怒声
街の鐘は、時間を告げるのに、回数を決めて鳴らすものだ。
それが今は連続して鳴っている。
緊急事態という事だろう。
そんなにゴブリンの数が多いのか。
「大変だっ!! ゴブリン共は、千匹以上いやがるっ!!」
荒々しくギルドの扉が開かれ、入ってきた男が息を切らしながらも大声でそう言った。
おそらく斥候に出ていた人間だろう。
ギルドは一瞬の静寂の後、蜂の巣を突いたように騒がしくなった。
「千匹だと!?」
「そんな馬鹿な!」
「なんでそんなに増えるまで気付かなかったんだ!?」
「どうすりゃいいんだよ……」
「ラースは持ちこたえられるのか……?」
「みなさん! 落ち着いてください!」
エリスが落ち着くよう叫んでいるが、とてもじゃないが静まる様子はない。
「エリス、どういう事なんだ? ゴブリン千匹というのは、多いのは分かるが、そんなに脅威なのか?」
「アルさん……。そうですね、ラースに長く住んでる人なら分かると思うのですが、この街の人口は一万人程です。そして、衛兵やラース騎士団の人数は、合わせて三百人程です。これに冒険者の数を合わせても、五百人いるかどうかでしょう……」
「つまり敵の戦力は二倍という事か?」
「単純に考えるとそうなります」
二倍か。
そう考えると、少しきつそうだな。
「へっ! なにビビってるんだよアル! 攻める側は守る側の三倍は必要だって言うだろ? 千匹くらい余裕じゃねーか!」
「そうは言うがなユースケ、ゴブリンは一匹に対して一般人なら大人二人必要だろ? 冒険者なら問題ないが、実力の分からない衛兵や騎士団が主力なんだから不安にもなるだろ」
「そうですね。衛兵と騎士団合わせて三百人といっても、その全ての人間が戦える訳ではありません。後方支援の部隊などありますから。それに、冒険者と違って魔物との戦闘に慣れていませんし、ゴブリンだっておそらく上位種が多数いる事でしょう。そう考えると、戦力差は単純に二倍とも言いきれません」
「そっか……。おれら冒険者と違って、騎士団なんかは訓練が主だからな。衛兵なんか喧嘩の仲裁くらいで、碌に戦闘なんてした事ないだろうしな……。」
そういう事だ。
だからこちらが守る側でも、気を抜く訳にはいかないんだ。
「とりあえずどうするかな。この街を見捨てる訳にはいかないし、だが個人で動くのも迷惑になる可能性があるしな」
「おそらくギルドから緊急依頼が出るはずです。今ギルドマスターがこの街の領主であるラース卿の元へと行っています。帰ってきたらすぐにでも」
「静まれえええぇーーー!!!」
喧噪としていた冒険者ギルド内に、怒声が響き渡った。




