恋
「な、何をされましたの!?」
「いえ、ちょっとした魔法を掛けただけです。それよりお怪我はありませんか?」
麗しの君はハッとしたようにおれの手を取って立ち上がる。
「大丈夫ですわ」
「そうですか。ですがもし怪我をしていたらいけない。治癒魔術を掛けておきましょう。治癒!」
おれは優しく手をかざし、治癒魔術を使った。
「治癒魔術まで……ありがとうございます。ですが、私、今手持ちがなくてお礼が出来ませんの」
「お礼だなんてそんな。女性に優しくするのは紳士の務めですよ」
「だ、誰!?」
ユースケ、うるさいぞ。
「まぁ、素敵な方ですわね。久しぶりに異性に優しくされましたわ」
「ありがとうございます。申し遅れました、私はアルグラウン・フォングラウスと申します。以後、お見知りおきを」
「やはり、その教養、貴族の方だったのですわね。私はエリザベス・レオ……んん! エリザベスと申します」
エリザベス……名前まで優雅で可憐だ。
「不躾な申し出ですが、エリザベスさん、私たちとパーティを組みませんか?」
「え? それは……ありがたい申し出ですが、今回はお見送りさせてくださいまし」
んん。ちょっと性急にすぎたか。
いきなりこんな事言っても断られるよな。
「そうですか。すみません、突然に」
「いえいえ。あの、こちらも図々しいお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでも言ってください」
「その、少しばかりお金を貸して頂けないかしら……? 初対面の方にこんな事を言うだなんて、失礼だと分かっているのですが、宿に泊まるお金もなくて……。大銀貨一枚でいいから貸してくださらないかしら……? もちろん借りたお金は必ずお返ししますわ」
「もちろんいいですよ。困っている女性がいたら、助けないといけませんからね」
そう言って、おれは金貨を三枚取り出し、女性に渡した。
「まぁ、こんなに……。いけませんわ!」
「いいのですよ。何かとお金は必要なものです。それに、返してくださるんでしょう?」
「ありがとう……必ず、返しますわ」
「いえいえ、では、またお会いしましょう」
おれは腰を少し下げ、右手を胸元へ、左手を四十五度程上げる前世の紳士のお辞儀をして、その場を立ち去った。
「どうしたんだよアル?」
後ろからついてきたユースケが尋ねる。
「いきなり初対面の奴に金貸すなんて、アルらしくないぞ。しかもおれの時と違って利子取らなかったし。それになんだか態度も気持ち悪かった」
「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは。女性に優しくするのは男として当然の事だろ」
「その言葉には同意するけどさ、アル、他の女冒険者になんか魔法掛けてたじゃん」
「そりゃそうだ。あいつらの存在は邪魔だったからな」
「いやいやいや、おかしーだろ! 全然女性に優しくないじゃん!!」
「誰にでも優しくすればいいというものではない。特別な女性に特別な態度を取るから意味があるんだ」
ここら辺はまだ若いユースケには分からんだろうな。
「え? それって……」
「彼女はおれの好みだ。一目見た時から気に入った。必ず嫁に貰う」
「えええぇーーー!!?」
夕暮れの街中にユースケの絶叫が響き渡った。




