2-7
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全速力で馬を走らせ、スグに追いつく。
「全く、絶対後悔するぞ。助けたって、なんの見返りもないんだからな」
俺が言うと、スグはまっすぐ前を見ながら「見返りなんていりません」とキッパリ言い切った。
「ちょっと……おい、あれ」
街の中心から煙が上がっているのが見えた。魔物の襲来とは全く関係なく煙が起きただけ……ならいいが。
やがて、街の入り口につくと――街は混乱のさなかにあった。
「……これは」
道路のいたるところで魔物が街人を襲っていた。その数は賎民の村を襲ってきたのとは比べ物にならない。
あたりを見渡すと、なすすべなく殺されて道端に横たわっている人が何人ももいる。
――すぐさま剣を抜いて、一番近くにいる魔物に斬りかかる。
幸い、死人は怪力以外取り柄がない。抵抗を一切許さず、手当たり次第次々と斬り捨てていく。俺とスグ一瞬で見渡す限りの魔物を片付けた。
「これで終わり……じゃないよな」
相変わらず、街の中心部分から人が逃げ回ってくることを考えると、まだまだ敵はいるらしい。
スグは俺の次の言葉を待たずに走り出した。俺もそれを追いかける。
悲鳴と逃げ惑う足音――それらに鉄の音が混じる。ある程度等間隔で鳴り響くそれは――間違いなく剣戟。
おそらく、兵隊か烏崎たちが戦っているに違いない。
道路駆け抜けて、やがて街の中心部の広場が見えてくる――
地面にはなぎ倒された兵隊たちの姿。
そして今、烏崎が銀色の甲冑をかぶった男と剣を交えていた。
兜の下には肌色が見え隠れしている。どうやらこいつは死体ではなく、生きた人間らしい。
しばらく様子を伺っていると、烏崎が防戦一方だということがわかった。
と、その後方に意識を失って倒れている子供を見つける。慌てて駆け寄ると、烏崎の弟子の御堂ユキだった。幸い傷を負っているわけではないので、どうやら壁に叩きつけられて気絶したらしい。
この戦場に放置するわけに行かないので、手短な建物の中に横たえる。
そして外に戻ると、烏崎と男はまだ激しい剣戟を繰り広げていたが、烏崎の動きには疲労が見えていた。
真正面から重たい攻撃を受け続けているせいでだろう。
わずかにだが――しかし玄人にとっては一目でわかるほど動きが緩慢になっていく。
そして――
甲冑男の大振りを受けきることができなかった。受けた剣ごとなぎ倒されて、地面に吹き飛ばされる。そのまま動かない。どうやら気を失ってしまったようだ。
甲冑男はのろのろと倒れた烏崎に向かって歩いて行く。
憎い女だ、このまま殺させてもいいが――一瞬そんな邪念も浮かんだが、しかしここは正義を貫くことにした。
地面を蹴り、一気に男との間合いを詰める。
「天流乱星ッ!」
最速・渾身の一撃で、反撃どころか、防御の時間さえ与えない。
青白く光る剣が、次の瞬間、男の甲冑に突き刺さる――と思ったが、
「甲撃!」
男の甲冑が鈍色に光る。
次の瞬間、強い衝撃。俺の一撃は男の甲冑に当たり、そしてその衝撃は俺に向かって跳ね返ってきた。耐えきれず、体を翻して間合いを取る。
どういうことだ――
天流乱星は、俺にとって最強の一撃。それを受けて、男はビクともしなかったのだ。
とあぐねていると、今度は男から攻撃してきた。
全く持って愚鈍な一撃。その動きは完全に読み切ることができる。もちろん逃げ回れば追いかけてくるので、ギリギリのところで受け流す――
だが、やってきたのは途方も無い衝撃だった。
――重たいッ!
受け流すなんて、そんな生ぬるいことを絶対に許さない、そんな重さ。全身全霊で圧を散らさなければ、吹き飛ばされてしまうだろう。
苦戦する烏崎を見てやっぱりあいつは二流だなと思ったが――これは、男が強すぎるのだ。
なんとか攻撃に耐え、体勢を整えようとするが、男は攻撃を重ねてくる。
動きは見え見えだが隙をついて、甲冑に攻撃を叩き込んだところで、通用しないのはさっき痛いほど感じた。 それに、一度相手が攻撃を繰り出せば、俺は全力で受け流すしかない。わずかにでも気を抜けば、待っているのは死だ。
攻守ともに隙がない――
「クソッ」
防戦一方。
俺はいくつもの形を会得しているが、男の圧倒的な防御力に太刀打ちできる形は一つもない。
何か策を――と考えようにも、その余裕も与えてくれない。
一撃、一撃をなんとか受けきるので精一杯だ。
「クソ」
なすすべなく攻撃を受け続け、だんだんと体に衝撃が蓄積されていく。
肢体が悲鳴をあげていた。
――それから数度の斬撃をなんとか受けきったとき、唐突に男が間合いをとった。
一休み――なんてことは絶対にないとわかった。
男の放つ殺気が、地面を震わせているような錯覚を覚える。
「甲撃」
先ほど俺の攻撃を弾き返したのと同じ形。今度はそれを攻撃に転用するらしい。
男の持つ剣が鈍色の光を放ち、次の瞬間男は一直線にその剣の切っ先を突きつけてきた。
この攻撃は絶対に受け流せないと理解して――代わりに最強の攻撃で迎え撃つ。
「――天流、乱星!」
鈍色の光と青色の光が交差する。
絶望的な衝撃。全身の骨にひびが入ったかのような痛み。
わずかに数秒、歯を食いしばってなんとか均衡を保つのが精一杯だった。
すぐに体が耐えきれなくなり、次の瞬間俺は後ろに弾き飛ばされていた。
まともに受け身を取ることもできず、地面に叩きつけられた。
暗転した世界。必死に瞼を開け、なんとか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
――男はゆっくり、しかし着実に近寄ってくる。
歩いてきた、その流れで、男は剣を振り上げそして振り下ろす――
――鈍い刃が振り下ろされる。
死を覚悟した――次の瞬間、閃光が走った。
俺に振り遅されようとしていた剣は、代わりに横から現れた銀の刃を向かい打つ。
――スグの剣が、男の凶刃から俺を守ったのだ。
「剣師様のくせに、なにしてんですか」
紅色の瞳が、男を鋭く睨みつけながら、彼女はそう呟く。
俺がてんで敵わなかった男を相手に、スグは互角の鍔迫り合いをしていた。
あの小さい身体の一体どこからあんな力が――
俺は一瞬あっけに取られるが、なんとか理性を取り戻し渾身の力で立ち上がり男から距離を取る。
男はその鍔迫り合いに勝機を見出せなかったのか、自ら後方に跳躍し、距離を開けてから、再び振りかぶってきた。
スグは再び正面から迎え撃つ。
単純な腕力だけ考えれば、どう考えても男の方が強い。
だが、スグの剣には芯があって、しかもそれはどこまでも研ぎ澄まされている。
完璧に直線の攻撃と、「曲がった」攻撃が交われば、逸らされるのは必然曲がった攻撃だ。
それゆえ、半分以下の体重しかないスグと、怪力男の剣戟が成立していた。
甲冑男はあくまで無表情で、そこに感情の機微は読み取れないが、剣は正直だった。もともと精緻ではなかった剣筋が、今はさらに雑になっている。
子供相手に互角ということに苛立ちを感じているのだろう。
男は渾身の一撃を放ち、その反動を利用いて再び後方に飛び引く。
そして男の剣が鈍色に光る。
――また、あの技を放つ気だ。
「――甲撃」
俺の全力をいとも簡単に跳ね除けた必殺の一撃。
それに対して、スグは剣を正中に構え、そして地面を蹴って自ら男へと斬りかかっていた。
――真正面から勝負を挑むつもりだ。
「おい――」
――ダメだ。
そう言おうとしたが、声が出なかった。
スグはまっすぐ敵に飛び込んでいく。
俺が、渾身の形を持ってして勝てなかった攻撃に、形も使えずただ剣一本で斬り込むなんて――
だが、次の瞬間、ありえないことが起きた。
スグの剣が、男の渾身の一撃を完璧に受け止めて見せたのだ。
スグは男の放つ剣圧に、歯を食いしばり、血管を浮かび上がらせて必死に耐える。
ほぼ互角――だと。
スグが放ったのは、なんの形でもない。
ただの一閃だ。
だが、その一閃が、男の形を迎え撃った。神影流最終奥義である<天流乱星>を持ってしても全く歯が立たなかった形と互角。それは――もはや「形」の領域だ。
男は眉をひそめた。自分の攻撃を受け止められたことに驚いているのだろう。
だが、状況が好転した訳ではない。スグの圧倒的な攻撃力を持ってしても、男の形を破るまでには至らなかった。それは、俺たちの手にあいつを倒す方法はないことを意味する。
頭の中でこれまで会得した様々な形で突破できないか考えるが、いい考えは浮かばない。
そして俺が指をくわえて見ている間も、弟子と男の攻防は続く。
――若干、スグが押され始めた。
瞬間的には男の形と同等の力を持っているとはいえ、基本的な身体能力、特に腕力は男の方がはるかに優っている。それゆえ剣戟を続ければ、徐々に無理が生じて来るのだ。
と、スグが疲れてきたことに気がついたのか、男は一気に決めにかかった。
「――甲撃!」
男の構えが剣が鈍色に光る――
と、その時だ。構える男を見て、俺はあることに気がついた。
最初に俺が男の甲冑に形を叩き込んだときは、鎧が鈍色に光り輝いていた。
しかし、今スグと激突したときは剣の方が輝いていた。
防御する時は甲冑が光り、攻撃する時は剣が光っていたのだ。
ということはつまり――攻撃している時、甲冑の方は無防備なんじゃないか。
もしその仮説が正しいなら――
スグは再びあの<形になりかけた>全身全霊の一閃で迎え撃ち、スグの剣と男の剣が激突する。
二つの力が押し合って、わずかな均衡が生まれる。
――もし俺の仮説が正しいなら、今が絶好の機会!
俺はその瞬間全力で地面を蹴り男の甲冑めがけて剣を突き出した。
「――雷火!」
その無防備な脇腹に剣を突きつけられ男は――ほんの少しだけ驚いた表情を浮かべた。だがそれは決して、死に直面した人間のそれではなく――
次の瞬間火花を散らしながら、俺の剣が甲冑と激突した。
剣が男の甲冑を突き破ることはなかった。わずかばかり傷つけることはできたかもしれないが、しかし俺の剣はやはり跳ね返されたのだ。
どうやら俺の仮説は半分不正解だったようだ。
やはり形を使っている間は防御力が弱まるのは間違いないようだが、全く無防備という訳ではない。しかもタチが悪いことに、俺の形を寄せ付けない程度の防御力は残しているのようだ。
――だったら。
「スグ、俺が奴の足を止める」
俺はそう言って二人の間に割って入る。
男は蝿にでもたかられたような顔を見せた。
そこから再び、絶望的な剣戟が始まる。一撃がさっきよりも重たく感じるのは、自分が疲れているからか、男が本気を出しているからか――
一撃受けるたびに、脳天を貫かれたような衝撃が剣を通して全身に響く。
だが、辛抱強く、その時を待つ――
そして――すぐにその時はやってきた。
男は距離を取り、そしてその剣に再びあの鈍色の光を宿す。
「甲撃!」
男の攻撃の重たさを思うと絶望的な気分になるが――
俺は剣を正中線に構えて男の形を迎え撃つ。
受け流すのではダメだ。
正面から受け止めないといけない。
「――舞葉!」
己の存在の線をどこまで薄くすることで、舞い散る葉っぱのように攻撃を受け流す柔術。
普通の攻撃ならこれで受け流せるのだが、男の攻撃は<太く>完璧に受け流さすことはできない。
それでも受けてしまう衝撃は――
「――伝地!」
全身に受けた攻撃を、両足を通して地面へと受け流す。
受ける衝撃を少なくして、そして受けてしまった衝撃は地面へと受け流す。二つの形の組み合わせで衝撃を最小化する。
ひらりと舞う木の葉のような軽やかさと、根を地面を貼る植物のような踏ん張りを両立する――俺だからこそ
きる離れ業だが、しかしそれでも衝撃を完璧に無効化することは叶わない。
男の剣が放つ圧力が、全身を締め付ける。
一瞬、ほんの一瞬、わずかにだが形の正中線がズレた瞬間、右腕に激痛が走った。
あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、死への恐怖が俺に正気を保たせた。
受け止めきれた――訳ではないが、しかし、確実に男の足は止まっている。
「スグ、今だ!」
言うと、俺の意図は伝わったらしい。
俺の目線は男と合ったまま。しかし、殺気でスグの剣がこちらに向かってくるのがわかる。
己の全身全霊を、たったの一撃に、どこまで研ぎ澄ませて集中させる。
たったそれだけの、ある意味究極に単純な技。
だが――その単純ゆえに、その技には迷いがない。
「――撃砕!」
とうとう彼女はその形の名前を――己の形の名前を口にした。
俺の視界に赤い光が現れ、その瞬間、男の脇腹に突き刺さった。
ふと見上げると、男の顔は驚きで満ちていた。そこには痛みの苦痛はなかった――それはもしかしたら忘れてしまったのかもしれない。
そして、不意に身体が軽くなった。
視界から男が消えていた。
拮抗していた力は行き場を失い前のめりになる。手をつくことさえできず、耳と頰から地面に倒れこむと、視界にはスグと男が見えた。男は剣を横腹に突き刺され、うなだれて身動き一つ取らない。
力を振り絞って、立ち上がろうとしたが、右手を地面についた瞬間、激痛が走った。
――ダメだ。多分、折れてる。
思わず悪態をつきそうになるが、あれだけの攻撃を真正面から受けて腕一本で済んだのだから運が良かったと思うべきだろう。
なんとか左手だけで立ち上がり、スグの元へ歩く。
「やった、のか」
スグは男の体から剣を抜きさる。美しく光っていた刃が、今は柄の部分以外赤色に染まっていた。
そして次の瞬間、スグの手から剣が滑り落ち地面に落ちる。彼女自身も膝をついて俯いた。
「大丈夫か」
そう聞くが、返事はなかった。あの一撃に、文字通り全身全霊を注ぎ込んだのだろう。
それに――いくら並みの武人より強いとはいえ、十二歳の少女だ。きっとその手で人を殺したことなどないだろう。その重みを知るための時間が必要なのだ。
周りを見渡すと、建物に隠れていた街人たちが少しずつ外に出てきた。
怪我をしている者は少なかった――少なくとも生きている人間の中には。襲われた人間は皆一様に死んでいるのだ。地面には魔物や、男の剣に引き裂かれた街人の死体が散乱していた。
男に苦戦したのは間違いないが、それでも最初から俺たちがここにいれば、被害はもう少し小さく済んだだろう――。
と視界の隅で、地面に倒れていた者が一人、上半身を起こした。烏崎だ。そう言えば、さっき甲冑の男に吹き飛ばされて気絶していた。
見ると額から血を流してはいるが、大きな傷はなさそうだった。
助けてやる義理もないので無視して、次の行動を考えようとしたが――
向こう側から、複数の重たい足音が聞こえてきた。現れたのは街の兵隊――に護衛された国司だった。国司は烏崎に気がつくと、慌ててそばに駆け寄った。
「剣師様!」
烏崎は声をかけられ、力なく国司の顔を見る。
「大丈夫ですか」
「ああ、なんとか」
「それはよかった。街の北半分にいた魔物は兵士が一掃しました――どうやら、甲冑の男も倒したようですね。流石です」
と、男の死体を見て国司が笑みを浮かべる。だが、さっきまで気を失っていた烏崎は状況が飲み込めないようだった。
――と、次の瞬間、国司が俺たちの存在に気がついて、苦い表情を浮かべる。
「なぜあなた方がここにいるんですか」
街を救った英雄に対して、その言い方はないだろうと思った。
「なぜって、そこの貴族様が弱すぎて敵を倒せなかったから、代わりに倒してあげたんですよ」
その事実を告げると、国司は一瞬烏崎を見たのち、毅然とした態度で俺を睨んだ。
「なんであれ、この街には入るなと申したはずですが」
「……なんだと?」
「この街から出て行ってください。今すぐにです」
あまりの暴虐ぶりに唖然としていると、野次馬になっていた街人からも罵声の声が飛んでくる。
「そうだ帰れ! 卑しい奴が街に入るんじゃない!」
一人目がそう口にしたのを皮切りに、次々に「帰れ」と咆哮する。怪我をしている者まで加わる始末だった。
「お前らがいるから魔物が現れたんだろ!」
しまいにはそんな言葉まで聞こえてくる。
そしてある男が、地面から泥を救いあげてスグに投げつけてきた。スグは自分の胸にそれが当たるのを、避けもせず、ただまっすぐ街人たちを見た。
人を殺して、助けた人に憎まれて――普通なら耐えきれない出来事だろう。だが、それも全て彼女が望んだことだった。
彼女は見返りを求めて人々を助けたわけではない。ただ彼女にとって人を助けるのが当たり前で、だから助けた。
でもだからこそ、そんな純粋で優しい彼女だからこそ、この扱いにはひどく憤りを感じた。
「どこまで腐ってんだ、この街は」
――この場で全員切り殺してやりたいところだ。
だが、バカに付き合う必要はないと思い直して踵を返した。
「スグ、先に帰っててくれ。俺は駅で王宮に手紙を出してから帰る」
スグは頷くこともなく、トボトボ街の外へ向かって歩き出した。その表情には悲しみではなく、深い諦めがあった。
俺は駅に向かい、王宮への手紙を認める。
街の被害状況を書き、ついでに烏崎の無能っぷりも詳細に記載した。
「頼んだぞ」
係の人間に紙を手渡して、駅を出る。
空を見上げて一息をついてから、村へ向かって歩き出す――
と、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
振り返ると、中年の街人だった。
「なんだ? 俺に泥なんて投げつけたら斬るぞ」
俺が言うと、男は首を振った。
「いえ、そんなことはいたしません。ただ、剣師様たちにお伝えしたいことがあって……」
「何?」
「皆剣師様にひどいことを申しましたが、国司様の手前、ああするしかなかったのです。国司様は赤眼が大嫌いで、前に病気の赤眼を介護した医者が棒叩きの刑にされたこともあるくらいなんです」
いくら赤眼が嫌いでも街を襲撃されたすぐ後、こぞって声を荒らげるものかと不思議に思ってはいたが、なるほど、それならば納得が行く。
「我々も、本当は街を救ってくれたことを感謝しているのです。なので何かお礼をさせてください。国司様の目があるので大々的にはできませんが……何かご所望のものがあれば、お礼に贈らせいただきます」
そんな提案を受ける。
「別にお前らに感謝されたくて戦った訳でもないから、お礼など」
と固辞しようとするが、街人は、
「そう言わずに……我々も命を救ってもらったのにあのような態度をとって、心が痛んでいるんです」
と引き下がる様子がない。
「……特に欲しいものはないが」
ものを貰うくらいなら、金でももらった方がいい……と思ってそう伝えようと思ったが、俺は唐突に一つ、欲しいものを思いついた。
「ああ、そうだ」
希望を男に伝えると、少し驚いた表情をしたが、俺にはかなりの妙案に思えた。
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