転生
結論から言おう。
私は"不死"の存在にはなれなかった。
だが完全に失敗した訳ではない。
なぜなら私はゲルイド・シンフォニーとしての記憶、意識を持ったまま新たな生を授かったからだ。
「まさかこれが"不死"の魔法だとは……。確かにある意味死を超越してはいるが……」
そんなことを呟く私は、いや、おれは"アルグラウン・フォングラウス"。
通称アル、フォングラウス男爵家に約十年前に生まれた次男だ。
「それにこの世界はおれが以前生きていた世界とは違う……」
十年程たった今でも信じられない。
なぜならこの世界は……
その時頭に鋭い衝撃が走る。
「またなにやら一人ぶつぶつと。常に油断なく常在戦場でいよと何度言ったら分かるんだ馬鹿者め!」
そう言っておれの頭を剣の鞘で叩いたのは父親のエドグラウン・フォン・フォングラウス、フォングラウス家当主である。
「フォングラウス家は剣の一族! 早く一人前になれるよう精進せんか! 悩み事があるならそこら辺を走ってこい! 力尽きるまで走れば悩みなんかなくなる!」
この脳筋発言がフォングラウス家ではまかり通ることからわかるように、フォングラウス家は代々優秀な剣士を輩出してきた名家、そして非常にスパルタな家風であるのだ。
強い者が偉い。
己の発言を通す時には力を示さなければならない。
前世から魔法使いであるおれには暮らしにくい家だ。
なんせ前世では剣など握った事すらなかったからだ。
前衛は兵士や召喚した悪魔。
それが魔法使いのオーソドックスな戦い方だった。
もちろん都合よく剣の才能などあるはずもなく、しかし才能など必要ない、努力すればいいのだとばかりに扱かれている。
そのかいあってか、わずか十歳にして、あきらかに前世の兵士たちよりか強くなっている気がするのは間違いではないだろう。
だがしかし、おれはあくまで魔法使いである。
そう、世にも珍しい力を扱える、前世では誰もが羨み畏れる希少な魔法使いなのだ。
出来ればこんな扱き受けたくない。
なら今すぐ魔法の力を見せつけて両親を驚愕させてやればいい。
そうすれば両親にもおれの価値が分かってもらえる。
剣術など練習する必要はない。
しかし、そうはいかない訳があった。何故なら……
「あらアル? あなた頭から血が出てるわよ。治癒!」
通りかかった母様がそう言って手のひらをおれの頭にかざすと、青白い光が灯り、頭の傷が治っていく。
そう、おれが自分を魔法使いだからと威張る訳にはいかない理由。
それは、この世界の人間は皆魔法を使えるからだ。