罠
「うぅ、吐きそうになった……」
ユースケが具合悪そうにしながら言った。
「お前がくだらない事を言うからだ」
「まさかあんな……」
「怖かった……」
どうやらフェミリアも見てしまったようだ。
「まぁ、あれが悪魔の本性だ。可愛いものじゃないって分かっただろ?」
「十分分かったよ……」
「なら気持ちを入れ替えていくぞ。集中しろ」
今おれ達は四階層にいる。
まだ魔物とは出会っていない。
「罠ある」
「またか」
ユースケの言う通り、この階層に来てからやたらと罠が多い。
今のところフェミリアが発見しているからいいが、魔物と出会わず罠ばかりだとこの階層は旨味がない。
というかもしかして、この階層には魔物はいないのだろうか?
「宝箱……」
フェミリアが呟いた。
通路の真ん中にポツンと宝箱がある。
誰がどう見ても宝箱だと分かる、金で装飾された赤い箱だ。
いかにも怪しい。
「うっひょー! 宝箱じゃん!! これだよこれ! ダンジョンっていったら宝箱がなくっちゃ!」
そう言ってユースケは飛び跳ねながら宝箱へ近づいていった。
「待て! ユースケ!!」
おれは慌ててユースケの前に飛び出した。
「なんだよ、アルっ!?」
目の前の宝箱が突如動き出した。
蓋が開き、箱の中には凶悪な牙が生えている。
それが飛びあがって噛みついてこようとした。
だが、おれはユースケに言われるまでもなく警戒していた。
噛みつこうとしてきた宝箱に剣を突き刺す。
パキンと何かが砕けるような音がした。
宝箱は剣を噛んだ状態で停止している。
「なんだ?」
突然動きが止まったので、反応に困る。
剣を振って宝箱を飛ばしてみるが、そのまま転がっただけでやはり反応がない。
見てみると蓋が半開きになっている。
「死んだのか?」
恐る恐る近づいて、剣で突いてみる。
動き出す気配がない。
どうやら死んだみたいだ。
「死んだみたいだな。まさか一撃だとは……」
「流石だぜアル! さーて、箱の中には何か入っているかなー?」
ユースケの危機感のなさは、先程の不意打ちを経験しても変わりないらしい。
不用心にも箱を手に持ち、ひっくり返している。
「お、なんか出てきた! って、なんだこりゃ? 割れた……魔石か?」
魔石?
そうか! 先程の何かを砕いたような感触と音は魔石が割れたものだったのか!
だからこの宝箱……偽宝箱も死んだのだろう。
魔石は魔物にとって重要な器官だからな。
「それにしても綺麗に倒したな。なぁ、アル。この箱売れねぇかな? 魔物だけど、外観は綺麗だしさ」
「そうだな。一応持って帰ってみるか」
せっかく傷をつけることなく倒せたしな。
売れるならそれに越したことはない。
おれは、ミミックをアイテムバッグに仕舞った。




