軽に入れる店になっていた。
店の女将は、バナナ商会のメンバーを笑顔で迎えてくれた。
「今日は、うちを利用してくれて、ありがとうございます」
ユウトは気になったので、ひそひそと水樹に聞く。
「ねえ、大蛸亭って海賊は大丈夫なの?」
ユウトの声が聞こえたのか、女将がこっそり教えてくれる。
「元親さんは。ここの常連です。時々、お忍びで来とります」
(海賊でも騒ぎを起こさず、お忍びで来るなら、入れてくれるのか。まあ、冒険者も海賊も一般人にすれば変わりがないのかもしれない)
ユウトたちは二階の個室に通された。
陽が暮れて来ると、ガロウが五人の供を連れて現れる。
ガロウは少し背の低い、白髪の男だった。恰好は厚手の服の上から茶のローブを着ている。ガロウは魔術師と思われた。
ライアンがガロウと世間話する。二人は顔見知りだった。
だが、ここで問題が起きる。陽が暮れても、元親が一向に現れなかった。




