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息を切らして自宅に戻ると、玄関にスグの小さな靴を発見した。ひとまず家には帰ってきているようだ。
「おい、スグ、一体どういうことだ!」
そう言いながら部屋に入ると、スグは部屋の隅で静かに座っていた。
その顔に笑みはなかった。
そして俺を認識すると、その赤い瞳で俺を睨みつけた。普段からは考えられないほど、憎悪のこもった目つきだった。
「聞きました。賄賂で他の受験者を辞退させたって」
「……何?」
「御堂さんが辞退した人たちは賄賂を渡されたっていうから。それで辞退した人たちに話を聞きにいったら、確かにお金を渡されたって」
俺は心の中で舌打ちする。そもそもなんであの野郎がそのことを知ってんだ。
「だが、それがどうした。そんなことより、なんで試験を辞退したんだ」
聞くと、スグは理由を答えた。
「賄賂で合格するなんて、絶対にいけないことです」
頭が痛くなった。彼女が曲がった事が嫌いなのは知っていたが、しかしまさか試験を辞退するなんて。
「バカなこと言うな。お前は実力がある。確かにお金は渡したが、受け取った奴らはみんな家が貧しい賎民だ。お金があれば、今すぐに家族を楽にさせてあげられるんだ。武人になったところでいますぐに金持ちになれるわけじゃないんだからな。お前は試験を受けられる。あいつらは貧しい家を助けられる。お互いに幸せじゃないか」
だが、スグは俺の言葉を聞く気などないらしい。
「汚いことをして武人になっても何の意味もありません」
「汚いことだと? 俺はお前のためにやってやってるのに。俺は貯金をはたいたんだぞ?」
「わたしは賄賂を積んで試験を受けさせて欲しいなんて一言も言ってません」
思わず舌打ちする。
「バカも大概にしろ」
だが、それ以上スグが何かを言うことはなかった。
とてつもない無力感に襲われた。
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