誕生日
「誕生日おめでとう、アル!」
そう言っておれの頭を撫でた、茶髪に碧眼の目つきが鋭い、がっしりした少年。
エドワード・フォングラウス、おれの五つ年上の兄だ。
今日は待ちに待ったおれの十歳の誕生日。
魔術を教えてもらえる年齢になったのだ。
「あんなに小さかったアルが十歳だなんてあっという間ねぇ。ねぇ知ってる? アルったら生まれた時泣かなかったのよ。それどころか夜泣きもせずに大人しくって。ねぇソフィア?」
「ですがハイハイできるようになってからは神出鬼没でしたね奥様。たいてい書斎で見つかりましたが。アル様は本を読んでいるように見えましたが、あの時はまだ赤子ですしまさか……」
そんな会話をしているのはおれの母親ファーニ・フォングラウスとメイドのソフィアだ。
ファーニは金髪碧眼で二十代前半に見えるが実は三十代の、なんであんな親父殿と結婚したかわからないような美女だ。
ソフィアは赤髪に黒い瞳の二十代。こっちも美女、というか美少女に見える。
ちなみにおれは母親似の金髪碧眼だ。親父殿に似なくてよかった。
ん? 親父殿? あぁ、茶髪のゴリラだ。
「ガッハッハ! ソフィアよ、赤子に本が読める訳ないだろ。それに書籍においてある本は代々フォングラウス家当主が見栄の為集めてきた本だ。難しくておれにもサッパリだぜ?」
酒が入って機嫌がいい親父殿。
だが悪いがちゃんとおれは本の内容を理解してたぜ?
まぁ確かに小難しい本ばかりで、期待してた魔術書なんて基礎がなくて上級者編だったから魔術の使い方とかさっぱり分からなかったが。
「おい、アル、誕生日までそんな悩んでる顔するな。悩みがあるなら走ってこい!」
「まぁ、あなたったら。これからお夕食なんですから走られては困りますよ」
「それもそうだな。っと、これが誕生日の祝いだ。しっかり精進するんだぞ。明日から木剣ではなくその剣を使うように」
そう言って渡されたのは、光に反射して薄青い輝きを放つ一振りの剣だった。
今のおれにはまだ少し大きいようだが、おそらく成人した頃にはちょうど良くなっているだろう。
「長男のエドみたいに家宝の剣を渡すわけにはいかないが、その剣は王都の有名な鍛冶師に打って貰ったものでかなり価値あるものだ。だからって売るなよ? ガッハッハ!」
なにがおかしいのか分からないが、親父殿もおれが十歳になって嬉しいのだろう。
明日から魔術を交えた本格的な修行をすると聞いている。
もちろんおれも楽しみだし、この剣だって素人目にみても相当な業物だ。
素直に感謝しておこう。