1話:始まりの街
例えるなら、それは光と闇。
2つに分かれた世界で、俺は生まれた。
『お前は”勇者”として生を受けた。悪の根源”魔王”を打ち倒し、この世界に真の平和を齎すのだ──』
そんな言葉に始まった俺の人生は、無情にも、終わりを告げようとしていた。
……いや、宿命とも言えるか。
討つべく敵、最終目標であるその存在──魔王との対峙の末、俺の剣は彼の左胸を刀身の半ばまで穿いていた。
だが同時に、彼の剣もまた、俺の心臓を穿いていたのだ。
そして。
『────』
薄れゆく意識の中、誰かの言葉が頭をよぎる。
あれは、誰の声だっただろうか──
そこは、闇の中だった。
決して比喩的な意味ではなく、本当の意味での、完全な暗闇。
「ここは・・・?」
一切の光が指さない、漆黒の世界。
湿った土の匂いと、肌を刺す異様な冷気が漂う。
(水の・・・滴る音)
地べたにうつ伏せでいたらしい体をゆっくりと起こし、頭上を気にしつつ立ち上がる。
(天井は低くはない。道幅は、人ひとりと少し分か・・・)
暗闇、過度な湿気、水音。そして閉鎖的な空間。それらの情報から、今自分がいる場所はどこか。経験則での考察だが、ここが”洞窟”あるいは”洞穴”の類いだと判断し、更に思考をめぐらせる。
(俺は、なぜここにいる?)
唐突だが、ここで少し自己紹介をしようと思う。端的に言うと、俺は勇者だった。
特に自称していた訳では無いが、周りの人間は俺の事をそう呼んでいた。
(俺は魔王と戦っていたはずたが・・・)
戦っていた、と言うと語弊がある。厳密には、決着がついていた。
記憶に残る最後の情景。それは、魔王の左胸を貫く黄金の剣。そして、俺の左胸を貫く漆黒の剣。
(あれは恐らく相打ち・・・だったのだろうか)
自信を持って言えたものではないが、あの状態から魔王が生きているとは考えにくい。
だが、あの時、剣に胸を貫かれた魔王は笑みを浮かべていた。まるで勝ち誇ったかのように。もしくは、俺を嘲笑うかのように。
(俺は・・・負けたんだ。俺の任は魔王軍の全滅。それが確認できないまま絶命したなら、それは敗北だ)
まあ、仮にここが死後の世界で、冥土にでも繋がっているのからその限りでは無いが──それは、俺が死んでいるのならの話だ。
生きているのなら、まだ俺の任は終わっていないと言える。
(どこも痛みはない。毒や麻痺も無い。呼吸も正常)
体は無事。
であるならば、ただ立ち尽くしている訳には行かない。
自身の生死について一旦考えることをやめると、俺は立ち上がる際に掴んだ小石を手のひらの拡げると、術を唱えた。
「ウィスプ」
途端、手のひらにじんわりと熱を感じると、それに呼応するかの様に小石が発光し始める。
”魔術”
それは大気や物体に含まれる魔力を活性化させ、あらゆる事象を引き起こす、言わば不可能を可能にする力だ。
ごつごつとした岩肌を柔らかく照らす光は、主に街頭や夜間の灯として使われる魔術だ。
基礎的な術のため魔道士の鍛錬を積まなくても使用でき、人間たちの生活の一部として浸透していた。
つまるところ、俺にとってみれば、当たり前に使える
──はずだったのだが。
「なに・・・?」
手のひらで輝いていた小石は、その輝きをわずかの間に強め続けると、突如として炎のように燃え上がり、ポンっという軽い音と共に跡形もなく消滅してしまった。
(何が起きた…?)
自らの手の中で起こった現象に、俺の混乱は一層深まる。
手馴れた魔術操作を誤ったとなると、やはりこの体には何かがあったのだと悟る。
(魔力が欠乏しているのなら、そもそも術が起動しない。発動後に充填される魔力量が安定していないのなら、炎が揺らぐ。その前触れもなく、上がり続ける出力・・・か)
こんな姿を仲間たちが見たら、さぞかし笑われていた事だろう、と。自らの失態を心で嘲笑う。
「・・・」
そして、足元の感触を頼りに、触媒となる新たな小石を拾い上げた──その時だ。
「ウィスプ」
世界に、光が戻る。
(そうだ、こんなところで時間を使っている場合ではないな。皆を探さなければ。皆を──)
そう思い立ち、俺は気付いてしまった。
(皆・・・?)
仲間、確かに共に歩んだはずの友だちの名を、顔を、存在を。
そして、自分の名前さえも。
「俺は・・・誰・・・なんだ・・・?」
勇者だった俺は、勇者だった俺の記憶を、無くしていた。
to be continued·····
お読みいただきありがとうございます<(_ _)>
続くエピソードも、是非お楽しみください!