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カエル

「おれの勝ちのようだな」


 そう言って、おれは吐瀉物を避けながら、男の体を乱暴に弄る。


「お、あった。大銀貨七枚程度か。しけてんな。この斧も貰っとくか」


「ひでぇ」

「ガントルが一撃だと!?」

「普通あそこまで容赦なく取るか?」

「やっぱ関わったらいけねぇ……」


 男の持ち金を小銭まできっちり回収し、ついでとばかりに武器まで拝借した。

 外野が何やら煩いが、難癖付けて絡んできたこいつの方が悪いだろ。

 ま、武器も無しにこれからどうするのか気になるが、おれには関係ない。


「慰謝料はきっちり貰ったし許してやるよ。じゃーな」


 仲間と思われる者が、ガントルにポーションを飲ませてるのを尻目に、おれはその場を去った。


「さてと、臨時収入に斧も手に入ったし、武器屋に売りにいくか」


 武器屋に向かって歩いていると、後ろから誰か走り寄ってくるを感じた。

 さっきのこともあるしガントルだろう。

 めんどくせぇなぁ。負けてないとか返せとか言い出すんだろう。

 よし、裏路地に入ってやり過ごそう。


 裏路地に入り奴が通り過ぎるのを待っていると、走っているガントルと目があった。

 おいおい、なんでよそ見して走ってんだよ。

 真っすぐ前だけ見て走りやがれよ。


「はぁはぁ、見つけたぞこの野郎! おれの金と斧を返しやがれ! あとてめぇが持っている金と剣もだ!!」


 はぁ……。

 なんでこいつはこうも馬鹿なのかね。

 ついさっき手も足も出ずに負けたのを忘れてるのか?

 要求もでかくなってるし。


「さっき負けたのはマグレだ! いや、負けてねぇ! ちょっと腹の調子が悪かっただけだ!」


 腹の調子が悪くていきなり膝折って吐くかよボケ!

 だいたい腹の調子悪かったらここまで走ってこれねぇだろ。


「はぁ……。お前はとことん物分かりが悪そうだからな。ここで倒してもまた追ってくるだろう」


「へっ! 分かってんじゃねぇか。まぁおれは負け」


「もういい」


ユン・(汝よ)フローグ・(カエルに)チェイン(変われ)!!』


 右手の人差し指でガントルを差し、古代語を唱える。

 するとガントルの体が光り輝き、次の瞬間には衣服だけが残っていた。


 いや、よく見ると残された衣服がモゾモゾと蠢いている。

 すると衣服の下から緑色のイボ蛙が出てきた。


「やぁ、ガントル。新しい体の調子はどうだ?」


 おれが笑顔でそう問いかけてもカエルはゲコゲコと鳴くだけ。

 まぁ人間の言葉が喋れなくなったので当然だろう。


「その姿でおれに楯突いたことを後悔しろ。そのうち覚えてたら元の姿に戻してやるよ。それまで精々野良犬にでも食われないようにすることだな。」


 一方的にそう告げ、カエルになったガントルを置き去りにして、おれはその場を去った。

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