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赤眼の少女が二人の剣師を下した衝撃的な組手のあと、周りの者はまるでそれがなかったかのように振る舞い、試験は定刻通りに終了した。
試験が終わった後、受験者たちは解散し、試験官の武人たちは選考のために王宮へと戻る。
「今回の志望者はまぁまぁだったな」
総括の中将がそう口にして、選考が始まった。
選考と言っても、仕組みは単純で、それぞれの武人が弟子にとりたいと思った人を指名するという仕組みだ。指名が被った場合は話し合いが行われるが、基本的には位階が上の武人の希望が優先される。
「御堂のご令嬢は私が面倒を見たいと思っています」
会議が始まるなり、烏崎が一番乗りでそう宣言した。御堂家の後ろ盾で出世してきた烏崎が、御堂ユキの師匠になるのはある意味当然の流れだ。むしろ、御堂の娘もその前提で試験を受けに来たに違いない。
「わずか12歳にして神陰流の奥義を会得したその才能は計り知れません」
「その通り。さすがは御堂家のご令嬢だ。将来、大将になること間違いなしだ」
と、腰巾着の中将も褒め称える。
確かに、俺の目から見ても、それなりの才能があるのは間違いない。
「では、御堂のご令嬢は、烏崎に任せるということで異論はないな」
もちろん、口を挟むものなどいるはずもなかった。
「では、次に――」
その後も、各々の武人が弟子にしたい受験者を宣言していく。
そして――あらかたの武人が希望を出し終え、沈黙が会議室を支配した。
――赤眼の少女を――剣師に勝ったあの天才を、弟子にとりたいという者は現れなかった。
弟子が武人になれば、それは師匠の功績になり、出世にも影響する。武人にとって、優秀な弟子は喉から出が出るほど欲しいものだ。
それなのに、誰一人少女の師匠になると言わないのは――その身分を忌避しているのだ。
「それでは、希望も出尽くしたところで……」
と中将が閉会を宣言しようとした時――
「待ってください」
俺はこの会議が始まってから初めて口を開いた。
「なんだ?」
中将が不機嫌そうな表情を浮かべる。
「スグは、私が面倒を見ます」
俺が言うと、ほとんど条件反射のように中将が顔を歪めて言う。
「お前、正気か?」
それに、烏崎も続く。
「バカは休み休み言え。赤眼が役人なれるわけがないだろ?」
武人はただの戦士ではない。王朝に遣え、官位を授かる武官だ。
確かに文官に比べれば実力主義の世界ではあるが、いくらなんでも「人でさえない赤眼」が武人になれるはずがない。それはおそらくここにいる全ての人間の認識だろう。
だが、
「王様のお達しを――王命を、みなさまお忘れですか」
俺が言うと、武人たちは黙り込んだ。
昨年、王は国力を増強するため、身分を問わず優秀な者を登用せよとのお達しを出した。
つまり、赤眼であっても優秀であれば役人にする。それが王命だ。
もちろん、それは大きな反発を生んでいるが、王命はこの国において最も強い力を持つ。
王命に逆らえば、それがたとえ叛逆などでなかったとしても、大罪になる。
貴族なら官位剥奪、平民なら賎民に身分を落とされ、賎民なら死罪――それが王命に背く代償だ。
剣師だろうが、大将だろうが、王命には逆らえない。
「今日からあの子は私の弟子です。いいですね」
俺が言うと、中将は沈黙で答えた。
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