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夜目

 ゴブリンアサシン。

 本で読んだ情報だと、こいつはやっかいだ。


 ゴブリンとは思えない俊敏性に加えて、気配を遮断する術を持つ。

 今夜のように月が出ているならまだマシだが、暗闇で忍び寄り、本人も気付かぬうちに絶命させるという。


 おれたち人間は、暗闇が苦手だが、魔物には夜目を持つものがいる。

 その代表格みたいなのがこいつだ。

 異常に暗闇に特化している。


「ほんと厄介な相手だな。悪いがここで死んでくれ!」


 そう言っておれは連続して剣を振るう。

 縦、横、斜め……あらゆる斬撃をゴブリンアサシンは避けるか、短剣で防いでいく。


「くそっ、速すぎんだろ!」


 思わず愚痴が零れる程に、奴は速い。

 そして、上手い。


 これでも転生してから剣術の修業に明け暮れてきたんだ。

 それなりに自信だってあった。


 しかし、こいつはその自信を打ち砕いてくる。

 短剣の使い方が上手いのだ。


 最小限の動きで剣を避け、どうしても必要な時だけ短剣で防いでくる。

 そしておれに少しでも隙があれば、ちまちまと攻撃してくる。


 致命傷になりうるものはないが、いくつもの切り傷が防具で守られていない腕に出来る。

 奴はこのまま、おれが剣を持てなくなるまで攻撃をしてくるつもりなのだろう。


「鬱陶しいんだよ!!」


 その攻撃の厄介さに、おれは思わず大ぶりでゴブリンアサシンを斬りつける。

 しかし、その攻撃も短剣で防がれ、衝撃を利用し後ろに飛びのかれる。


 月明かりで辛うじて見えている状態なのだ。

 奴が後ろに下がったことで、闇に紛れ、その姿を見失ってしまう。


「しまった……」


 次に奴がどこから攻撃してくるか分からない。

 その事実に、緊張感が高まっていく。


 まずいな、この状況は。

 奴に有利すぎる。

 おれは状況を打破する手立てがないか考えた。


 奴はおそらく、賢い。

 光属性の魔法で周囲を照らせば、たぶん引いていくだろう。


 だが、それではまたいつ襲われるか分からない。

 出来ればここでけりを付けておきたい。


 闇属性の魔術には、夜目を得る魔術があるらしい。

 それを魔法で再現出来ないだろうか。


 そうすれば、奴には気付かれずに、場所を特定できる。

 魔法なんて知らないだろうしな。


 おれは必要な古代語を思い出し、頭の中で構築していった。


メナイ・(瞳よ)ヤーク・(闇を)ビウェン(写せ)!!』


 それは奇しくも、オークと戦った時と同じ古代語になった。


 しかし、今回のは意味が違う。

 暗闇を映し出すのではなく、闇を見通す瞳と意味を古代語に紐づけて唱えた。


 上手く魔法は発動してくれたようだ。

 これでもし、前回使った時の印象が強かったなら、おれは余計に何も見えなくなっていただろう。

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