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冒険者ギルド

 馬車での旅は、盗賊や魔物に襲われるなどなく、無事に終わった。


「ここが西方都市ラースか」


 周囲一帯を高さ三メートルほどの壁で囲まれている。

 その規模から見るに、中々繁栄しているようだ。


 門で入場税として大銀貨一枚を払い、おれはラースの地に立っていた。

 御者の人とは門前で分かれている。

 本当の意味でこれから一人立ちだ。

 頑張らねば。


「まずは冒険者ギルドに行ってみるか」


 門前の衛兵に聞いたとおり、大通りをまっすぐに進むと獣の顔に剣がクロスしている看板をぶら下げた建物が見えた。

 ここが冒険者ギルドだろう。


 扉を開き、中に入るとそこは酒場のようになっており、何人もの柄の悪そうな男たちがたむろしていた。

 酒場には用がないので受付カウンターに向かうと周りから視線が刺さるのが分かった。

 そんな視線を無視しつつ、受付嬢に要件を伝える。


「冒険者になりたいのだが」


 そう伝えたところ、周囲から笑いが爆発する。


「ぷ。ガキが冒険者になりたいだとよ」

「あんなひょろい奴がなれる訳ねーだろ!」

「ぎゃはは、ここは遊び場じゃないでちゅよー!」

「ばっかじゃねーのか! 十年はえーぞガキ!」


 ふむ。この反応は予想外だ。

 確かにおれは兄貴や親父殿に比べるとガタイが小さいが、前世からは考えられない程の引き締まった筋肉を付けている。

 それに確かに周りの連中はごつい感じだが、中にはひょろっとした奴もいる。

 短剣や杖を装備している所を見るに、おそらく斥候や魔術師なんだろう。


 ん? そうか。

 おれは親父殿から十歳の誕生日に貰った長剣を腰に差してるから剣士だと思われ、そして剣士にしてはガタイが小さいから舐められているのだろう。


 そうだな。ここで舐められっぱなしってのも面白くないし、我が家の家風とも合わない。

 ここは思い知らせてやるべきだろう。


サレット(黙れ)


 そう古代語で唱えると喧噪が嘘のように、一瞬にしてその場に静寂が訪れる。


「ッ……ン……ンン……!?」


 周りを見ると酒場にいた全員が目を見開いて、まるで酸欠状態のように口を開けたり閉じたりしている。

 その滑稽な光景を見て、おれは苛立っていた心が満たされるのを感じ、満足感と共に再び受付嬢に話しかける。


「冒険者になりたいのだが」


 受付嬢は驚愕の表情のまま固まっており、美人だった顔が台無しだ。

 それにしても早く返答して欲しい。

 このままじゃおれがアホみたいじゃないか。

 別にあんたには魔法をかけてないから喋れるだろうに。


「おい。おれは冒険者になりたいと言っているのだが、ここは冒険者ギルドじゃなくてただの酒場なのか?」


 そう言うと、受付嬢がハッとした表情になり、やっと再起動した。

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