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 煙の出どころへ近づいて行くと、貧相な村が現れた。

「武人様だ!」

 馬に乗り、帯刀した俺たちを見ると、数人の村人たちは歓喜して俺たちに寄ってきた。

「ようやく助けにきてくださったんだ!」

 住民たちを見ると、皆瞳が赤い。どうやら赤眼の村のようだ。

「煙を見て来たんですが、何かあったんですか?」

 スグが聞くと、一人の村人が答える。

「魔物が襲ってくるんです。火を恐れるようので、村の周りで薪をして追い払ってはいますが。何人か殺されてしまいました」

「役所へ助けは求めたんですか?」

 スグが聞くと、村人は「もちろんですよ!」声を荒らげて言った。

「ですが、今は兵隊も武人も出払っていて、我々を助ける余裕がないから待てと言われました」

 ……確かに、先の大戦のせいで武人も兵隊も足りていないのは、どこでも一緒だ。街を守っている人員から人を割けばなんとかなるはずだが、卑しい人間のために街を危険に晒すことはできないと国司が考えてもおかしくはない。

「魔物はどんなやつですか? どれくらいいますか?」

「腐った狼です。村を襲ったのは五匹ほどでしたが、多分山の方にはもっといると思います」

「それは……今までよく武人も兵士もいない中戦ってきましたね」

 スグが言うと、村人はその手を握って言った。

「しかし、本当に助かった! 村にあった薪はほとんど燃やし尽くしてしまって、今日にも尽きるところだったんです。森に燃えるものを取りに行った若い者もいましたが殺されてしまいました。助けが来なきゃ、我々はみんな魔物の夕飯になっているところでしたよ!」

 俺は心の中で大きく舌打ちした。

 今まさに魔物に襲われているという話ならば、秒殺で倒して都へ向かえばよかった。

 だが死狼は群で断続的に襲ってくる。もし仮に村人を守るとすれば、一日か二日間ここで張り込まないといけない。

「安心してください、わたしたちが倒しますから」

 ――それが当然だというような真っ直ぐな口調でスグが言った。

「おい、バカなこと言うな。科挙はどうするんだ」

 俺が言うと、

「魔物に襲われている人たちを放ってはおけません。民を救うのが武人の仕事ではないのですか」

「科挙は待ってくれない。ちょっと民を救っていたんですが私のために再試験をしてもらえませんか、なんてそんなの通らないぞ」

「わかってます。でも、わたしは人を助けるために武人になるんです。それなのに困っている人を放って試験を受けになんていけません」

 ……スグとはわずかに一ヶ月の付き合いだが、彼女の性格は完璧にわかっていた。人を助けるためなら、自分がどれだけ損をしたって構わない。そう言う性格なのだ。

 俺がどれだけ口で言って聞かせても、彼女が村人を放っておくことはないだろう。

「わかった。じゃあ、俺が魔物を片付けておくだから、お前は先に都に行け」

 科挙は師匠不在でも受けられる。赤眼のスグを都で一人にするのは不安だったが、この状況では方法はそれしかない。

 これが間違いなく最善の案だ。

 だが――

「怪我をしている師匠だけ残していくわけにはいきません」

「なんだと?」

「腕、まだ完璧には治ってないでしょ?」

 スグが言うように、こないだの戦いで折れた腕は、まだ完治していない。

「大丈夫だ。俺は片手だけでも戦える。実際、ここまで片手で手綱を握ってきたんだぞ?」

「馬に乗るのと、魔物と戦うのとは違います」

「弟子のくせに、師匠の心配なんて十年早いぞ。とにかく、命令だ。いますぐ都にいけ」

 だが、スグは俺の言うことを聞く気など毛頭ないようだった。

「とにかく、わたしはここに残ります」

 本当に、どこまでバカなんだ。あまりのバカっぷりに呆れてしまう。

「……科挙は、身分の低いお前が身を立てる唯一の方法なんだぞ」

 それは、今まで卑しい身分のせいで苦労を強いられてきたことを思い出せと言う最後の通告だった。

 だが、スグの心が変わることはなかった。

「試験なんていつでも受けられます。でも、人を救うことは今しかできません」


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