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第十八話 ゴブリンとアヒル

 村は五十軒ほどの家が集まる小さなものだった。村は家が中央に密集している。

 家のある地域を畑が囲んでいた。


 家の近くを通る。家畜小屋にはアヒルが飼われていた。また、村には犬が何匹かいた。

 村長に挨拶しに行く。村長は壮年のがっしりした体格の男性だった。


 村長はユウトとガイウスを見ると、がっかりした。

(二人しかいないから、心細いんだな。当てが外れた顔だ)


「冒険者ギルドから派遣されました。いくつかお話をお聞きしたいんですが、いいですか?」

「いいとも、それで何が知りたいんだ。前に来た五人なら知らんぞ。出て行ってきりだ」


「ゴブリンを見た人の名前を挙げられますか?」

「それは、ジェフリーかチャーリーが見ているだろう」


「被害は野菜が盗まれただけですか? 家畜はどうですか? あと犬は?」

 村長は思い出しながら語る。


「家畜の被害は、ないな。あと、犬はこの村にいるが、被害はないぞ」

 ユウトは村でジェフリーとチャーリーを探して話を聞く。


「ゴブリンを見たって聞いたんですが、どれくらいの身長で、どんな装備をしていましたか?」

 詳しく話を聞くと、ジェフリーもチャーリーも実際には、ゴブリンを見ていなかった。


 夜に動く影らしきものを見たのでゴブリンなのだろうとの推測だった。

 足跡はあると説明するので、見せてもらう。足跡が残った畑はあった。


 足跡はたくさんあった。ゴブリンの足跡をガイウスが調べる。

「歩幅と足のサイズからして、ゴブリンのもので間違いない。数は四、いや五か」


(夜中に村人は出歩かない。でも、畑が見える位置に窓がある家は存在する。なのに、ゴブリンを見た人間が、誰もいない。巣があるのに盗みを働くゴブリンの数が五では少ない気がする)


「副長。ゴブリンが見えないって状況は、ありますかね?」

 ガイウスが不可解な顔をする。


「どうして、そんな話を思い付いた?」


「荷馬車の件ですよ。僕が気付くのに遅れる事態はあっても、副長が気付くのが遅れたのは、妙だと思いまして」


 ガイウスの表情は渋かった。

「俺だって完璧な人間じゃない。ミスをする」


「巣に近い場所にある村なのに、ゴブリンを実際に誰も見た覚えがないのも妙です」

「村人がゴブリンを危険に思うように、ゴブリンも村人を警戒しているんだろう」


「本当にそうでしょうか?」


「もし、ゴブリンが何らかの方法で見えなくなっているとする。なら、ゴブリンは堂々と村の中に入って来て家畜を奪う。人も殺す」


「副長の指摘ですがね。もしかして、犬やアヒルにはゴブリンが見えている。いや、わかるんだと思います。気付かれると、ゴブリンに掛けられている術が解けるんですよ」


 ガイウスはユウトの提案に後ろ向きだった。

「では何か? ガーガーと五月蠅(うるさ)く鳴くアヒルを連れて巣穴に行きたいのか?」


「不意打ちは捨てる状況になるでしょうか、駄目でしょうか?」

「駄目だと拒否したいところだな」


「では、副長の瞼に、見鬼の魔法を掛けさせてください。目を瞑れば、見えない相手が見えます」

 ガイウスは非常に嫌そうな顔をした。


「駄目だ。俺に勝手に魔法を掛けるな」

「では、アヒルを連れて行く状況を許してください」


 ガイウスは冷たく言い放った。

「なら、そうしろ。ただし、アヒルは不要になったら、捨てるからな」


 ユウトは金を払ってアヒルを借りる。

 ユウトはアヒルを抱えた。両手が塞がるが、止むを得ない。


 まだ、陽が高かったので、ゴブリンの巣穴に行く。

 ゴブリンが巣穴にしている洞窟が見えてくる。


 巣穴の前なのに、見張りがいなかった。

 ガイウスが怪訝な顔をする。


「妙だな。見張りがいないぞ」

「昼だから、夜行性のゴブリンは寝ているんですかね?」


「誰もいない入口を見張っていても仕方ない。行くぞ」

 慎重に入口の洞窟に近付いた。


 どうせ手が塞がるのなら、とユウトはアヒルに『光』と書く。

 アヒルが光って、照明器具の代わりとなった。


 ガイウスの鎚には『威力(いりょく)倍増(ばいぞう)』の魔法を書いておく。

 切り札として短剣に『呪殺(じゅさつ)()(とう)』と書いておく。


 洞窟は二人並んで通れるくらいの幅があった。

 高さはガイウスが鎚を振るうのには少々狭そうだった。


 洞窟を進んで行く。血と腐った肉の臭いがする。

(死の臭いだ)


 ユウトは、先に出た冒険者が生きていないと、心のどこかで思った。

 洞窟の先には開けた場所になっていた。


「静かだな」とガイウスが呟く。ユウトも同じ内容を考えていた。

「ガーガー」とアヒルが鳴く。


 さっきまで何もいなかった空間にゴブリンが六体ぬっと現れた。

 ガイウスが驚いたが、ゴブリンも驚いていた。


 先に正気に返ったのはガイウスだった。ガイウスが飛び出そうとする。

 ガイウスは地面にある足を引っ掛ける輪に気が付いた。ガイウスが罠を回避する。


 鎚でゴブリンを殴りつけた。ゴブリンは持っていた短剣でガードした。

 ガイウスの鎚は短剣をへし折り、骨を砕いた。まず、一体目のゴブリンが死ぬ。


 一対五なら勝てると思ったのか、ゴブリンはガイウスに殺到する。

 ガイウスは縦横無尽に鎚を振って、ゴブリンを撲殺した。


 戦いにならなかった。一分と掛からずにゴブリン六体の死体が転がる。

(さすがだな、ガイウス副長。見事な腕前だ)


 ガチョウは鳴き続けて暴れる。どうにか押さえつける。

 ガイウスが光を頼りに部屋の隅にあった死体を調べる。


「冒険者のものだな。識別票がある」

 光で照らすと、死体は四つあった。


「五人で来ていたから、ここで全滅したのなら、あと一つ、死体があるはずですけど」

 ガイウスが険しい顔で意見を述べる。


「ないな。でも、これで外から煙を入れて炙り出す手は、使えないな。生きていれば窒息させちまう」


 五人目が生きている可能性は、零に思えた。ここは煙で炙り出す作戦を使いたかった。

 だが、ガイウスがやりたくないと考えるのなら、無理はできない。


 洞窟を奥へと進む。ゴブリンとは、そのあと通路で三度に亘って戦闘した。

 襲撃前には、必ずガチョウが鳴いて知らせてくれる。


 ガチョウが鳴くと、ゴブリンは必ずびっくりしていた。


(ガチョウをゴブリンが恐れるとは思えない。やはり、何らかの幻術系の魔法があったな。魔法はガチョウの鳴き声で効果を失うんだ)


 奥の行き止まりの部屋に行く。

 汚いローブを着て怪しい杖を持ったゴブリンの呪術師がいた。


 ゴブリンの呪術師の傍らには、用心棒の大きなゴブリンがいる。

 さすがに助けが必要かと思った。アヒルを放して短剣を取る。


 ガイウスがゴブリンの用心棒に向かっていく。

 ゴブリンの呪術師は稲妻の魔法を唱えた。魔法はユウトに向かってきた。


 避けられない。ユウトは稲妻の魔法を受けた。だが、ほとんど痛くなかった。

(このゴブリンの呪術師、大して強くないな)


 ユウトは短剣を振り上げて、ゴブリンの呪術師に飛び掛かる。

 短剣がゴブリンの呪術師を掠めた。ゴブリンの呪術師の血が短剣に付着した。


 ゴブリンの呪術師が睡眠の魔法を唱える。だが、これも全く眠くならない。

 ユウトは短剣を手に、呪いの言葉を唱える。


 呪殺飛刀の文字が赤黒く輝く。短剣は飛んで、ゴブリンの呪術師の喉元に突き刺さった。

 ゴブリンの呪術師は倒れこみ、痙攣した。


 ガイウスを助けに行こうかと視線を向ける。

 ちょうど、ガイウスがゴブリンの用心棒の頭を叩き割る場面だった。


 ガイウスが、痙攣しているゴブリンの呪術師に止めを刺す。

「ゴブリンの駆除は、完了ですね」


 ガイウスが沈んだ顔で部屋の隅を指す。

「でも、助けられなかった」


 部屋の右隅に、五人目の犠牲者の姿があった。

 ガイウスが識別票を冒険者から回収する。


 ユウトは、アヒルを回収しようとした。アヒルが部屋の左隅で鳴いていた。

 不思議に思って、アヒルに近付く。今まで見えなかった宝箱が見えた。


 宝箱は容積が十ℓほどの、小さな金属製の箱だった。

(これは、また、意味ありげなものがあるね)


 宝箱に『罠解除』と書いてみる。だが反応がない。『開錠』と書いても反応がない。

(罠や鍵は、ない。または、超高度な罠や鍵があるのか?)


 ゴブリンの呪術師が持っていた杖を手に、ガイウスが声を懸けてくる。

「どうした、ユウト? 何かあったのか?」


「意味ありげな宝箱がありました。罠も鍵もないようですけど、開きません」

「特殊な宝箱か。よし、バナナ商会に持っていこう。プロに金を払って開けてもらおう」


 ユウトは村に寄ってアヒルを返す。村長にゴブリンを退治したと報告した。

 村長はいたく喜んでくれた。


 怪しい杖と開かない宝箱を持って、ユウトはラザディンの街に帰還した。

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