増長
おれとユースケは、群れの主、ゴブリンキングの元へと辿り着いた。
「やべぇな、こいつ……」
ユースケの声が震えている。
それもそうだろう。
ゴブリンキング、こいつは素人が見ても分かる程に、強者のオーラともいうべきものが出ている。
黒光りする肌。
筋骨隆々のゴブリンとは思えない、二メートルはあろう背丈。
悪魔のような二本の巻き角と天を貫くが如き立派な一本の角。
そして、自分の背丈と同じ程の長さの大剣を軽々と片手で持っている。
そんな化け物が牙を剥き出しにして、こちらを見て嗤っているのだ。
恐怖を感じても仕方ないだろう。
内心おれも、怖い。
勢いでここまで来たが、本当にこんな化け物に勝てるのだろうか?
思わず視線を逸らしそうになるが、目に力を入れぐっと耐える。
その時ふと、目に入ったものがあった。
「ユースケ、あれ……」
ゴブリンキングの後方には、女たちが捕らえられ、一塊に集められていた。
その中に見知った顔を見つけたのだ。
「っ!? フェミリア!!」
そう。ユースケが解放した獣人奴隷のフェミリアだ。
「くそっ! 氷投槍!」
捕らえられているフェミリアを見て焦れてしまったのだろう。
ユースケの魔術から、おれ達とゴブリンキンの戦いは始まった。
一メートル程の氷の礫である氷投槍を、ゴブリンキングは大剣で易々と打ち砕く。
砕け散った氷の粒が宙に舞う。
それを目くらましに、おれは急接近して首を撥ねる軌道で剣を振るう。
一撃で勝負をつけてやる!
だが、そう上手くいくはずもなく、ゴブリンキングは下から大剣を振り上げておれの剣を弾く。
「っ!?」
その力はおれが予想していた以上であり、危うく剣が飛ばされそうになるが、手に力を込めて耐える。
その無防備な状態をゴブリンキングは見逃さなかった。
大剣を持つ方とは逆の、開いている左手でおれの腹を殴りつけた。
「ぐっ!? ガハッ……」
一瞬意識が飛ぶ。
叩きつけられるような衝撃で覚醒したが、体の自由が利かない。
どうやらおれは、地面を転がっていたようだ。
顔を上げるとゴブリンキングとの距離が開いている。
五メートルほど吹き飛ばされたのだろうか。
たった一撃でこの威力。
どうやらおれは、完全にゴブリンキングの力を見誤っていたようだ。
いや、それだけじゃない。
今までの戦いでおれは、治療が必要な程の傷を負うことがなかった。
増長していたのだろう……。
あれ程親父殿に、お前は才能がないと言われたのに。
思えば家を出てから剣術の鍛錬をしていなかった。
フォングラウス家の剣の力と、前世で培った魔法の力。
その二つの力があれば、恐れるものはないと。
今まで強敵と相まみえる事がなかっただけだというのに。
どうやらおれは、調子に乗っていたようだ。




