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試験の三日前の夜、ようやく後任の武人が街に現れた。
それでようやく俺たちはお役御免。
翌朝、太陽が登りきる前に村を出た。
「飛ばすぞ」
「はい」
街までは二日。試験まで余裕はない。万が一到着が遅れれば、試験を受けることはできない。
俺たちは、都への道を全速力で駆け抜けた。
最低限の休息で、ひたすら無駄口も叩かずに、馬を走らせる。
「ちょっと待ってください」
突然、スグが馬を止めた。
「なんだ」
「あそこ、みてください」
スグの細い人差し指が指す先に目をやると、黒い煙が数本見えた。
「何かあったんじゃないですか」
確かにちょっと不自然ではあった。この辺りには大きな街はなく、あるのは小さな村だけだ。普通に風呂を沸かしたり、飯を炊いているにしては、煙が大きい。
「確かにそうだけど、時間がない」
俺が言うと、スグは険しい表情を浮かべて言った。
「距離的に大したことないです。様子を見るだけ見に行きましょう」
「おいおい、何言ってんだ」
舌打ちする。
こいつ、どこまでお人好しなんだ。
「火事でもあったんだろう。剣で火事は止められない。俺たちにはどうしようもないさ。先を急ごう」
俺がそう言っても、スグは煙をまっすぐ見たままだった。
「嫌な予感がするんです」
「おいおい、試験まで時間がないんだぞ?」
「あそこまで行くだけなら、まだ間に合います」
確かに、あそこに行って帰るだけなら間に合う。だが、それは本当に「行って帰るだけ」ならの話だ。
もし何か足止めを食らったら、試験には絶対に間に合わない。もし誰かがそこで困っていたとして、それを助けている時間はないのだ。
逆に、何も不幸が起きてなかったとしたら、単に時間の無駄になる。
どちらでも俺たちが得することはないのだ。
「行きましょう」
だが、スグの意思は変わらない。
「おいおい、マジかよ」
と、スグは俺が渋るのを無視して、馬を煙の方へ走らせた。
――全く、どこまでバカなんだ、こいつは。
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