献上
「ほっほっほ。物は使いようです。実は私の商会では、すでに一つアイテムバッグを持っているのですよ」
なに!? つまり二つ目という事か。
だがそれなら余計に一般的なアイテムバッグの便利さが分かっているはずだ。
それなのに何故……?
「実はですな、今回入手したアイテムバッグは商売に利用するつもりはないのですよ。というか、私自身使うつもりはないのです」
どういう事だ?
ならなぜ大金貨百七十枚もの大金を使って落札したんだ?
いくらダート商会といっても、大金貨百七十枚は決して安い金額ではないはずだ。
「何故使いもしない物を落札したのか、それはですな、このアイテムバッグは第二王子に献上しようと思っておるのです」
第二王子?
なぜここで第二王子が出てくるんだ?
「第二王子が第一王子と王太子の座を巡って争っているのは有名な話かと思います」
そんな話おれは知らなかったのだが。
事情通の人間からしたら有名な話なのだろう。
「その第二王子ですが、実は色々と魔道具を集めるのが趣味なようでしてな。ここでこの珍しいアイテムバッグを献上すれば、覚えもめでたくなるという訳です。我が商会はラースでは栄えているものの、王都にコネはないのです。そこで第二王子と繋がりを持つ事によって、王都への進出が色々とやりやすくなるという訳ですよ。もちろん王太子の座を巡る争いにも巻き込まれるでしょうし、献金だって要求されるでしょうが、その事を考えても我が商会には有益に働くというわけです」
なるほど。
そんな事情があったのか。
「なるほど。そういう事だったんですね。納得しました」
「はい。では、お連れ様も待ち焦がれているようですし、そろそろ証文を交わしましょうか」
お連れ様と言われて横目でユースケを見ると、確かにじれったそうにしていた。
はぁ……。恥ずかしい奴め。
そんなにあの奴隷に早く会いたいのか。
おれは心の中でため息をつきつつ、運営の男に目くばせした。
「では、お話もひと段落ついたようですし、取引にかからせて頂きましょうか。こちらに証文は用意させて頂いております。お二人とも不備がないかご確認の後、サインをよろしくお願いします。それとダート様は大金貨の用意を。アイテムバッグは別室にご用意させて頂いておりますので、お帰りの際にお受け取りください」
まずダートが証文を確認の後、サインしておれに渡してくる。
その時付き添いの男が、大金貨が入っているだろう袋を共に渡してくる。
おれは証文をきっちり読み、特に不備はなかったのでサインしてダートに渡した。
これで取引は完了だ。
「大金貨の方は確認なさらなくてもよろしかったのですか?」
ダートがそう聞いてくる。
だが、大金貨を数えるのも面倒だし、そしてなにより……
「ダート商会の会長ともあろうものが、商業ギルド主催のオークションで金額を誤魔化そうとするとは思えませんからね」
そう告げるとダートはニッコリと笑った。
どうやら正解だったらしい。
さて、これで金は手に入った。
お次はユースケの取引だ。




