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天羽にやって来た翌日、村に突然の来訪者があった。
「おーい。誰か出てこい」
辺りにバカみたいな大声が響く。
何事かと外に出て、声がした方に歩いていくと、村の入り口に馬車が止まっていた。
「平伏せ、賎民ども!」
ぶしつけ呼び出されて、挙句頭を下げろ命令される村人たちを見て、全くどこのバカ貴族が現れたのかと思った。だが、声の主を見ると、そこには知り合いの姿があった。
「おいおい、平伏せと言っているだろ……」
と俺にそう言いかけた貴族は、俺の顔を確認するや、驚いた表情を浮かべた。
「なんだ、白河リュウじゃないか。なんでこんなところにいるんだ」
声の主は、烏崎ハルだった。その後ろには、烏崎の弟子になった、例のボンボン娘、御堂ユキの姿もあった。
「それはこっちのセリフだ。なんでお前がここに」
「馬車が壊れてな。それでこの村が見えたものだから、直してもらおうと思って」
なるほど、後ろを見ると、確かに馬車の車輪が一つ壊れていた。それでも無理やり引っ張ってきたからだろうか、馬車を引く二匹の馬を見ると、どこか疲れているようにも見えた。
「いや、俺が言ってるのは、なんでお前が弓の国にいるのかってことだよ」
もう答えはわかりつつあるのだが、あえて聞く。すると思っていた通りの答えが帰ってきた。
「なんでって、天馬を守る任務のためさ」
なるほど、俺以外にもう一人街を守る任務に就くといっていたが、結局こいつが任されたのか。
「お前こそ、なんでこんなところにいる? お前も天羽を守る任務を任されたんだろ?」
「色々あってな。この辺りで見張りをしているんだ」
俺が言うと、烏崎は「ああ」と一人で納得したようだった。
「大方、赤眼の弟子なんて連れてるから国司に嫌われたか。まぁ無理もない。お前たちのように貧しい者たちには、賎民の村がお似合いだな」
烏崎は息を吐くように俺たちを煽ってくる。全くもって、今すぐ殺してやりたいくらいだが、しかし相手にするだけ無駄だ。
「まぁ、お前ほどの(・・・・・)武人がいれば街も安泰だな。貴族同士、国司殿とせいぜい仲良くやって、街を守ることに精を出してくれ」
俺はそう言って踵を返す。これ以上やつの顔を見ているのは不快だった。
いつか大将になった暁には、真っ先に流刑にしてやると心に誓った。
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