出発
翌日、おれらは早朝から昨日の貸し馬車の店まで来ていた。
「おはよう。今日からよろしく頼む」
「おぉ、ちゃんと遅れずに来たな。まずは自己紹介させて貰おう。おれはお前さんらの乗る馬車の御者をするクルドだ。それでこっちが護衛の……」
「アイサンだ。護衛の隊長をしている。有事の際にはこちらの指示に従ってもらうからそのつもりでいてくれ」
クルドは昨日話していた男だ。
この商売のオーナー兼御者ということか。
アイサンと名乗ったのは、鎧に身を包んだ少し神経質そうな四十代くらいの男だ。
騎士崩れかなにかだろうか?
姿勢や佇まいが、冒険者のそれとは違うように感じる。
「相変わらずリーダーは堅苦しいな! 今までそんな危ない状況になることなんかなかっただろ? あ、おれはオリゴってんだ。よろしくな!」
オリゴは斥候だろうか? 身軽な装備をしている。
三十代前半の明るい男だ。
「ハンファだ。御者を兼ねている。よろしく」
「アイリスと言います。よろしくお願いします!」
「セリーヌよ。よろしくね」
ハンファ、アイリス、セリーヌは、それぞれ二十代後半の男、二十歳くらいの女、二十代後半の女だ。
無口そうなハンファは剣士だろう。
腰に長剣を差している。
気弱そうなアイリスと妖麗なセリーヌは、それぞれ杖を持っている。
魔術師か回復師だろう。
おっと、ユースケがセリーヌを見て鼻の下を伸ばしている。
こういう女もタイプなのか。
というかチラチラとアイリスの方も見ているから、節操無しなだけか?
あ、フェミリアに叩かれた。
「それで、そちらさんも自己紹介してくれないか?」
そうだった。
馬鹿の観察はまた今度にしよう。
「アルグラウン・フォングラウスだ。アルと呼んでくれ」
「ユウスケ・フジキだ。よろしくな!」
「フェミリア」
「アルとユースケね。了解。それで金なんだが、前金で大金貨三枚、残りは着いてからだ」
クルドがおれとユースケの名を呼ぶ。
フェミリアは奴隷だから覚える必要はないってことか。
まぁ、これが奴隷に対する一般的な態度だよな。
おれは腰にぶら下げている金を入れた袋から、大金貨三枚を取り出し、クルドに渡す。
「確かに受け取ったぜ。ところでお前さん達、荷物が少ないように見えるが、ちゃんと用意してきたんだろうな? おれ達の食料は分けてやれんぞ?」
「あぁ、それなら大丈夫だ。おれ達はアイテムバッグ持ちなんでな」
そう言うと、クルド他護衛の者たちが驚いたような顔をした。
まぁ、珍しい物だしな。
だが、一緒に長い間旅をするんだし、隠し通す事は出来ないだろうから、初めから打ち明けていた方がいいだろう。
ないとは思うが、もし盗もうとするなら徹底的に抗戦するまでだ。
それから、一言二言言葉を交わし、出発する事になった。
結局王都には一日しか滞在出来なかったな。
まぁ、それもいいだろう。
旅から旅へ。
一か所に留まらないのも、なんとなく冒険者らしい。




