名前
「エリザベスさん!?」
ギルドを出て行こうとするエリザベスにおれは慌てて駆け寄る。
なんでそんな全身土まみれなんだ!?
「あら? アルグラウン様?」
「エリザベスさん、どうしたんですか一体!? そんなに汚れて! 体中傷だらけじゃないですか!! 治癒!」
おれはエリザベスの全身を意識しながら治癒魔術を掛ける。
全身を意識しながらといっても嫌らしい意味じゃないぞ。
あくまで体のどこに傷があるか分からないからだ。
「治癒! 治癒! 治癒!」
「あの、アルグラウン様。ありがとうございます。ですが、もう十分ですわよ……」
体のどこにも傷はないだろうか。
もしどこかに傷跡が残ったら大変だ。
やはりここは念入りに……
「治癒! 治癒! 治癒! ヒー」
「アル!! もう十分だろ!! どれだけ念入りなんだよ!!」
ユースケに肩を掴まれて止められた。
何をするんだ!?
まだどこかに傷があるかもしれないじゃないか!!
「アルグラウン様、大丈夫ですわ。元々かすり傷ですし。ありがとうございます」
「そうですか。ですが、もしどこか痛みが残っていたら言ってくださいね! まだ魔力は残っていますから!」
おれが光属性に適性があったのは、この時の為だったんだ!
「ありがとうございます、アルグラウン様」
「アルでいいですよ。アルグラウンなんて言いにくいでしょう? まったく、名付けた親父殿にも困ったものです」
おれは少し攻めてみる事にした。
親しみを込めてアルと呼ばれたいからな。
「あら? 立派な名前だと思いますことよ。アルグラウンだなんて威厳があって良いじゃありませんか。ですが、そうですわね。せっかくですし、アル様と呼ばせて頂きますわ。私の事もエリザベスと呼び捨てに……いえ、エリーと呼んでくださいまし。親しい人からはそう呼ばれていましたの。もう今じゃ、そう呼んでくれる方もいませんけれど」
何かあったのだろうか。
エリザベス、いや、エリーには気品がある。
おそらく貴族だと思うのだが、名字も名乗らなかったし、一人で冒険者をしている。
なにか訳があるのだろう。
凄く気になるが、まだそこまで聞くべきじゃない。
踏み込み所を誤れば、しつこい男と思われるだろう。
「では、エリーと呼ばせて頂きます。私の事もアルと呼び捨てで結構ですよ?」
「いえ、せっかくの紳士的な素敵な殿方ですから、アル様と呼ばせてくださいませ」
紳士的で素敵な殿方か。
頑張ってイメージを崩さないようにしなければ。
エリーに失望されるなんて耐えられないからな。




