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お節介

 「はっ、はい!? ここは確かに冒険者ギルドです! 登録ですね! こちらの用紙にご記入ください! 代筆は必要でしょうか!? 必要なら僭越ながら私が書かせて頂きます!」


 額に汗を滲ませながら、やたらと早口で喋りだした受付嬢に不信の目を向けつつ、「必要ない」と言い用紙に必要事項を記入していく。


 えーと、名前アルグラウン・フォングラウス、年齢十五歳。出身地フォングラウス領、特技は剣術と魔法……は笑われるから魔術っと。


「はいよ、書いたぜ」


「はい、では……貴族の方だったのですね。大変失礼しました」


「貴族と言っても小さな領地の次男だ。家を出た今じゃ実質平民と変わらないさ」


 受付嬢はおれに名字があるから貴族だと気づいたのだろう。

 この国の平民には名字がない。名字を持つのは貴族だけだ。

 その中でも領地貴族の当主はミドルネームに"フォン"が付き、宮廷貴族には"デ"が付く。

 ちなみに王族は"デフォン"となる。


「そうですか。それにしてもその歳で剣技と魔術が特技とは……。あの、冒険者は確かに見栄も大事ですが、命がけの職業なので自分の実力を過信しない方がいいですよ」


 ん?なんだこいつ。

 さっきまでテンパっていたと思ったら、貴族と知って逆に落ち着き、今度は説教じみたことまで言ってくる。

 たぶん新人冒険者で見栄を張って自分の実力を過剰に風潮する者もいるのかもしれないが、おれは事実を書いたまでだ。

 まぁ、魔法を魔術と偽ってはいるが……。


「おれは事実を書いたまでだ。さっきの見ただろ? なんでこいつらは今も口をパクパクさせてるんだと思ってるんだ?」


「それは……」


 受付嬢は先ほどの出来事を思い出したのだろう。

 顔を青くしながらもまだ言いつのってくる。


「ですがこれほどの魔術を使えるという事は剣術の方は」


「それは剣の一族フォングラウス家に対する挑発か?」


「ッ!? 失礼しました。ではこの内容で登録させて頂きます」


 受付嬢はおれの言葉でフォングラウス家がどういう一族か思い出したのだろう。

 なんせ戦争になる度に活躍し、代々剣を扱ってきた、剣のみで貴族としての役割を果たしている一族だ。

 親父殿なんか王の剣とも言われる近衛騎士団長にも勝てると言われてるしな。

 剣に対する意欲が強すぎて、領地経営は微妙で、だからこそ下級貴族の男爵家なんだがな。


 まぁ、つまり、いくら心配からのお節介だろうと、フォングラウス家の人間に剣の腕を聞くのは許せない。

 おれだけではなく、うちの一族全体の名誉がかかってるからな。

 こんな考えに至ってる辺り、おれもしっかりこの世界に根付いてるなぁと思う。

 まぁ、少し剣呑すぎたかもしれないが。


「いや、すまない。一族の名誉がかかっていたから少し剣呑になりすぎたようだ」


「いえ、こちらこそ不躾にすみませんでいた。あの、それで、失礼ですが酒場にいる冒険者の方々も許してはくれないでしょうか……?」


 ん?あぁ。喋れないとこれから先大変だろうからな。

 受付でやり取りも出来ないだろうし。

 この受付嬢は最初から最後まで冒険者の事を気にかけているんだな。

 きっと良い人なんだろう。


「分かった。喋れないと受付の業務に差し支えるだろうしな」


リ・サレット(解けよ)


「これで喋れるはずだ」


「ありがとうございます!」


 別にあんたが礼を言う事じゃないだろと思いつつ、周りを伺うと恐る恐るといった様子で、小声でなにやら喋っている姿が見受けられる。

 中には涙を流して喜んでる奴もいる。

 ふん。これで奴らも少しは懲りた事だろう。

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