猫魔人
「ユースケ! なにを遊んでいるんだ」
「遊んでねぇよ! このおっさんが絡んできたんだよ! テンプレだよテンプレ!」
「訳が分からん。どういう事だ?」
「このおっさんがいきなりフェミリアに触ってきたんだよ!」
ユースケが言い争っていた男を指差す。
三十代くらいだろうか。
モリモリと膨れ上がった筋肉を革鎧で包み込んだ、厳つい人相のスキンヘッドの男だった。
「なにが悪いってんだ!!」
「悪いに決まってるだろ!? いきなり女の子の頭撫でるとか、どうかしてるぜ!?」
ん? 触られたのは頭なのか?
胸や尻ではなく?
「うるせぇ! そいつは奴隷だろ! 別に構わねぇじゃねえか!」
「奴隷だって人間だろ!! フェミリアは嫌がっていたじゃないか!! そんなことも分からないのかよこのハゲが!!」
「だ、誰がハゲだ!! この頭は剃っとるんじゃい!! バーカ! バーカ! バーカ!!」
「うっせぇ! ハゲ! ハゲ! ハゲ!!」
「ハゲハゲうるせぇぞ糞ガキ!! 表出ろや!!」
ユースケと男の争いは白熱して、ついに喧嘩まで発展してしまったようだ。
それにしても、語彙力低すぎないか二人とも。
「おい、あの猫狂いのデモルトが決闘するみたいだぞ!」
「なにっ!? あの迷い猫探しのデモルトがか!?」
「猫魔人デモルトの決闘なら見るっきゃないぜ!」
なにやら外野が騒がしい。
猫狂いだの猫魔人だの、猫に関する二つ名ばかりだな。
それにしても、迷い猫探しの二つ名はどうかと思うぞ。
本当に強いのか? あのデモルトって奴は?
「ふんっ。躾の成ってないガキに分からせてやるのも、大人の仕事だな」
「うっさいハゲ! 躾の成ってないのはどっちだよ!」
外に出たユースケとデモルトは、五メートル程離れて対峙する。
その周りには、おれを始め、多くの野次馬がいた。
「いくぞ! 猫魔人と言われる実力を見せてやる! 召喚!」
っ!? あの男、召喚師か!?
おれが悪魔を召喚出来るように、この世界の人間もまた召喚能力を持つ者がいる。
正確に言えば、闇属性の中級以上の魔術だから、闇属性魔術師とも言えるが。
デモルトという奴、あんな見た目で魔術師だったとは。
かなり意外だな。
デモルトが召喚魔術を使うと虚空に穴が現れ、そこから一匹の魔物が出てくる。
猫の魔物、戦猫だ。
「あぁん! ロベルトちゃん可愛いでちゅねぇー! 今日も良い毛並みをしてまちゅ! んーペロペロ!」
なんだ!?
デモルトは召喚したウォーキャットに飛びつき、その顔を舐め回す。
見ていてかなり気持ち悪い。
ユースケはデモルトのその姿に驚愕して、固まってしまっている。
なにやっているんだ。早くぶっ飛ばせよ。
「んーロベルトちゃん! とってもキュートでちゅよぉー! 世界で一番可愛いでちゅねぇー!」
「不快だ」
『ファーニング』
おれは手のひらをデモルトに向け、炎の魔法を放った。




