悲鳴
「氷投槍!」
ユースケの魔術がスケルトンの頭を粉砕する。
これで最後か。
おれ達は五階層を探索して六時間程経っていた。
今回の階層はなかなか転移魔法陣が見つからない。
「なぁー、そろそろ休憩にしようぜー?」
ユースケが休憩を提案してくる。
そうだな。
迷宮に入ってだいぶ経ったし、集中力も切れてきたところだ。
そろそろ休憩に入ろう。
「そうだな。ここらで休憩するか」
そう言って、おれは剣で地面に簡易の魔法陣を描き、悪魔を召喚する。
『サムンド・ルシウス、アンモイ、サモニア!!』
「ミャー!」「ワオン!」「クァー!」
召喚された悪魔を観察する。
昨日より一回り大きくなっている気がする。
やはり魔石が悪魔の成長の糧になるという考察は正しかったのだろう。
「お前達、今日も交代で見張りをしろ。その間に食す魔物は用意してい」
「キャアアアァーーー!!?」
おれの言葉を遮るように、迷宮の先から悲鳴が聞こえてきた。
「っ!? アルっ!!」
「分かっている!! ルシウス達よ、さっきの命令は取り消しだ! ついてこい! 行くぞ!! ユースケ! フェミリア!」
おれ達は休憩を取りやめ、叫び声が聞こえた方へ駆け出した。
しばらく走っていると、扉のようなものが見えた。
扉は間に革袋が挟まり、半開きになっている。
おそらく悲鳴の主はあの先にいるのだろう。
扉を勢いよく開き、中へ突入する。
部屋には魔物と、一人の少女がいた。
少女は扉とは反対の場所で赤色のゴブリンのような魔物に囲まれている。
金髪の縦ロールに白い肌、ドレスのような装備を身にまとっている。
そう、エリーだ。
エリーの周りには三匹の赤いゴブリンが囲むように待機している。
そして、二匹のゴブリンに掴みかかられている。
よく見るとドレスのような装備が破りさられ、白い肌が露になっている。
それを見た時、おれの中で何かが切れる音がした。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
考えが纏まらない。
いや、考える必要なんてない。
おれの体は、感情の赴くまま動き出した。
「ガアアアアアァァァアアアァアァァーーーー!!!!」
魔力を体に通し、身体能力を向上させる。
その上で更に、足に過剰に魔力を供給する。
身体強化と速度向上の魔術の掛け合わせだ。
それを、おれは無意識のうちに発動していた。
一秒でも早く。
ただ、エリーの元へ早く駆け寄りたくて。
ゴブリンに猛烈な勢いで接近する。
周りを囲む奴が、その手に持つ短剣を振ってくるが無視だ。
血が舞う。
どこか切られたらしい。
構うものか。
おれはエリーに覆いかぶさる二匹のゴブリンの元へ辿り着くと、駆けてきた勢いを殺さずに一匹を思いきり蹴りつける。
「ゴブフッ!!?」
蹴られたゴブリンは五メートル程吹き飛んだ。
そこで、もう一匹のゴブリンがこちらに気付くが遅い。
憎悪を込め、剣を横なぎに振るう。
すると、ゴブリンの頭は鼻から上が無くなった。
残った口元が嫌らしい表情を浮かべている。
それが気に食わなかったおれは、残る胴体部分に剣を突き刺し、持ち上げて頬り投げる。
これで一段落だ。
なんとか間に合ったようだ。
「もう大丈夫だ、エリー」
おれは足元で呆然とするエリーの頭に手を添え、微笑みかけた。




