プロローグ:行き着いた先
ある日、夜風に肌を撫でられながら、満天の星空を眺めていた。
森羅万象のあらゆるものが存在するこの世界で、この光景は何よりも美しいものだと思う。
「どうしたの?こんなところで」
空を見上げる俺に、声がかかる。
「星が綺麗だ」
俺が応えると、その声の主も同じく星空を見上げる。
「そうだね。今日は空気が澄んでいるから、いつもより綺麗に見えるのかも」
そういう彼女の瞳にも、満点の夜空が映し出されている。
「君が隣にいれば、より一層、綺麗に見えると言うものだ」
「……ふふっ。おだてたって、なんにも出ないんだからね」
そうすまして言う彼女だが、彼女から伸びるふわふわのしっぽは、まるで持ち主の感情を映すかのように左右に振られていた。
「その服装では、少し寒くないか?」
「……そうだね。少しだけ……いや、結構寒い」
「どれ」
肩をすぼめた彼女を、着込んだコートの中に抱き入れると、俺は再び夜空へと目を向けた。
「あ、流れ星!」
彼女が呟いた。
この時期、流れ星は決して珍しいものではなく、少し空を見ていれば出会えるようなものだ。
「そういえば、星が流れる間に願い事をすると、願いが叶うらしいと聞いたことがあるな」
「それじゃあ──」
目をつぶりしばらく無言でいた彼女が、再び空を瞳に映す。
「どんな願い事を?」
「ずっとこんな時間が、続きますように。って」
「……そうか」
「あ、今照れたでしょ?」
「……」
いたずらっぽく俺を見上げる彼女から、今度は俺の方が目を逸らすことになった。
「……そうだな。ずっと、続くといいな」
「……うん」
「……」
「……」
沈黙すら愛しいこの世界で、契り、約したもの。
”心”や”頭”ではなく、”魂”そのものに刻まれた誓い。
俺という存在を、誰よりも、何よりも強く肯定し受け止めてくれる存在を、俺は何よりも大切にするだろう。
「闇夜に浮かぶ明月の下、巡り逢ひて無窮の如し、影を並べん。だったな」
「あ……」
「思い出さない日はないな。こうして星を見ていると、思い出す」
「……それ、恥ずかしいから覚えてなくてもいいのに」
この言葉は、彼女の母親の生まれ故郷で詠まれてきた誓いの言葉、だそうだ。
「せっかく君から貰った言葉だからな。そう簡単には忘れないさ」
「……お星様へ。わたしの恥ずかしい言葉を、この人が忘れてくれますように!」
「忘れませんように」
「うぅ〜!」
詩とも唄とも取れるあの言葉は、彼女の故郷に伝わる”まじない”らしい。
”魔法”でも”魔術”でも無く、けれど絶対的な力を持つ”まじない”。誰かと誰か、2人を繋げる……いや、世界すら繋げてしまう、唯一無二の”言葉”。
「……ねえ?」
「うん?」
僅かな沈黙の後、彼女は俺の手を取り呟いた。
「……ずっと。ずぅっと。一緒にいてね」
その身体を静かに抱き寄せ、応える。
「約束する。永遠に、共にあると」
国を背負う。そんな宿命は、随分と昔にも背負っていた気がする。
けれど、今の俺とあの時の自分とでは、決定的に違うものがある。それは、背負う”もの”、そして背負う”理由”が明確であること。
そして―――――
「……愛しています。これまでも。これからも、ずっと」
「なら俺も、君に負けないくらい、君たちを愛さなくてはな」
その宿命を、”共に背負ってくれる”人がいるということだ。
「良いものだな。平和は」
「うん……!」
今日があり、明日が来ること。
大切な人を抱いて、共に生きること。
当たり前のようで、そうでないこと。
これは俺と、彼女が。そして、数多くの者たちと積み上げ、築き上げてきた歴史の物語だ。
少しだけ、昔話をしようか――――――
to be continued·····
お読み頂きありがとうございます<(_ _)>
是非、本編の方もお楽しみくださいませ!