第十九話 妖精と三つの願い
怪しい杖はガイウスが倉庫屋に預けた。ガイウスと一緒に団長室に行く。
「団長、ゴブリン退治をしていたら宝箱が手に入りました」
ライアンは、じろじろと宝箱を観察する。
「一見すると、普通の宝箱か、宝石箱のようだな」
「でも、宝箱は僕の罠解除にも開錠の魔法にも、反応しないんです」
ライアンは思案する。
「なるほど。ゴブリンの持ち物を入れてあるにしては、厳重過ぎるな」
がちゃ、と宝箱から音がした。三人は顔を見合わせる。
「鍵が開いたようですね」
ガイウスが真剣な顔をして尋ねる。
「そのようだな。どうする、開けてみるか?」
「僕が開けます。万一の危険もあるので、団長と副長は外に出ていてください」
ライアンは微塵も心配した様子もなく意見する。
「でも、ユウトの罠解除の魔法には、反応しなかったんだろう」
「僕の魔法とて、絶対ではないです」
ぎいーっ、と音がして宝箱が勝手に開いた。
中から、背中に羽を生やした若い女性の妖精が出てきた。
妖精の身長は二十五㎝。顔は丸顔で、緑色の髪を肩まで伸ばしていた。
服装はピンクのワンピースを着て、ガラスの靴を履いていた。
妖精は伸びをして、声を出す。
「やっと出られたわ。さて、私を出してくれた幸運な人物はどこの誰かしら?」
ライアンとガイウスがユウトを見る。
妖精はユウトの顔の付近まで飛び上がる。
「あら、あなたが出してくれたの。私は幸運の妖精のジャクリーンよ」
「初めまして、ユウトです」
ジャクリーンは胸を張って告げる。
「幸運な冒険者ユウトは私の願いを三つ、叶えることができます」
「ちょっと待って。僕の願いが三つ叶うんじゃなくて、僕がジャクリーンの願いを三つ叶えるの?」
ジャクリーンは呆れた顔で言い放つ。
「貴方はお馬鹿さんなの? そう言ったでしょ」
「でも、ジャクリーンの願いを僕が三つ聞くメリットって、あるのかな?」
当然の疑問だった。だが、当のジャクリーンは、気にしない。
「馬鹿な上に、せっかちさんなのね。メリットは、これから教えようと思っていたところよ。あるに決まっているでしょ」
ちょっと興味が湧いた。
(何が貰えるんだろう? 何か良い物の予感がする)
「馬鹿な上にせっかちで、ごめんね。それで、メリットって何?」
ジャクリーンが得意げに語る。
「私の願いを三つ聞いてくれたら、クラフト作業時の成功率を三十%、上げてあげるわ。えへん」
「それって、成功率が三%の場合、三十三%になるの? それとも三・九%になるの?」
前者と後者では大きく意味合いが違うので確認した。
ジャクリーンは目を大きく開いて怒った。
「ユウトは計算もできないの? 正解は三十三%に決まっているでしょ。成功率が七十%以上の場合は九十九%が限界だけどね」
(何だと? それは希少であればなあるほど、凄い効果だ)
「それ、凄い幸運ですよね?」
ジャクリーンは、ぷんすかと怒った。
「もう、本当にユウトは頭が悪いわね。だから、幸運の妖精って名乗っているでしょう」
「もし、ですよ、クラスト成功率三%の黒霊石があったとしますね」
「あったとするわよ。それが何?」
「成功時に三十%の確率で大成功して大師の硯になる。なら、ジャクリーンの力を使えば、黒霊石は三十三%の三十%で約十%の確率で大師の硯になるんですか?」
ジャクリーンが軽く暗算する。
「計算は合っているわよ」
(確率十%で大師の硯か。これ行けるかな。いや、待て。世の中、そんなに甘くないぞ。とてつもない難しいお題が出る。ないしは、超高級品を要求されるかもしれない)
「ちなみに、お題の難易度って、どれくらいですかね?」
ジャクリーンは素っ気なく告げる。
「だいたい、三つとも同じくらいよ。後に行くほどとても困難になる状況にはないわ。ただし、二つクリアーしても最後をクリアーできないと三十%にはならないわ」
「その場合は二十%ですか?」
ジャクリーンは怒った顔でなじった。
「馬鹿ね。途中リタイアは零よ。でも、途中でリタイアしても、ペナルティはないわよ」
(途中放棄は零か。なおさら、お題の中身が気になるな。でも、ペナルティなしなら挑戦するだけ、するか)
「最初のお題は何ですか?」
「レジェンド・モンスターの討伐よ」
「まさか、一人で!」
ジャクリーン呆れた顔で馬鹿にした。
「貴方は本当に頭が可哀想な子ね。一人でレジェンド・モンスターを倒せるわけないでしょう。人はいくら動員してもいいわ。攻略の主催者じゃなくてもいいのよ」
「つまり、参加して、最後まで立っていられれば良い?」
「倒した瞬間にレジェンド・モンスターの傍にいればいいのよ」
「簡単ではないが、それほど難しくもないな。難易度はわかりました。これ、三つ行けそうだな」
ユウトは、ここでジャクリーンの能力を使う権利を使ってもいいか、迷った。
ガイウスを見る。ガイウスは気前よく認めてくれた。
「いいぞ。入団祝いだ。お前の好きにしろ」
「ありがとうございます。実は大師の硯と呼ばれる超高級の硯になる可能性がある黒霊石を持っているんです」
ガイウスの表情は柔らかい。
「そうか。なら、なおさら譲ってやるよ」
ここでライアンが何気ない態度で訊いてくる。
「ところで、ユウト。実は、サイクロプス戦の援軍要請が来ている。主催は伝説を狩る者だ。次で倒せる保証はないが、参加するか?」
「やります。いつ倒せるかわかりませんが、参加しないと、可能性は零です」
こうして、ユウトのサイクロプス戦第二戦が始まる。




