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虐殺

 一直線にゴブリンの軍勢を割いた炎龍だが、これで終わりではない。

 縦横無尽に軍勢の中を駆けて行く。


 その攻撃に敵は大混乱だ。

 規律だって進行していたゴブリンの軍勢だったが、炎龍が暴れ始めると、その隊列はぐちゃぐちゃになり、逃げ出す者も出始める。


「どうだユースケ、これが魔法ってやつだ」


「す、凄いな。いや、凄すぎる!」


 感動してくれたようで、頑張った甲斐があったというものだ。


 さて、そろそろこの魔法も終わりだな。

 体力の消耗が気がかりだし、これだけ暴れれば十分だろう。

 最後に……


『イープロシン《爆ぜよ》!!』


 その古代語を合図に、炎龍は動きを止め、輝きだし、そして盛大に炎をまき散らしながら爆発した。


「うわっ!?」


 遅れて爆風がこちらまで届く。

 凄まじい熱風だ。

 辺り一面に砂煙が漂う。


「何事だ!?」


 外壁の下から大声で誰か叫んでいる。

 そうだな、下からは様子が伺えないし、状況を把握できていないようだ。


 魔術師隊の指揮官がなにやら返答しているが、よく聞き取れない。

 多くの者が先程の爆発に驚いたようで、上も下も混乱しているようだ。


 砂煙でゴブリンの様子が伺えないのも、その一因だろう。

 ここは視界を確保するべきか。


『ウィスト《風よ》!!』


 魔法による風が、戦場の砂煙を彼方へ運ぶ。


「これで全体の三割ってとこか……」


 砂煙が晴れた戦場は、ひどい有様だった。

 炎龍が爆発した地点を中心にクレーターが出来ており、その周辺にはゴブリンの影も形もない。

 少し離れた場所には、火傷を負ったゴブリンと共に肉片が散らばっている。


 軍勢の三割程は、ゴブリンを殺しただろう。

 消費した体力に見合った結果が得られて満足だ。


「アル、お前やりすぎだろ……」


 ユースケが戦場を見て唖然としている。

 ユースケだけではない。

 外壁にいる者全てがその光景に、口を開いて驚いている。


「指揮官殿、今が攻め時ではないかね?」


 それに構わずおれは外壁上にいた指揮官に問いかけた。


「っ!? 門を開け!! 歩兵部隊突撃ぃーーー!!!」


 一瞬何を言われたか分からなかったようだが、指揮官は瞬時に冷静に戻り、門の内側にいた部隊に攻撃を命じた。


 門が開き、そこから騎士と冒険者の混合部隊が大声を上げながら出撃する。


「うおおおぉーーー!!!」


 だが、突然の命令に戸惑っているのか、足並みがそろわない。

 すぐさま出撃した者はごくわずかで、出遅れた者が大多数だ。


 その隙に、ゴブリンの軍勢は態勢を立て直し、後退していく。


「あー、ダメだなこりゃ」


 歩兵の突撃は間に合わないだろう。

 その前にゴブリンが逃げ切ってしまう。

 森に逃げ込まれたらどうしようもないからな。


 結局、歩兵部隊はゴブリンに追いつけず、多くのゴブリンを森へ逃がしてしまう結果となった。

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