喧嘩
素材を換金してギルドを出ようとしたところ、誰かが肩を掴んで引き留めてきた。
「おいおいてめぇ、あれだけシカトこいといて、そのまま帰れると思ってんじゃねーだろうな?」
額に青筋を浮かべた山賊が何やら喚いている。
おっと山賊じゃなくて、山賊風の風貌をした冒険者だったか。
それにしてもこいつ、あれだけ周りから止められたってのに絡んでくるとは、人の話を聞かない馬鹿なのか?
まぁ馬鹿なんだろう。
「なに黙ってんだよ。てめぇーのせいで酒が不味くなっちまったんだよ。どうしてくれんだよ、あぁ?」
逆切れもいいとこだろう。
おれは視線をエリスに送った。
その意味が分かったのだろう。エリスは山賊風の男に言いつのる。
「ガントルさん! やめてください! ギルド内での争いはご法度です! それに相手は五等級なんですよ!? 三等級のあなたは指導する立場にあるはずです!」
こいつ三等級なのか。
思ってたより三等級というのは大したことないのかもしれないな。
「分かってるさエリス。だからおれがこれから指導してやろうって言ってんだ。先輩冒険者に対する態度って奴をなぁ!」
そう言って男は嫌らしい顔で笑う。
「おい、ガキ! 先輩のおれはお前のせいで酒が不味くなった! だからお詫びとして有り金全部置いてきな! そしたら許してやるよ。」
ふーん。
これが先輩冒険者の指導ねぇ。
ずいぶん自分勝手なこと。
「やだね。それよかおれはお前の汚ぇ面見て気分が悪くなった。お詫びとして有り金全部よこしな」
「なっ!? 誰が汚ぇ面だゴラァ!? 表に出やがれ!!」
「いいぞ。その喧嘩買った。負けた方が有り金全部な」
そう言っておれは冒険者ギルドの外に出る。
後ろから男だけじゃなく、ズラズラと酒場にいた冒険者連中が付いてくる。
一瞬全員まとめて消し炭にしてやろうかと過激な思想が走ったが、どうやらただの野次馬のようだ。
あんなにビビってたのに、喧嘩となったら観にくるんだな。これが冒険者というものか。
「ほら、かかってこいよ?」
全員表通りに出たところで、剣を抜かず、手をひらひらと振り挑発する。
「な、んにゃろー!!?」
男の武器は大斧のようだ。
勢いに任せて連続して振り下ろしてくるそれを、おれは紙一重の所でかわし続ける。
これはいい修行になりそうだ。
「くそっ! なんで! 当たらねぇ!!」
そろそろいいか。
おれは剣を鞘から抜かず、そのまま男の腹に振りぬいた。
「ぬごぉっ……」
男はたまらず膝を折り、吐瀉物を吐き出した。
どうやら勝負はついたようだ。




