もう一つのプロローグ
「おれはいつもと同じ日常を送っていたんだ。朝起きて、飯を食って学校へ行く。つなまらい授業にうんざりしながらも、寝ないように注意して、休み時間には友達と馬鹿話をする。そして帰ったらラノベや携帯小説を読んだり、アニメを見たり、スマホでゲームしたりとか……。ただ、その日はたまたま帰りに教室に忘れ物をした事に気が付いたんだ。そしたら……」
◆◆◆
藤木雄介は平凡な人間だ。
どこにでもいるような十七歳の男子高校生。
特に特徴もなく、不細工でもイケメンでもない中肉中背のどこにでもありふれたような少年。
ただし、クラスメイトに平凡じゃない人間がいた。
須藤正義。
その名が示すとおり、正義感が強く、成績優秀で文武両道、容姿端麗。
女からチヤホヤされ、男からは嫉妬のこもった視線を送られる。
常に周りには取り巻きの女子がおり、噂ではファンクラブもあるという。
そんな、物語の登場人物のような人間。
雄介が下校途中、読みかけのライトノベルを忘れた事を思い出し、教室に戻るとそこには正義といつもの取り巻きの女子が三人いた。
正義の幼馴染の鈴木風香。
委員長であり、親が大企業の社長のお嬢様、伊集院綾。
正義が通う剣術道場の師範の娘、竜宮水蓮。
「まーさーよーしー、一緒に帰ろうよー」
「ダメよ。正義はこれから副委員長としての仕事があるんだから」
「何を言う。正義は我が道場の主将。鍛錬の時間を削る事は許されない」
「ダーメ! 一緒に帰るのぉー!」
「仕事が優先です!」
「なにを! 剣の道以上に大切なものはない!」
「まぁまぁ、みんな落ち着いて」
ガラガラガラ。
教室の扉が開く。
雄介はどうやらちょっとした修羅場に遭遇したようだ。
正義たちの動きが止まり、突如乱入してきた雄介を見つめる。
沈黙が漂っていた。
「あー、ちょっと忘れ物しただけだから、取ったらすぐ帰るから気にしないでくれ」
そう告げ、雄介が正義たちのそばを通り過ぎようとした時、それは起こった。
「な、なんだこれ!?」
「キャー! 怖いよぉ」
「ちょっと、なんなのですかこれは!?」
「なんと面妖な……」
床一面に現れた光り輝く文様。
正義たちは戸惑っているようだが、雄介はラノベなどの知識から、それが異世界召喚の魔法陣だと予想した。
「よっしゃあああぁーーー!! これでおれも勝ち組だあああぁーーー!!」
嬉しさのあまり、雄介が思わず叫んだ時、光が一層強くなり、そこで雄介たちの意識は途絶えた。
光が完全に消え去った時、無人の教室は静けさに包まれていた。
何事もなかったかのように。




