理想と現実
大金貨五十枚という大金を貸してやったのに、それをドブに捨てたユースケを、おれはクズを見るような目で見た。
「お前奴隷な」
「はいっ!?」
冗談はさておき、なんて事をしてくれるんだこいつは。
見ず知らずの奴隷の為に大金を借金して、その奴隷を自ら逃がす。
馬鹿じゃないのかこいつは。
「お前、なに考えてるんだよ。おれはドブに捨てる為に大金貨五十枚を貸した訳じゃねーぞ!」
「いや、あっれー? うん? おかしいな?」
ユースケは未だ混乱しているようだ。
本当になに考えているんだこいつ。
「おい、しっかりしろ。なんで解放したか訳を話せ」
「ん、あぁ……。おれの考えでは、まず隷属魔術を掛けない事で、人間扱いしてるよって言いたかったわけ」
なんだ?
最初の方から話すのか。
まぁ、こいつも混乱してるようだし、順序立てて説明した方が自分でもしっくりくるんだろう。
ここは急かさず話を聞くか。
「それで、奴隷だから碌な物食べてないだろうなぁーって思って、美味しい物をたくさん食べさせてあげて、懐かせる作戦に出たのよ」
まぁ、ここまでは一応筋が通っているな。
問題はここからだ。
「んで、自分から名前を教えてくれたし、ここは最後の猛プッシュだーって思って、奴隷から解放したってわけ」
だから何故そうなるっ!?
意味が分からない!
「ユースケ、その説明じゃ意味が分からないのだが……」
「え? だって奴隷から解放したら、ご主人様素敵!! 私は解放されてもご主人様の奴隷ですっ! 自分の意思で仕えるんですぅ! って、なるじゃん普通?」
「ならねーよ!!」
やっぱり馬鹿だこいつ!
だいたい気色悪い声で何を言ってるんだか。
買ってすぐ奴隷から解放されたって、そんな思考になる訳ないだろ。
だいたい、いきなり奴隷から解放されても、そいつは困るんじゃないのか普通?
金だって持ってないんだし。
まぁフェミリアは逃げ出したが……。
だが、この辺で獣人奴隷を解放した所で、また捕まって奴隷になるのが落ちじゃないのか?
辺境都市ドリトン辺りならまだしも……。
「そっかぁ? おかしいな。おれが知ってる物語じゃ、たいてい奴隷は解放してくれた主人公に恩義を感じて懐くんだけどなぁ」
「どんな物語だそれは。そんな話聞いたこともないぞ」
本当に馬鹿だろこいつ。
だいたい物語と自分を混同させているなんて、痛い奴すぎるぞ。
「ユースケ、お前って奴は……。まぁ、いい。なんにしろユースケが借りた金だしな。どう使おうがユースケの自由だ。ただし、しっかり返して貰うぞ」
「はへ? てことはおれは、無駄に大金貨六十枚もの借金を背負っただけってこと?」
「そうだ」
今頃気付いたのか、大馬鹿者め。




