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前回のあらすじ


ビビは明日にでも街を出るようだ。


少し悲しいが仕方がない。へこんでてもあれだし、腕によりをかけてメシをつくってやろう

 


「お婆ちゃん、帰ってこないね」


「だな」


 夜も更け、乾いた服を着込み、先に夕食を食べ終わって、二人そんな事を呟く。


 いつもなら、遅くても大体この時間には婆ちゃんは帰ってくるのだが、今日はそうはいかなかった。


 二人だけのお別れ会というのも、虚しいので、早く帰ってきて欲しい限りなのだが。


「何か、あったのかな?」


「考えられることと言ったら、雨で立ち往生してるとかかなあ。もうやんでるけど」


「......! 迎えに、いかなきゃ!」


「そうは言うけど、何処に行ってるか聞いてないし、皆目検討もつかないんだよ」


「むー」


 リスみたいにほっぺを膨らますビビ。


 帰ってくるとばかりに、婆ちゃんの行く先を聞いていない俺が全面的に悪いだけに、可愛いよりかは、罪悪感の方が抱く割合は大きい。


「二人で探しに行くか? あんまり街をまわってないだろうし、夜の街も見といて悪くないと思うぜ」


「人は?」


「......多いな」


 昼は地元の店が、夜は露店や屋台といった出店が並ぶのでいつも人の通りは多い。


 雨が降っていたのなら少しは人の数は減るのだが、ビビにとっては生憎にも、雨はすっかりあがっている。


 裏道も夜の暗さに飲み込まれて、通る人はいないというか、本当に危ない。


「(あ、今日は船が止まってるから、人は少ないのか)」


 さて、どうしたものかと頭を悩ませていると、来客を知らせるベルの音が鳴る。


 すでにトビラの鍵は閉めていたので、鍵を持っていないと開かないのだが、つまりはそういう事だった。


「俺が行くよ。ビビはここで待っててくれ」


「うん」


 そう言って俺は急いで2階から降りると、案の定婆ちゃんの姿がそこにあった。


「今帰ったよ」


「おかえり。遅かったから心配したぜ」


「町長のやつと話し込んじまってね。心配かけたのなら謝るよ」


 町長ってことは、役所に行ってたのか。


 二人は旧知の仲だとは聞いてるし、話も長くなるものだろう。


「帰ってきてくれてるから別に気にしねえよ。先にメシは食べてる、婆ちゃんの分は今から作るよ」


「いや、私は今日はいい。お茶請けの菓子を食べすぎておなかいっぱいなんだ」


「子供かよ......明日にはビビが街を出るみたいだから、今日はご馳走だってのに」


「おや、そうだったのかい。アルマ、何か変なちょっかいでもだしたんじゃないだろうね?」


「だしてねえよ............多分」


 自覚はなくともやらかしてしまっているかもしれないので、言葉を濁しておく。


 そんな俺の様子に、婆ちゃんはニヤリと口角を上げた。


「ま、あんた達2人の様子は役所からばっちり見えてたからね。二人仲良く頑張ってたじゃないか。雨に濡れた商品の方も、片付けてくれてるみたいだしね。よくやったじゃないか」


「あ、おう」


 頭にしわくちゃの手をのせられる。


 不思議なあたたかさがあって、小っ恥ずかしいけれど、悪い気分ではなかった。


「おや?」


 手を離すと、少しわざとらしく、婆ちゃんは半音あがった声を出す。


 何かあるなこりゃ。


「どうしたんだ、婆ちゃん?」


「帽子を役所に忘れちまった。困ったね......」


「今から取りに行くのか?」


「......」


「......」


「......」


 無言の圧力。


「わーったよ。取りに行ってくるよ」


「いやー、悪いねえ。アルマが優しい子でよかったよ」


 言わされた感はすごいが、俺の持ち主は婆ちゃんなのだから、俺はどうこう言う義理はない。


 批判はしないが、言いたいことは言っておこう。


「役所なんだよな? ビビも連れて行っていいか?」


「構わないよ。ただ、私が呼んでくる。アンタは店先で待ってな」


「お、おう? わかった」


「頼んだよ」


 そう言うと、婆ちゃんは2階にへと上がっていく。


 女同士のナニカというやつだろう。


 俺が入っていく勇気はない。


 婆ちゃんを見送り、俺は言われた通り雨で冷えた空気に染まった夜の街に出ると、店先でビビを待つのだった。


 *


  ラマス武器屋店内。


「(悪いね、アルマ)」


 アルマを追いやった後、ラマスが2階にへとあがると、椅子に座ったままじっとして何処かを見るビビの姿があった。


「あ......おかえり、なさい」


 ラマスを見るなり、ぎこちなく小さく出迎える。


「はい、ただいま。掃除の方、ありがとうよ。明日には出るんだって?」


「うん。ありがとう、ございました。アルマ、どこ行ったの?」


 姿が見えないからなのか、ベルの音を聞いてなのか、はっきりとはしないが、不安そうにビビはたずねる。


「忘れ物をしちまってね。アイツに取りに行ってもらうことにしてね。どうせならと、アンタを呼びに来たのさ。今日は雨だったからか、人も少ないしね」


「......! わかった」


「ちょっとお待ち」


「......?」


 ビビを呼び止めると、ラマスは自室のタンスから1枚の布切れを手にし、またリビングにへと戻る。


「これをやるよ、記念だ」


「......これは?」


 ビビは不思議そうに手渡された品を見る。


「ヘアバンドだよ。付けてやる」


「えっ、あの」


「ババアのお節介だと思ってくれ」


 有無を言わさず、ラマスはビビの前髪をわけると、そこに添えるように真っ黒のヘアバンドを巻き付ける。


 純白の瞳がラマスをうつし取っていた。


「......」


「なーに、恥ずかしがってるんだい。隠すのが勿体ないくらい綺麗な顔をしてるじゃないか」


「......きれい?」


「ああ、私が見た中で一番綺麗な目をしとるよ」


「......お婆ちゃん、アルマみたいなこと、言ってる」


「おや、そうかい。あいつも、隅に置けないね」


「......うん」


 そう言って、顔を赤くするビビ。


「まあ、気が向いた時につけてくれるといいよ。次は何処に行くんだい?」


「特には......」


「そうかい。何ならあのアホを連れて行ってやってほしいよ」


「えっ?」


 ラマスの言葉にビビは大きく目を見開いた。


「おや。そんなに意外だったかい」


「その、アルマはお婆ちゃんがいるから、旅にでないって」


「だから、私がアルマを旅に行かせないひねくれ頑固ババアだと思っていたのかい? はっはっは! 笑わせるねえ!」


「そうじゃ、ないの?」


「むしろ逆さ。私としてはアルマには外に出てほしいよ。あの子はそうはしたくないみたいだけどね。私が、鎖になっちまってるのさ」


「......アルマはお婆ちゃんに恩を、感じてた。その思いは、本物」


「言うじゃないか。でも、私に縛られる必要なんてないのさ。もっと自由に生きていいと私は思ってる」


 アルマは自らを道具であると自覚している節と、道具は使用者のそばにいなければならないという強い信念を持っている。


 しかし、ラマスはそれを嬉しく思うも、よくは思っていなかった。


「............お婆ちゃんも、アルマも、難しいね」


「面倒な2人で悪いね。アンタとしては、どうなんだい? アルマと一緒に」


「行きたい」


 ラマスの言葉に被さるように、ビビは言った。


「ついでに聞くよ。あの子のどこが、気に入ったんだい?」


「......わからない」


「......」


「わからない。アルマが嬉しいと、ワタシも嬉しい。この気持ちは、わからない。でも、アルマはとっても優しい魔力の感じが、するの。それは、本当......だから、なのかもしれない」


「(おや?)」


 告白に近い彼女の言葉を聞き遂げていると、ラマスは自らの視界に文字が揺らめき始めてきたのを感じた。


【鑑定】が作動している?


 となると、目の前にいるこの子はスキル持ちの人間ということになる。


 自分以外のスキル持ちの人間に会うのははじめてだったが、こんな風になるのか。


 どれどれ、彼女は一体......。


 はっきりと見え始めてきた文字に、ラマスは目を走らせる。


 星屑の剣


 攻撃力:? 防御力:?


 スキル:星

 ・

 ・


 固定スキル:意思あり(セミリア)

 ・この武器は魔力を持ち意志を持つ

 ・人間体に変化することができる




「(......!?)」


 攻撃防御ともに未知数、更にはスキルに至ってはなぜか空白で見ることが出来ない。


 それよりもだ。


 目の前にいるこの少女は。


「(......相応しいのは、きっとこの子だね)」


「お婆ちゃん?」


「もしかすると、その答えがわかるかもね」


「それって」


 ラマスは、小さな青い宝石がついた指輪を自らの指から外す。


 彼女にとっての家族を、ビビの右手中指にへと通した。


「......っ!?」


 瞬間、ドクンと心臓がはねるのをビビは感じ取る。


 指輪から流れてきたのはあの時の、あたたかい感覚。


 自身の魔力が絶大に増幅してみせたのを感じるのを同じくして、アルマに触れてもらった時の、陽だまりのような温もりが指輪からながれこんでくる。


 彼が、彼が今、ここにいる。


 意思あるものとして、それを理解するのに時間はかからなかった。


「どうしたんだい?」


「とても、あたたかい感覚。それに、チカラが湧き出てくるような気がする......」


「おや、そうなのかい。そいつは攻撃力も防御力も大して上がらない。ハズレなんだけどね」


「そんなっ!?」


 確かにビビは、このあたたかい感覚によって不思議と力が湧き出してくるのを感じていた。


 ラマスの説明とは大きく違う。


「......私はね、いつも考えているんだ。どんな武器にも装備品にも相応しい使い手がいるってね。こいつは、かつての存在がであるお前さんが使うのが相応しいのさ」


「......アルマは、ワタシと同じ?」


「さあ? どうだかね。本人は否定してるよ。本人が言うなら、アルマは違うんだろう。さ、店先で寝てるだろうから、起こしてきな。その指輪を見せれば、嫌でもお前さんについて行くよ」


「......」


「私は別にあの子に戦ってほしくないなんて、思わないさ。あの子だって、道具の端くれ。でも、武器としてはヘナチョコだし。それに、装備しないと姿を現すことも出来やしない。それでもいいかい?」


「......うん。ありがとう、お婆ちゃん。ワタシは、アルマに使ってもらいたい。アルマなら、ワタシを、使える」


「そいつはよかった。アンタが何なのかは知らないが。使い手を見つけたわけだ」


 ビビのセリフにとってつけたような言葉をラマスは選んだ。


「............ありがとう、いってきます」

「ああ、いってらっしゃい。アルマには寝るって言っといてくれ。あと、そうだね......」


「?」


 ラマスはビビに耳を貸せとジェスチャーすると、こそこそと彼女の耳元で話し始める。


「わかった」


 それが終わると、ビビは真剣な表情で頷くと、トントントンと、軽快なステップを奏でながら1階にへとおりていった。


「さて、あの爺の勘がハズれてくれればいいんだけどね」


 1人、店に取り残されたラマスはそう願うのだった。


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