炎龍
外壁へ上ると、街のすぐ傍まで迫っているゴブリンの軍勢が見えた。
すごい数だ。本当に千匹以上は、いるだろう。
「すごい数だな……」
ユースケもあまりの数に呆然としてしまっている。
この数を相手にするのは大変だろう。
「魔術師隊! 三十秒後に一斉に魔術を放て!」
この場の指揮官だろうか、騎士風の男が魔術師たちに命令を出している。
「いいか……十秒前……五秒前……よし、今だ!!」
「炎槍!」
「水刀!」
「土弾!」
「大嵐!」
「氷投槍!」
指揮官の合図に合わせて、皆、思い思いの呪文を唱え、魔術を行使していく。
様々な魔術が飛び交うさまを、おれは感嘆の思いで眺めていた。
こういう機会でないと、一斉に魔術が使われるさまは、見る事がなかっただろう。
「なにをしている!? お前も魔術を行使しないか!!」
おっと、黙って眺めていたからか、指揮官に目を付けられてしまったらしい。
さてと、それじゃあ、おれも攻撃しますかね。
周りの魔術師たちのように、直接的な攻撃魔法を使ってもいいが、それでは芸がない。
それに、そんな攻撃で倒れていくのは、前線のごく一部のゴブリンだけだ。
ここは多少体力を消耗しようが、大技で敵全体を混乱に貶めるべきだろう。
「火!」
まずは体力を無駄に消費しないよう、手始めに種火の魔術を使う。
『ファーニング・ビグ・スパイス・デスィー・ウンパ・エラゴニアン!!』
古代語を唱え終わり、魔法が完成する。
蝋燭に火を灯すような小さな火だったものが、大きく膨れ上がり、ドラゴンの姿を形作っていく。
まぁ、ドラゴンといっても今回のは、前世で東方の国の書物に描かれていた、前足が二本ある蛇のようなドラゴンなのだが。
前世では、ドラゴンなんて空想の産物だったからな。
この世界に実在するドラゴンよりも、おれの頭にある空想のドラゴンの方が想像しやすいから仕方ない。
エラゴニアンの単語は、おれの中でこれに紐づいてしまっているんだ。
とにかく、おれの魔法により炎のドラゴンが完成した。
周りにいた魔術師たちは、驚いて、腰を抜かしてしまった者もいるようだ。
「すごい……」
ユースケも大いに驚いている。
魔法一つでこんなに驚かれると、少し気分がいいな。
だが驚くのはまだ少し早いぞ。
『ガー!!』
古代語でドラゴンに命令を下すと、その場に留まっていた炎の龍はゴブリンの軍勢に突っ込む。
その突貫力は凄まじく、平原を覆いつくしていたゴブリンの軍勢が、縦に割れる。
炎の龍の通り道にいたゴブリンは、一瞬にして灰になっていた。




