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4話:感覚


·····時の流れが、随分と緩やかに感じた。


突如として訪れた喧騒――――崖崩れに巻き込まれた俺は、重力に引かれて中を舞い―――否、断崖絶壁の頂から落下していた。


その最中、俺と共に放り出された岩や土塊が、瞳に鮮明に映し出される。



魔導強化(エンハイス)を施したところで、この高さからの衝撃は受けきれないか―――――)



迫り来る地表に、微かによぎる焦燥。


だが、その極限の状況下で身をもって感じる大自然の息吹が、俺の頭にひとつの言霊を宿らせた。



「·····伸空波(ブロウ・ライド)!」



俺が呟くほぼ同時に、手のひらが暖かな感触を纏う。


その感触を握り締めると、力の矛先を大地へと向ける。そして――――



「·····!」



空気を圧縮、解放し打ち出す魔術である、伸空波(ブロウ・ライド)。本来の用途とは少し離れているが、この魔術はこんな ”芸当” にも使える。


手のひらから打ち出された大気は、真っ直ぐに大地へと突き進み。そして、大地にぶつかり()()()()()


俺と言う存在を、重力という枷から解き放つ上向きの力。それは理論上、”飛行”すら可能とする魔術の()()である。



「·····うおおっ!?」



·····だがそれは、1寸の狂いも無く魔術を撃ち放った場合の話し。俺はまた、マナの調節を誤ってしまっていた。



(吹き返しが強すぎるぞ·····!)



吹き上げる力によって落下の勢いを相殺し続け、安全な着地をすべく放った1射目。その威力は、明らかに俺が想起していたものではなかった。


崖の高さを優に超え空高くまで舞い上げられた俺は、きりもみ状態から復帰すると直ぐに、2度目の魔術を放つべく再び手のひらへマナを纏わせる。



「·····伸空波(ブロウ・ライド)ッ!」



出力されるマナを加減し、今度こそ体重を支えるに相応しい強さに打ち出された大気は、今度こそ思惑通りの強さの上昇気流を生んだ。



「·····まずいな」



だが、それは同時に次なる問題を提起し、俺に休み暇を与えてはくれなかった。



(着地点はどうする·····!?)



自身の勢いだけを殺したため、共に落下し始めた土砂が先に地面に堆積してしまっていたのだ。

土や砂だけならともかく、巨大な岩や裂けて尖っている木の幹が混ざり、平面など存在しない。



(崩れてくれるなよ·····っ!)



祈るような気持ちで、俺は最後の魔術を放つ。

少しずつ位置を微調整し、なるべく平坦な場所へと自らを誘導する。

そしてついに、つま先が大地に触れ―――――



「··········」



若干ぐらいついたものの、着地に成功する。


生身であの落ちていれば命がいくつあっても足らないが、これはやはり、魔術の恩恵と言うべきだろう。



「·····ふぅ」



落ち着きを取り戻した世界。見えるのは、だだっ広い草原と、その先に小さく見える建物。·····そして、背後には崩れた岩肌。



「天国と地獄だな·····これは·····」



全面に広がる静寂と、背後に広がる混沌。付着したドロを払いつつ息をつく。すると―――



「·····ん? あれは―――」



建物がある方角から近寄ってくる、複数の人影が目に入る。

彼らが近付いてくる程に鮮明になる服装は、どこかで見たことのあるような、いかにも”軍人”らしい、締まりのあるものだった。



(有効範囲内に入った瞬間攻撃··········は·····流石にしてこないか·····?)



見えるのは3名。今の俺の容姿より、一回りほど歳を重ねているだろう男と、その男よりは少し若い、背の高い男。そして―――――



(··········)



その2人に挟まれ、中央を歩く”少女”。



「·····君、どこから来たんだい?」


「··········」



”男”の第一声は、それだった。



「·····あの上から、落ちてきた」


「上って··········この上·····?」


「ああ。·····この上からだ」



いつでも戦闘(行動)に移れるよう、身構えながら。彼の質問に答える。



「落ちてきたって·····怪我は? 骨とか折れてないんスか?」


「·····折れてはいないし、怪我もない」


「マジっスか?」


「·····本当だ」



”男”に比べて軽い口調で話す”若い男”の質疑に答えると、続いて2人の背後に立っていた”少女”が一歩前へとやってくる。



「もしかして、崖が崩れた時·····この上にいたの?」


「·····そうだ。そして、この災害に巻き込まれたわけだ」


「なるほど·····。·····あ」


「ッ!」



目の前に気を取られた結果、意志を持たない攻撃に脳天を抉られる。

俺が着地してからもしばらく降り注いでいた細かな砂埃に混じり、小石が落ちてきたのだ。



「だっ·····大丈夫!?」


「·····これは·····効いたぞ··········」



あらぬ衝撃に備え全身に施していた魔術”エンハイス”が、思わぬ所で機能した。かけていなければ、本当に死んでいたかもしれない。



「随分頑丈な方っスね·····」


「一度治療を受けた方が良い。ベル、取調べは後でにしてやってくれ」


「·····いや、それには及ばない」



一瞬よろめきはしたが、この程度の痛みなら行動に支障はない。確かに痛いが·····もっと辛く、もっと深い傷を受けたことがあるから。



「·····何か、言いたいことがあったんじゃないのか?」


「·····」



すると、”ベル”と呼ばれた少女が耳をぴくんと反応させ、手を伸ばす。



「·····それじゃ、改めて。私は魔界軍第5大隊所属、ベル・サーフィス・ファルガバート。よろしくね」


「·····よろしく頼む」



差し出された小さな手を握り返すと、彼女は柔らかい笑みを浮かべ―――――



「それじゃ、向こうを向いて。背中側で、手を合わせて?」


「·····?」



有無を言わせぬ·····と言うような圧は上がったのだが、不思議なことに、この言葉には従わなければならない。彼女のそれは、そう思わせるような口ぶりだった。



「はい、おわり」



そして、”カシャリ”という音が背中側で鳴り、再び振り向いた俺の顔を、彼女―――ベルは先と同じ柔らかい笑みで迎える。



「··········」



·····俺の手首には、金属の輪が嵌められていた。



「·····まるで罪人だな」


「··········」


「··········」


「··········」



俺が口にした言葉を最後に、皆の口が閉ざされる。その沈黙に耐えかね、俺は再び言う。



「·····なんの真似だ?」


「··········」


「··········」


「·····なんの真似だと聞いている」


「·····あの、ちょっと待ってね? ·····あなた、自分が罪人だってこと·····理解してる?」


「···············なに?」



3人の目を、代わる代わるに見る。それらはどれも―――



「あんた·····もしかして·····!」



”若い男”の目の色が、少し変わる。

·····その色に俺は、”敵意”を感じた。



(やはり·····魔界は魔界か·····!)



手錠を魔術によって破壊し、エンハイスによる強化でこの場を離脱、叶わない場合は―――――



「待って、オーランド」


「·····」



恐らく、次に目の前に繰り広げられるであろう光景を予期してか、”ベル”が俺と”オーランド”の間に割ってはいる。



「オーランド、この人は魔族だよ」


「なっ·····」


「·····人間のマナって感じじゃないから、大丈夫」



·····やはり、この少女の言葉には、そうさせる力がある。

大人しく引き下がるオーランドに変わり、”男”が俺へと歩み寄り、鎖と俺とを繋ぐ。



「手荒なことはしたくないから·····大人しく、ついてきてね」


「·····こちらも、歯向かうつもりはない」


「よろしい。·····じゃ、行こうか?」



·····その言葉を最後に、俺と、3人との会話は途絶えた。


ベルは先頭に立ち、ただ、だだっ広い草原を進んでいく。



「··········」



徐々に近付く建物、そして街。


たどり着く場所は、あの街のどこなのだろうか。


俺の罪状とは、その罪による罰とは、如何程のものなのだろうか。


そして―――――



(あれは·····本物の··········)



俺を連行する、彼女の腰の下辺りで揺れるもの。毛玉―――否、尻尾。


そして、さほど長くはないサラサラの髪の隙間から飛び出た、同じくふわふわの柔毛に包まれた丸みを帯びた三角形―――否、獣耳。



(彼女は一体·····何者なんだ·····?)



そんな疑問を胸中、抱いていたのだった。








to be continued·····


お読み頂きありがとうございます!


次の更新もお楽しみに!

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