怒り
「治癒! 治癒! 治癒!」
エリーに治癒魔術を掛ける。
このくらいで大丈夫だろうか?
本当はもっと重ね掛けしたいが、身体強化の魔術も使っている事だし、魔力が心もとない。
「アル様……」
エリーはそう呟いたきり、無言でおれを見つめている。
おっと、そうだ。
おれは外套と脱ぎ、エリーに被せた。
「淑女が肌を露出してはいけない」
エリーはハッとしたように、外套を握りしめる。
自分の格好に思い至ったようだ。
さて、ひとまずエリーへの対応はこのくらいでいいだろう。
あまり見ていると気持ちが揺らいでしまう。
今は怒りを途絶えさせてはいけない。
エリーの瞳には涙が浮かんでいた。
相当怖い思いをしたのだろう。
それを見ておれの中で静まりかけていた怒りは再び火を噴いた。
この怒りをぶつけなくてはいけない。
「覚悟しろよゴブリン共……」
おそらくこいつらが五階層の階層主、赤小鬼という奴なのだろう。
「おい、アル!」
ユースケが入り口付近で呼んでいる。
そういえば指示も出さずに突っ走ってしまったな。
これでは雇用主としては失格だ。
反省しておこう。
だが、それは後だ。
今おれの意識はこいつらをどう倒すかに向いている。
「ユースケ、フェミリア、お前らは手を出すな。こいつらはおれの力だけで倒す。ルシウス、アンモイ、サモニアはこっちに来てエリーを守れ!」
命令を下すと悪魔達は遠回りをしてこちらに駆け寄ってきた。
よし、これで自由に動けるぞ。
蹴り飛ばしたゴブリンはまだ床を転げまわっている。
まずは囲んでいる三匹からだな。
『ファーニング!!』
魔法を使い、剣に炎を纏わりつかせる。
くっ、怒りのあまり火種の魔術で補助をするのを忘れた。
体力が減るのが分かる。
怒りはそのままに、少し冷静になるべきだな。
おれは深呼吸をして心を落ち着かせた。
「行くぞ!」
おれは駆けだした。
それと同時に三匹のゴブリンのうち、一匹が前に出てくる。
残りの二匹はユースケとフェミリアを警戒して動けないようだ。
丁度いい。
一匹ずつの方がやりやすいからな。
ゴブリンは短剣で切り裂こうとしてくるが、先程のように、わざわざ受けてやる理由もない。
おれは横に飛び、ゴブリンの攻撃を避けると、一歩踏むこみ、軽く剣の切っ先をゴブリンに掠らせた。
それと同時に古代語を唱える。
『ファーニング!!』
すると剣に宿った炎がゴブリンに燃え移り、その身を包み込む。
「グギャアア!!?」
炎に焼かれるゴブリンは、火を消そうと地面を転がりだす。
そう簡単に楽にさせてたまるか。
おれは追加で魔法を行使する。
『ドーア!!』
転がりまわっていたゴブリンの体に、土の鎖が絡みつく。
ユースケの土束縛の魔術を魔法で再現したものだ。
これでゴブリンは動けず、その身を炎に焼かれながら死んでいくだろう。




