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第二十五話 危険な取引

 陸路のバナナ・チップスの運搬は問題なく終わった。

 荷馬車二台でシモン村に行く。漁村には八人の冒険者と三艘の舟が待っていた。


(漁船が三艘か。漁師さんも海賊島なんかには行きたくないだろう。切実に追い詰められている、って状況か)


 弓を背負った水樹がやって来る。

「船長が一人に、あとは四人が舟に乗る計算よ。一塊になって進みましょう」


「わかった。さっさと海賊島にバナナ・チップスを運ぼう」

 オリヴァーの船にユウトと水樹、それに護衛の冒険者が二人、乗った。


 オリヴァーの舟を先頭にシモン村を出た。

 海を四時間ほど進む。陽が傾いてくる。


 向こうから漁船が二艘やって来る光景が見えた。

「何だ? 海賊島の漁船か?」


 水樹が警告の声を上げる。

「気を付けてユウト、こっちを襲う気かもしれない」


 舟の針路を変えても、回り込むように合わせてくる。

(やはり、襲ってくる気か)


 矢が飛んできた。水樹が矢を素手で受け止める。矢を握り潰した。

 向こうの攻撃を合図に矢の射ち合いになった。


 海賊の漁船は改造されているのか、ユウトたちの漁船より速い。小回りも利いた。

 海賊はユウトたちの舟を攪乱して、各個撃破しようとする。


 ユウトは空中に『(ぢん)(すい)魚雷(ぎょらい)』と書く。文字が海面に飛んで行った。

 文字が海面に到達すると海面に字が映り込む。


 海面から百ℓほどの水の塊が海賊漁船に向かう。

 水の塊が当たると、海賊漁船は速度と機動性を落とした。


 ユウトはひたすら沈水魚雷の文字を書き続ける。

 冒険者は弓で黙々と応戦する。


 戦いは舟の機動性と速度で上回る海賊が最初は有利だった。

 だが、ユウトの沈水魚雷の魔法がじわじわと海賊漁船の機動性と速度を奪う。


 立場は逆転した。

 海賊漁船が漁船に近付いた時に、鎧甲冑を来た冒険者が大きく跳んだ。


 距離にして二十m、高さにして十五m。何らかの魔法によるものだった。

 跳び上がった冒険者は、そのまま海賊漁船に着地、華麗な槍捌きで全員を始末した。


 一艘が制圧されると、もう一艘が逃げようとする。

 水樹が険しい顔でオリヴァーに指示を飛ばす。


「逃がしちゃ駄目よ。追って」

 オリヴァーの漁船が海賊漁船を追う。冒険者が矢を放つ。


 矢は見事に海賊漁船の操縦者の肩に当たる。操縦者は海に落ちた。

 海賊漁船の速度が落ちた。オリヴァーが海賊漁船と並走する。


 ユウトは陽炎の魔法を船体に掛けた。海賊からはユウトの漁船が歪んで見える。

 だが、ユウトの漁船からは海賊漁船がきちんと見える。


 乗っていた二人の冒険者と水樹の矢が、海賊たち次と捉える。十人いた海賊は撃退された。

 後ろから仲間の漁船がやってくる。後ろの漁船には先ほど海に落ちた海賊が捕えられていた。


 冒険者が確認する。

「どうします? この海賊は始末しますか?」


 海賊はユウトより一つか二つ若い若者だった。若者はびくびくしていた。

「トミー、お前、トミーじゃないか」


 オリヴァーが驚きの声を上げた。全員の注目がオリヴァーに集まる。

「オリヴァーさんの知り合いなんですか?」


「二カ月前に父親と漁に出て帰らなくなったから、てっきり死んだとばかり思っていた。いったいどうしたんだ」


 トミーは情けない顔で事情を話した。

「急激な時化に襲われて船が転覆したんだ。俺は運よく漂流物に掴まった。だが、親父は波に飲まれた」


 オリヴァーはトミーを怒った。

「何で、海賊なんかになったんだ」


「親父は死んだ。それに、もう魚は獲れない。生きて行くには海賊になるしかないと思ったんだよ」

「何て、馬鹿なことを考えたんだ」


 オリヴァーはユウトに向き直る。

「まことに身勝手な言い分だとわかっている。じゃが、トミーだけでも見逃してもらいたい」


 ユウトとしては、オリヴァーには世話になっている。なので見逃してもよかった。

 けれども、簡単に見逃すと、トミーはまた海賊に戻る気がした。


(トミーを海賊に戻れないようにしつつ、知りたい情報を聞き出すのがベストだな)


「よし、見逃してもいいです。ただし、条件があります。なぜ、海賊たちがバナナ・チップスを欲しがっているか、教えるんだ」


 トミーの顔が青くなる。

「言えないよ。いったら俺は殺されちまう」


 冒険者が凄む。

「ユウトさん、何かこいつ、温いセリフをほざいていますよ。ここで殺しましょう」


 オリヴァーがすかさず中に入る。

「待ってくれ、ユウト。トミーには海賊を辞めさせる。村に戻ったら街に働きに出すから、命は取らんでくれ」


「生きるか死ぬかを決めるのはトミーです。さあ、どうする? 打ち明けて生きるか、それとも海賊として死ぬか、すきなほうを選べ」


 冒険者が短剣を抜く。

 トミーは覚悟して話し出した。


「ギガロドンだ。ギガロドンを誘き出すために甘い物が必要なんだ。ギガロドンは甘味に惹かれて海上に出てくる」


 レジェンド・モンスターを倒せれば、途方もない大金が手に入る。

 とはいっても、海賊たちはレジェンド・モンスターを狩ると思えない。


「海賊はギガロドンを退治するつもりなのか?」

「違う。ギガロドンの住処の海底には、宝が眠る洞窟への入口があるんだ」


「なるほど。海賊たちはギガロドンをバナナ・チップスで海面に誘い出して、いない間に海底洞窟に行くつもりなんだな」


「そうだよ。ただ、砂糖は高く付く。だから、安い干し果物が大量に必要だったんだ」

 水樹もトミーの説明に納得した。


「バナナ・チップスは軽いし、甘い。量が手に入って安いから、狙い目だったのね」

 トミーはしょんぼりした顔で頷く。


「よし、約束通り、トミーは見逃す。海賊たちが乗ってきた漁船の一掃を使い、村まで帰るといい。後始末は自分でするんだぞ」


 トミーの肩の治療をする。トミーを海賊が乗ってきた漁船に乗せた。

 トミーは村に向かって漁船を走らせた。


 夜通し魚舟を走らせて、海賊島に向かう。朝には海賊島に着いた。

 近くにいた海賊に声を懸ける。


「元親さんに頼まれた品物を持ってきた。元親さんに会いたい」

「待ってな」と海賊はぶっきらぼうに答える。


 ほどなくして、ヴィクターが手下を連れて現れた。

「約束のバナナ・チップスです。荷馬車二台分ある。買い取ってください」


 ヴィクターが検品して手下に指示を出す。

「よし、野郎ども。バナナ・チップスが届いた。倉庫に運んでくれ」


「へい」と海賊たちが大八車を持ってきてバナナ・チップスを積む。

 ヴィクターが前回と同じ大きさの袋を二つ渡してきた。


 中身を確認すると金貨だった。リュックに金貨をしまう。

 ヴィクターが愛想よく聞いて来る。


「どうだ? バナナ・チップスは儲かるだろう? まだ運べるか?」

「いや、生産者からしばらく売れないと断られた。海賊と取引している事実がばれたらしい」


「そりゃ、残念だ。だが、何かの縁でまたバナナ・チップスが入荷する事態があれば声を懸けてくれ。値上がりは、まだ続くかもしれないからな」


「また、機会があったらね」

 ユウトはヴィクターと別れる。帰りは襲撃に遭わずシモン村に帰れた。


 冒険者と漁師二人に、まず金を払う。残金からオリヴァーと水樹に報酬を払った。

 水樹と別れて、荷馬車をラザディンの街に返してレンタル料を払う。


 火竜の心臓を購入するのに十分な金貨が残った。

 オークションを覗く。だが、残念ながら出品はなかったので、待ちになった。


 バナナ商会に出向く。水樹はまだ帰ってきていないので、団長室を訪ねる。

「団長。バナナ・チップスの値上がり情報の詳細を突き止めました」


 ライアンは書類を読んでいた。

「そうか、よかったな」とライアンの態度は素っ気ない。


「バナナ・チップスはレジェンド・モンスターのギガロドンを誘き出すのに使えるそうです。ギガロドンを討伐しようとすれば値は上がります」


 ライアンが書類から顔を上げた。ライアンはユウトの言葉に興味を示していた。

「詳しく聞かせてもらおうか」


 ユウトはトミーとの会話は教えた。

 ライアンが眉間に皺を寄せ、考え込む。


「有益な情報だな。さっそく、伝説を狩る者にも教えてやるか。ご苦労だったな」


(バナナ・チップスの値上がり情報も提供できた。ライアン団長との関係も修復できた。あとは、オークションを毎日、覗いて、火竜の心臓の出品を待つだけだな)


 だが、火竜の心臓の出品は一週間も待っても、なかった。

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