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第二十話 妖精のお題

 ククルーカン山脈の転移門にユウト、水樹、ライアン、ガイウス、梓は来ていた。

 辺りにはサイクロプスを倒さんとする二百名近い冒険者が集まっていた。


 ガイウスが真剣な表情でユウトに告げる。

「テリーたちはまだ戻れない。バナナ商会は五名での参加になる。俺たちは固まって、泥人形と戦うから、(はぐ)れるなよ」


「わかりました。逸れないように気を付けます」

 ライアンも真剣な顔で水樹に確認する。


「水樹、秘儀石は使えるか? 伝説を狩る者からの要請だ。呪いの雨が降ったら、バナナ商会の秘儀石で解除してほしい、とな。できるか?」


 水樹が元気に答える。

「任せてください。使用可能です」


 ユウトの秘儀石はまだ再使用が可能になっていなかった。

 ユウトはバナナ商会の武具に強化魔法を掛ける。


 梓が声を上げる。

「伝説を狩る者が、移動を開始しました」


 転移門の傍に直径十mの魔法陣が設置されていた。

 魔法陣に乗った冒険者は次々と空を飛んで行く。


 ライアンが号令を懸ける。

「よし、バナナ商会、出撃するぞ」


 他のメンバーが次々と魔法陣に乗っていく。

 ユウトも魔法陣に乗った。浮遊感のあと、体が高速で飛んで行く。


 十分で減速して、盆地に降り立つ。

 盆地の北側からサイクロプスが歩いてくる。


 南側からは泥のガーディアンが湧き出していた。

 サイクロプスと戦う部隊は北側に向かう。


 泥人形と戦う部隊はサイクロプスと戦う部隊の背後を守る。

 戦いが開始される。泥人形の弱さは変わらなかった。ユウトも剣で戦った。


 戦いは前回と同様に順調だった。呪いの冷たい雨が降ってきた。

 水樹が手を天に掲げて叫ぶ。


「献身を司る秘儀石よ。我の掌中に現れて、奇跡を起こせ」

 水樹の掌より現れた秘儀石が天高く飛ぶ。数秒後、空が明るく光った。


 呪いの雨が止み、暖かな光が降り注ぐ。


(呪いの雨が解除された。これで泥人形に押し負ける事態にはならない。だが、このままで終わるレジェンド・モンスターだとは思えない)


 サイクロプスが黒く光った。

 サイクロプスが黒い光の塊になって、猛スピードで空を飛ぶ。


「な、逃げやがった」

 追わなければ、サイクロプスは受けたダメージを回復する。


 ライアンから指示が飛ぶ。

「バナナ商会は待機の指示が出た。この場で待機だ」


 サイクロプスが消えた後の盆地では、泥人形の湧きが限りなく遅い。

 待機していても、問題なさそうだった。


 捜索部隊は十人が一塊になって空を飛んで行く。

 光は五つ飛んで行ったので、五十人が現場から消えた。


 百五十人も残ったら、泥人形に対処するには充分すぎる人数だった。

 バナナ商会のメンバーは少人数かつ待機なので、休息する。


 梓が明るい顔で話題を振る。


「サイクロプスの奴は逃げ出しましたね。レジェンド・モンスターでも逃げる奴っているんですね」

ガイウスが普通に応じる。


「俺は何度か、他のレジェンド・モンスターと戦った経験がある。だが、逃げるレジェンド・モンスターは初めてだな」


 ユウトも逃げる場面を初めて見たので、相槌を打つ。

「僕も逃げるレジェンド・モンスターなんて聞いた覚えがないです」


 ライアンが知的な顔で会話に加わる。

「サイクロプスにとって、逃げる、が特異的な行動なら、何か意味があるはずだ。安心はできない」


 水樹もライアンに同意した


「逃げている以上は、攻略隊が優勢。このまま押し切れる、と普通は考えます。でも、そう上手くいかないのが、レジェンド・モンスター戦なのよね」


 その後、二十分ほど雑談する。

 ライアンが呼ばれて会話の輪から出て行く。ライアンは十分ほどで戻ってきた。


 ライアンの表情は、少しばかり曇っていた。

「今日のレジェンド・モンスター戦は中止だ」


 水樹が目をぱちくりさせながら訊く

「サイクロプスが見つからなかったんですか?」


 ライアンが澄ました顔で教えてくれた。


「サイクロプスは見つかった。だが、いた場所は魔法が使えないエリアだ。伝説を狩る者は、装備が不足していると判断した」


 ガイウスが納得した顔で告げる。


「ククルーカン山脈には他にも、武器でダメージが与えられないエリア、スクロールや魔法の道具が使えないエリアもある」


 梓も納得がいった顔をして話した。


「サイクロプスの奴は、ガーディアンが湧くエリア、魔法禁止エリア、武器でダメージが与えられないエリア、魔法の道具禁止エリア、をどんどん逃げ回るんですね」


 ユウトも伝説を狩る者の判断は理解できた。

「それなら、各個人が装備を調えて道具を持ち込まないと。攻略は難しいな」


 ライアンが諦めた顔で締め括る。

「ユウトの言う通りだ。今日の戦いは終わりだ。バナナ商会は帰還する」


 伝説を狩る者の魔術師が設置した魔法陣に乗った。

 ククルーカン山脈の麓に行き、転移門でバナナ商会本部に行った。


 本部に着くと、ジャクリーンが話し掛けてくる。

「残念ながら、レジェンド・モンスターを倒せなかったようね」


「でも、攻略の糸口は掴めたよ。次は、もっと進める」

 ライアンが落ち着いた様子で教えてくれた。


「準備期間も入れれば、次のサイクロプス戦だが、一週間はないぞ」

「一週間は暇か。スクロールでも作るかな」


 ジャクリーンが微笑んで促す。

「待ち時間が一週間あるなら、二つ目のお題に挑戦する? お題の達成は順不同でもいいのよ」


「そうなんだ。なら、二つ目と三つ目のお題を、先に教えてくれるかな」

「二つ目はそうね。とても美味しい牡蠣フライが食べたいわ。三つめは火竜の心臓を持ってきて」


 火竜は希少モンスターだが、目撃例は、けっこう多い。また、火竜の心臓は高級ポーションや一部武具の素材にもなる。なので、オークションでよく売りに出ていた。


(火竜の心臓は後回しだな。まずは、簡単な牡蠣フライからクリアーするか)

「待っていて。牡蠣を買ってきて、牡蠣フライを作るよ」


「あたし、食べたい」と水樹と梓が反応した。


「お世話になっているから、いいですよ。なら、牡蠣を買って来ます。他の物を用意しておいてください」


 ユウトは魚市場に行く前に、オークションによって火竜の心臓の出品がないか調べる。


 一週間に一つくらい出品されていた。価格は名人が打った高級な魔法の剣一振りとほぼ同額だった。


(いい値段がするな。でも、火竜は倒すとなると、危険だ。オークションで買ったほうがいいかな。金策はあとで考えよう)


 魚市場に行った。魚市場に魚はなかったが、貝類は置いてあった。

 それでも、海産物全体の値が上がっているのか、牡蠣は値上がりしていた。


 ユウトはガイウス、ライアン、イザベラも食べることを考慮する。箱で牡蠣を買った。

 左手はまだ思うように力が思うように入らない。落とさないように注意する。


 落とさずに牡蠣を持って帰ると、梓と水樹がエプロン姿で待っていた。

 水樹とユウトが牡蠣の殻を剥き、梓が衣を付けて揚げていく。


 ガイウスはその横でタルタルソースを作った。

 完成したところでジャクリーンに渡す。


 ジャクリーンは小さな体にも拘わらず牡蠣フライを三つ食べた。


「この牡蠣フライは、美味しいわ。でも、お題はとても美味しい牡蠣フライだから、クリアーならずね」


 梓が牡蠣フライを食べて、不思議そうな意見をする。

「充分に美味しいと思いますけど、何がいけないんですかね?」


 ガイウスも牡蠣を抓んで、満足そうな顔をする。

「俺の作ったソースに問題はない。牡蠣も新鮮だ。充分に美味いぞ」


 ユウトは困った。

「僕も充分に美味いと思うな。これ以上は難しいな」


 水樹だけ反応が違った。水樹は思い当ったのか、少し暗めの顔で切り出す。

「ねえ、ジャクリーンが指定する、とても美味しい牡蠣って、竜宮牡蠣かも」


 聞いた覚えのない牡蠣だった。

「何、それ? 水樹さん、もっと詳しく教えて」


「海竜の体に付着する牡蠣よ。海竜の体に付着する牡蠣は、竜宮牡蠣と呼ばれて王侯貴族が珍重するのよ。味も、普通の牡蠣の三倍は美味いと噂されているわ」


「何、それ? そんなの、採るのが、大変だよ。でも、待てよ、難易度はお題三つで変わらないなら、正解は竜宮牡蠣かもなあ」


 ガイウスが考え込む。


「水樹の話が本当なら、軍艦を出して海竜を狩る必要があるぞ。軍艦はバナナ商会では保有していない。団長の(つて)を辿れば借りられるかもしれんが、かなりの出費だぞ」


 梓が軽い感じで口を出す。


「狩るなら軍艦が必要でしょうね。だけど、こっそり近づいて牡蠣だけ体から剥がすって作戦もありますよ。危険でしょうけど」


 ユウトは迷った。

「軍艦を借りて狩る。危険を冒して、こっそり近づく。さて、正解は、どっちだろう?」


 牡蠣フライを食べ終わったが、結論は出なかった。

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