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海賊たちの声  作者: 時津彼方
第二章 海賊たちの声
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3、雨降りし、出航の準備

 一週間経ち、追加の小道具や衣装が大体できたころ、三時間目も総合になり、役決めが始まった。クラス二十人全員が一つの教室に集合した。先生が前に立った。

「はーい、みんな静かに。今から役決めをしまーす」

 拍手が起こった。

「そして、今日の司会は町田君にしてもらうことにしました!」

 拍手は一層増し、歓声も飛んだ。

「えっ、先生そんなこと聞いてないですよー」

 俺が抗議していると、

「早う行きーや、啄木。長なるでー」と、仁がヤジを飛ばしてきた。仕方なく、俺は前に立った。


 クラスメイトは、この時の啄木が“モード”に入ったことに、もう気が付いていた。町田啄木、彼という人間はやるときはとことん、人の何百倍もする性分の持ち主で、その“モード”に入ると、人格すら変わってしまう。

 そして、場の空気が変わった。

「よし、じゃあ役決めをします。開始に先立って、書記係二人、秀人と弘子、よろしく」

 指名された二人はすぐに立ち上がって、手早く黒板かノートかをじゃんけんで決めた。

 ゴーサインが出たのを確認し、啄木ははきはきと進行を始めた。

「えー、じゃあまず、ナレーターから。Aやりたい人ー?」

 二人が手を挙げて、じゃんけんで手早く決まった。いつも、啄木が指揮を執るときはみんなもそれに感化される形で、普段の何倍も早く行動する。

 その雰囲気を見て、先生や他のクラスメイト達は彼をクラス長、児童会に薦めるのだが、

「自分の時間が減るから嫌。それに、俺はそういうの向いてないから」の一点張りだ。

 小学二年生の時に、くじ引きで司会を決める先生にあたり、その時偶然発見された彼のカリスマ性は学校の各部署から要請が来るほどだったが、同様の理由で断っている。そもそも、“モード”にはいったときのことをあまり覚えていないようだ。それを、「出まかせの言葉なんて信じられるか」と本人は言っているが、クラスメイトは“モード”中の彼には一目置いている。

「よし、ここで折り返しだな。今から主要キャラの役を決めていきます。まず、キャプテン1、やりたい人ー?」

 ここで何人もの、いわば“運動できる族”が手を挙げた。これは後回しにして、オーディションを行うのが通例となっている。因みに、キャプテンなどの主要キャラは前後半で変わる形になる。

「じゃあ後で。次、キャプテン2、やりたい人ー?」

 すると、驚いたことにみんなが啄木のほうに一斉に指を指した。啄木はびくっとして周りを見た。キャプテン1の立候補者も、仁も若葉も楓も、最近やっと右腕の骨折が治って学校に来始めた和哉も。先生はすべてを知っていたかのような笑みを浮かべている。

「えっ、あ、えーと」

 ドカッと笑いが起こった。普段“モード”の解除は自分の席に座ったタイミングで起こるのだが、やはり急に主役を全員に指名されたら動揺は隠せなかったようだ。

「お前がやるんや、やるしかないやろ」

「いや、そんなこと言ったって……」

「タク」

 一番前の席の和哉が口を開いた。

「これを提案したのは俺だ。病院に仁が台本を持ってきてくれた時、全部を聞いた。これはお前が主役の舞台だ。お前の引っ越し前の花の舞台、俺たちで全力でサポートさせてもらう。キャプテン、やるんだ」

 和哉は右手を突き出してきた。俺は苦笑いしながら、仕方なくその拳に自分の拳をぶつけた。拍手が起こって、まるで青春ドラマのような光景がそこに生まれた。

「じゃあ町田君、キャプテン1のオーディション、隣の教室でやってきてくれる?ここからは先生が決めておくから」

「わかりました。じゃあみんな、行こう」

 啄木たちが教室を出て行った後、先生が前に立った。

「じゃあ決めていくね。みんないい感じだったよ。やっぱりこういうちょっとしたことでも印象に残りやすいから、町田君のこの学校での最後の思い出、たくさん作ってあげようね」

「もちろんです。任せてください」

 若葉が自信ありげに言った。


 台風のシーズンが過ぎてからあまり雨が降っていなかったこの地域で、今日は久しぶりに雨が降った。この雨がいずれ、川となって海に流れ、かつて男たちを駆り立てた理想郷へと変わっていく。

「海は変わらない。土の道は泥になり、割れ、崩れる。でも、この海だけは、俺たちに確実な道を示してくれる。道なき道を、進む覚悟はできているか?」

 キャプテンが初めての出航前に仲間たちに語った言葉がこれだった。五人は久しい雨を見て、その言葉を思い出した。

 別れはいずれ来るもので、早いか遅いかだけで人が悲しむか悲しまないか、そもそも悲しむほどの人が周りにいるかさえわからないものだ。

 そして、別れと出会いは同時に起こる。一人になってしまった時、初めて本物の自分と会える。その自分を、ありのままに生きていくか、それを捨てて新しく偽りの仮面をかぶって別の日々を送るか。そして、人は交流を繰り返すうちに以前のことを忘れてしまう。 

 せいぜい走馬燈として人生の最後を締めくくる程度だ。

 でも、そのようなことにおびえることはない。俺たちは最強のチームだから。そして、そのことをほかの四人も思っているだろうから。そう信じているから。自分自身をなお信じられる。

 出航の時は、迫る。

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