買取
ギルドは混雑していた。
皆、同じような時間帯に迷宮から帰ってくるのだろう。
「ユースケ、一旦ウォーウルフの依頼書がないか探そう」
「そうだな。あったら儲けもんだ」
おれとユースケは、依頼が貼られている掲示板に目を通したが、残念ながらウォーウルフの依頼書は無かった。
「まぁ、そう都合よくある訳もないか」
気を取り直して受付の列に並び、自分の順番が来るまで待つ。
「おまたせしました。要件は何でしょうか?」
昨日とは違う受付嬢だ。
「迷宮で魔物を盗伐してきた。解体と、素材の買取を頼みたい」
「依頼を受けてという訳ではないのですか?」
「違う」
「そうですか。申し訳ございませんが、当ギルドでは、依頼かそうでないかで受付が変わっております。依頼ではない迷宮の魔物の素材を卸したいという事であれば、裏手の解体場にあります素材受付カウンターをご利用くださいませ」
「そうか、邪魔して悪かったな。ありがとう」
受付嬢に言われた通り、裏に回り、受付を探す。
すると、すぐに見つかったが、行列が出来ている。
はぁ、また並ぶのか。
おれは嫌な気持ちになりながらも、列に並んだ。
「次の奴」
ようやくおれ達の番になった。
「ウォーウルフの解体と素材の買取を頼みたい」
「なんだ? アイテムバッグ持ちか?」
「そうだ」
コサイムではアイテムバッグはそこまで珍しくないのだろうか?
受付の男は、おれ達が解体を頼むと、死体を持っていないのを見てアイテムバッグ持ちという思考に至り、そして特に驚いた様子も見せない。
おそらく他のアイテムバッグ持ちもおれ達のように、死体を持ち込んで解体を頼む事があるのだろう。
時間の短縮になるし、なにより楽だしな。
「そこに出しな」
男に指示された場所に、ウォーウルフの亡骸を取り出していく。
数えてみると、全部で三十二匹分だった。
「結構あるな。そこの傷が酷いのはダメだ。売り物にならねぇ。魔石の価値だけだ」
そう言って男が指差したのは、最初の戦闘でユースケの風の魔術により傷だらけにされたウォーウルフの死体だった。
まぁ、あれだけ傷だらけじゃ仕方ないか。
おれは潔く諦めた。
「それで、換金はいつ頃になりそうだ?」
これだけ沢山の魔物の解体だ。
時間がかかるだろう。
「ん? 金なら今渡せるぜ。珍しい魔物なら解体が終わるまで待って貰うが、ウォーウルフの相場は分かっているからな」
そう言って男は革袋からいくらかの金を取り出して、渡してきた。
「ウォーウルフの皮はありふれてるからな。一匹につき、銀貨一枚だ。魔石もこの街じゃ山のように出回る。このクラスの魔物じゃ大銅貨一枚だ」
渡された金額は大銀貨三枚と銀貨四枚、大銅貨二枚だった。
一日の稼ぎとしては、微妙だ。
やはり明日は三階層から始めるべきだろう。
早く深い階層まで潜りたいものだ。
ユースケに約束の一割、銀貨三枚と大銅貨五枚(銅貨を渡すのは面倒だったので繰り上げた)を渡し、残りを革袋に仕舞う。
さて、帰るかと裏口を潜り、ギルド内に戻ると、なにやら騒がしかった。
甲高い女の声でキーキーと喚いている。
耳障りで、不快だ。
おれの機嫌は悪くなっていった。




