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第二十一話 竜宮牡蠣の入手

 ユウトは困った。海竜の牡蠣を入手する方法も困難だが、海竜は珍しいモンスターだった。そうそう簡単に見つかるモンスターでもない。


 だが、ここで一つ当てがあった、ギガロドンだ。

 ギガロドンはニンゴーナ島の湾の中にいる。


 あれだけ大きな生き物なら、牡蠣の一つも付着していそうな気もする。

 目標をギガロドンにするとなると、軍艦を借りての討伐は有り得なかった。


 なにせ、相手は百二十m級の化け物。六十五m級の軍艦の一隻や二隻では勝てない。

 ギガロドンにこっそり近づき、体に付着した牡蠣を外す。危ないようにも思える。


 されど、逆にそこまで大きいのなら、ユウトくらいなら目に入らない気もする。

 水樹と一度、別れてギガロドンについても調べた。


 ギガロドンは伝説に出てくる怪物で、人魚の守り神だった。人魚の歌が好きで、人魚が歌うと、海面に出てきて歌を聞く。とはいっても、人魚がどんな歌を歌っていたのかは、わからなかった。


 冒険者の酒場で吟遊詩人に銀貨を渡して尋ねる。

「ギガロドンが好んだ歌って、どんな歌だか記録にありますか?」


 吟遊詩人は銀貨を受け取り、冴えない顔で教えてくれた。

「わかりません。記録にはないですね。歌の部分だけは、私たち吟遊詩人の自作です」


 バナナ商会で水樹と合流する。

「わかった情報だけど――」と水樹が語った情報は、ユウトが入手したものと同じだった。


「歌がわかれば、いいんだけどな」

 水樹が明るい顔で提案する。


「ねえ、ユウト。ひょっとして、歌って何でもいいのかもしれないわよ」

「つまり、歌い手の力量が重要なの?」


「そうだと思う」

「なら、危険な仕事になるけど、歌い手を探して、お願いしてみるか」


 水樹はユウトの背を叩いて、自慢する。

「何、水臭い話をしているのよ。私が歌うわよ。島国の民謡なら歌えるわ」


「でも、危険だよ」

 水樹はちょっぴり怒った顔で意見する。


「仲間でしょう。それとも、私じゃ、不満なの?」

 不満なわけはない。


「わかった。お願いするよ」

 梓が申し訳なさそうな顔で言い添える。


「私も従いていきたかったけど、副長と一緒に仕事をしなければいけないからな」

 ガイウスも詫びた。


「副長の立場上、どうしてもバナナ商会の仕事を優先しなければいけない。だから、俺も行けない」

「いいですよ。俺の硯の問題ですから、水樹さんと二人で行ってきます」


 魔術師ギルドに行く。水中で呼吸できる魔法薬と、水圧に強くなる魔法薬を買う。

 シモン村に行って、オリヴァーを探した。オリヴァーは網の手入れをしていた。


「オリヴァーさん、また船を出して欲しいんですが、お願いできますか」

 オリヴァーは、むすっとした顔をしていた


「何じゃ? また秋刀魚を獲りに行こうと考えておるんか? じゃが、無駄じゃぞ。もう秋刀魚は、いなくなってしまった」


「いえ、ニンゴーナ島の湾内の調査に行きたいんです」

 ギガロドンが目当てだとは隠した。


「ニンゴーナ湾の調査じゃと? 変わった場所に行きたがる者じゃな。冒険者なんてそんなものか」


「ニンゴーナ島で下ろしてくれればいいです。それで、翌日に迎えに来てください。調査を続けるなら、次の日にまた来てくれればいいです。日数は三日でお願いします」


「さっぱり魚が獲れんからな。儂は金が貰えるなら、舟を出す。それだけじゃ。それで、いつからじゃ?」


 その日は曇っていて風も強かった。

「今日は天気が悪いので、明朝からお願いします」


 食料を買い込み、長さ八十㎝幅四十㎝ほどの木の板を買う。

 明朝に備える。明日は晴れていて波も穏やかだった。


 ニンゴーナ島に向けて舟が出る。島が見えてきた。

 ユウトは水樹の右手に『魚群』、左手に『探知』と書く。


 水樹が両手で目を覆う。

「どう? 何か見える?」


「湾内の下に微かに光が見えるわ。ギガロドンは沈んでいるようね」

「よし、とりあえず、島に上陸しよう」


 オリヴァーが渋い顔をして意見する。

「ギガロドンなんて、いないと思うがのう」


 湾の南端の海と湾を繋ぐ海峡の近くで、舟を停める。

 荷物と水と食料を持って下りた。


 オリヴァーが帰る前に教えてくれた。


「島には危険な獣はおらん。危険はない。山の麓には泉がある。だから。水が必要なら探せばいい。それじゃあ、また明日の昼頃に来るからのう」


 水も食料も充分なので、山を探索する必要はないように思えた。

 湾内がよく見える浜辺にテントを張る。


 水樹が手を顔から離して訊いてくる

「さて、これから、どうするの?」


「水中深く潜るのは最後の手段にしたい。ギガロドンが浮くのを待ちたい」

「なら、しばらく待ちになるわね」


「長くかかりそうだけど、頼める」

「いいわよ。そのつもりで来たから?」


 水樹と他愛のない話をして、時間を潰す。優しく楽しい時間が過ぎる。

 ギガロドンがその日は浮上せず、夜になった。


 水樹には見張りがある。ユウトが芋を海水で煮て料理をした。

 夜もギガロドンを見張るが、動きがなかった。暇なので水樹と話をする。


 水樹はよく喋り、よく笑った。ユウトは水樹が笑うのが嬉しかった。

 つい、ギガロドンの存在なぞ、忘れそうになる。


 いいだけ話した。夜も遅くなったので寝ようとなる。

 危険はないと思うが、見知らぬ島なので、交互に眠った。


 朝になり、昨日に煮た芋を食べる。

 水樹の両手に魔法を掛けて、ギガロドンを待つ。だが、動きはない。


 昼よりだいぶ前に、オリヴァーがやって来た。

「ほら、弁当を持ってきてやった。こいつはサービスだ」


 パンにチーズや肉を挟んだだけの簡単な食事だが有難かった。

「お気遣い感謝します」


 オリヴァーと別れる。楽しい話の時間になったと思うと、水樹が声を上げる。

「ギガロドンが動いたわ。海面に浮上してくる」


「よし、チャンスが来た。僕が行って牡蠣を取ってくる」

 腰から魚籠を下げて、短剣を()く。


 木の板に『浮遊』の文字を書く。木の板を海面に置いた。

 木の板は海面から十㎝ほど上空に浮く。木の板はユウトが乗っても沈まない。


 ユウトは左足の裏にも浮遊と書く。海面に左足を乗せる。

 足の裏が海面より十㎝浮いた。ユウトは右足を木の板に乗せて左足で海面を蹴った。


 木の板がすいすいと五ノットで海面を進んで行く。

 湾内に目をやる。海底でギガロドンが動くせいか、不自然な波が立っていた。


 ユウトは湾から海に繋がる海峡の上まで移動した。

 水中呼吸と水圧に耐性を付ける魔法薬を飲んだ。


 左足の裏の字を消す。水中に飛び込んで潜っていく。水深は四十m。

 大きな物体が海峡に向かって進んでくる姿が見えた。


 あまりにも大きい姿は、恐ろしくもあった。

 勇気を奮い立たせる。ギガロドンに近付こうとした。


 だが、ギガロドンが起こす水流で体が押し流される。

(これは、止まってくれないと、近づけないぞ。どうする?)


 ユウトが困った時、ギガロドンの動きが止まった。

 理由はわからない。だが、チャンスだと思った。全力で泳ぐ。


 潜水してギガロドンの体に張り付く。

 光がぎりぎり届く中で、手探りで貝を探す。貝を短剣で剥がす。


 暗いのでなかなか上手くいかない。それでも、どうにか八つほど貝を剥がした。

 もっと、獲ろうとした。だが、ギガロドンが動き出した。


 ギガロドンが起こす水流で流されそうになる。

 海中で体が転げ回った。ギガロドンが海峡から海に出て行く。


 体勢を立て直して浮上する。海上に出ると、水樹がよく通る声で歌っていた。

(ギガロドンのやつ、水樹さんの歌で動きを止めていたのか?)


 海中にいたユウトには、水樹の歌は聞こえなかった。

 ギガロドンには特殊な聴覚があったと考えてよかった。


 木の板に掴まってバタ足で島まで戻る。

 水樹が歌を止めて、心配した顔で訊いてくる。


「どうだった? 竜宮牡蠣は獲れた?」

「わからない。とりあえず貝は獲ってきた」


 確認すると、牡蠣は二つしか入っていなかった。残りは別の種類の貝だった。

 獲れた牡蠣は海水につけて、死なないようにしておく。


 湾内に漁船が入ってくる光景が見えた。船は黒色なので、オリヴァーの舟ではない。

 漁船は湾の中央で停まる。船は漁をしている風には見えなかった。


(おかしいな? 漁師たちの間では、湾内に魚がいないのが常識のはずだ)

 黒い漁船は一時間ほど、湾内をうろうろしてから出て行った。


「何だろう、あの漁船? 海底の調査かな?」

「さあ、わからないわね」


 翌日、オリヴァーが迎えに来たのでシモン村に帰った。

 オリヴァーに金を払ってから、ラザディンの街に戻った。


 ジャクリーンにギガロドンの体に付着していた牡蠣をフライにして食べさせた。

 ジャクリーンは顔を綻ばせて満足する。


「これは、とても美味しい牡蠣ではなく、とてもとても美味しい牡蠣ね。ちょっと量が少ないわ。でも、合格にしてあげるわ。これで残るお題は、あと二つよ」

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