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雨のち雨



前回のあらすじ



2人で頑張って掃除をしていたら、懐かしい話に花が咲くものの、雨が降り始める。

 


「うおお! 急げビビぃ!」


「......っ!」


 勢いが強くなってきた雨に慌てながら、俺達二人は店先に出していた商品を店内にへと移していた。


 あれからビビは街の人に話しかけられても、上手くやり過ごしてくれ、何だかんだ順調に掃除作業は進んだ。


 それで、ちょっと休憩してた時に、ビビが魔炎くんがどんなのか気になるとかで、実演してみせたのだが、その後に雨に降られたというわけである。


「だあああ、これで全部だな?」


 転がり込むように店に入り込む。


「うん......急に降ったね」


「お天道様なんて、そんなもんだよ」


「掃除、終わってない。お婆ちゃんに、怒られない?」


「大丈夫だろ。婆ちゃんだって流石にわかってくれるさ。それでも、やれることはやっておこう。まずは、水気を取らないとな」


 床に散乱した、濡れた商品の1本を拾う。


 外に出していたのはグリモワールとかの紙書物ではなく、どれもこれも金属製品だったのが幸いではあったが、錆びないように、また後で水気を取らないといけないのは、中々面倒でもあった。


「くちゅん!」


 とか、考えていると可愛いくしゃみが聞こえる。


 雨に打たれることを度外視してやっていたせいか、二人ともびしょ濡れだった。


「大丈夫か? 体冷やして、風邪でもひいたら大変っ!?」


「......?」


 くしゃみをしてみせた彼女に目線をやったことで、気がついてしまう。


 作業をしていた時は無我夢中だったこともあってか、気にもとめてなかったが、冷静になった今、改めて見てみると彼女の服が雨に濡れて、肌に張り付き、彼女のカラダの線を嫌でもわからされる。


 その姿は、かなり魅惑的だった。


 それに、髪も雨で濡れたせいか、普段はあまり見えない彼女の瞳もわずかながら垣間見えている。


 水も滴るいい女とか、なんとか。


「あ、あーっと。着替えるか! って、この天気じゃ乾かねえな」


「ん、大丈夫。ソルライト使えるから」


「おお。すげえな」


「旅をするなら、必須」


 ソルライトは小さな太陽みたいな、暖かい光球を出す魔法で、攻撃用途じゃなくて、服を乾かしたり明かりの代わりに使うものだ。


 ちなみに、婆ちゃんも使える。


「一応カラダを拭くタオル持ってくるな。濡れた商品の水気を取らないといけないから。それを片付けたら、掃除は終わりにしよう」


「わかった、ワタシの着替えも、持ってきてくれる? 濡れた服、気持ち悪い」


「了解だ。カバンの中だよな?」


「うん、ありがと」


 むしろ、お礼を言いたいのはいいもの見させてもらった俺の方......いやいや何を言ってるんだ。


 いつまでもまじまじと見るわけにもいかないので、気合で邪念を振り切り、俺は急いで2階にへと上がると、大きめのタオルを2枚とビビの寝巻きを手に、下にへと。


 鞄を漁っている時、下着が目に入ったとかいう報告はいるだろうか、いらないな。


「おお、あったけえ」


 ソルライトの影響か、柔らかい光と空気が店の1階を包んでいて心地のいい温度に仕上がっていた。


 これなら、作業も震えずにやらなくてすみそうだ。


「ほら、ビビ」


「ありがとう、アルマ......着替えるから、あっち向いてて」


「お、おう」


 ビビに促され、壁を見る。


 あれ、てっきりビビの事だからその場で脱ぎ出したりするのかと思った。


 裸はよくて、脱ぐところはダメなのか、難しいな。


 ......何が難しいんだ?


「いいよ」


 衣擦れの音が止むと、よしの声がかかる。


 振り返ると、昨日の寝間着姿のビビがいた。


 俺が持ってきたやつがそれだったのだから、当たり前なのだが。


「服、ここにかけて、いい?」


「おう。乾きそうな適当な場所にかけといてくれ」


「わかった。アルマは着替えないの?」


「大丈夫だよ」


 そもそも人間ではないから、風邪もひかないし。


 まあ、まだひいた試しがないだけで、もしかしたらひくのかもしれないけど、多分、大丈夫だと思う。


 軽くカラダを拭いて、今度は濡れた武器達の拭き取り作業に入る。


 しっかし鎧とかじゃなくて本当によかった、鎧は中にまで水が入ると本当に大変なのだ。


 メンテナンスも暇な時にはちょうどいい仕事なのでよくやるせいか、どれも状態は非常に良好だ。売れないけど。


「ここの武器に道具達、すごい愛されてる」


 服を干し終わったビビが、俺の作業を見ながらそう呟く。


「まあ、家族みたいなもんだし。そんなのわかるのか?」


「ワタシだって、武器に命を預けてるから、わかる」


「それもそうか」


 旅人なんて、常に危険と隣り合わせでもある身だ。


 その危険を任せるのが武器なのだし、武器を見る目がないと、旅人としてもやっていけないものなのだろう。


「そう言えば、ビビ。魔法使えるんだな」


 昨日の感じだと、てっきり使えないとばかりに思っていた。


「ワタシは接近戦重きなだけ、魔法は簡単なのなら、使える。魔力もある」


「ソルライト以外にも?」


「............ソルライトだけ」


「おいおい」


 確かに使えてはいるけど。


 俺は魔法からっきしダメだから、文句は言える立場じゃないけどさ。


「旅で大事なのは、この魔法だけ。今みたいな時とか、洞窟にいる時とか」


「普通はもうちょい魔法覚えてから旅に出るもんだと思うけどな。まあ、ビビは強いからそのへんはいいのか」


「えっへん」


「いばるないばるな」


 頼りにはさせてもらったけど。


「でも、ソルライトだけは使える。光を太陽みたいに眩しくしたりとかも、できる」


「へえ、調整までできるのはすげえな」


 魔法というのはある程度、威力や規模というものが決まっているのだが、手馴れた人間ならばそれを関係なく自由に調整できるとは聞く。


 一つしか使えないとは言え、そこまで極めているのは素直に凄い。


「アルマ、魔法得意だから。馬鹿にしてる?」


「してないしてない。というか、俺、魔法得意か?」


 1個も使えないんだけど。


「さっきのあれ、凄かった」


「あれって?」


「黒くてぐにゃぐにゃのやつ......あれのこと」


 ビビが指さした先には、黒く波打った刀身の剣があった。


「魔炎くんのことか」


 威力は確かだけど、返品回数トップの持ち主、いや持ち武器。


「魔炎、くん?」


「あー、すまん。魔炎の剣だな、魔炎くんは俺が勝手にそう呼んでるだけだ」


「そう。アルマも、大概だね」


「......?」


 あ、俺も大概武器を愛しているなってことか。


 武器に俺しかわからない名前を付けているのなら、そう思われても仕方ない。


「何か、魔炎くんに思い入れ、あるの?」


「あるなあ。見てもらった通りだけど、魔炎くんって威力は確かだから、何回かは売れてるんだけど。毎度毎度返品されてるんだよ。上手く使えないとかでな」


 数を数えるのが億劫になってきたくらいには、売れては帰ってきてを繰り返している。


「きっと、あの火柱が出せないから、みんな返す」


「いやいや、多分威力が高すぎるからだよ」


「それなら、奥の手として返品なんてしない......ワタシなら、持っとく」


「んー......?」


 ビビの言うことも一理あるが、武器なんて使うだけなら誰でも出来ると思うのは俺だけか?


 やっぱり手持ち無沙汰だからな気がする。


「それとも、呪いの武器、とか」


「怖いこと言うなよ。普通......じゃないけど立派な武器だ。というか、呪いの武器ならとっくに俺は呪われて星になってるよ」


「........................」


「ビビ?」


 何かいけないことを言ってしまったか?


 心配になって、声をかけるが返事を返す頃にはいつも通りだった。


「んーん。何でもない。でも、魔炎くん凄いし、あんなの出したアルマ凄い」


「俺は店員だし、商品の説明を出来ないとダメだしな。全部ちゃんと使いこなせないと、婆ちゃんに怒られちまう。それに凄いのは俺じゃなくて魔炎くんだ。実は俺、魔法は全然使えないし」


「そうなの?」


「使えるなら、俺もソルライトとか覚えたいけど、グリモワールはてんで読めなくて。あ、買ったあれどうだった?」


 ビビは昨日、新しい武器を買いに来たけど、何も無くて代わりに猫と喋れるグリモワールを買ったのだ。


 読んだのなら感想は聞いてみたい。


「まだ途中。でも、意外となんとかなるかも」


「おお、まじか」


 素直に感心。


 あれ、でもおかしいなソルライトしか使えないってことなら、魔法が苦手ってことになるし、魔力も少ないってことにもなる。


 苦手ならグリモワールを読んだ時、意外となんとかはならないと思うのだが。


 ......まあ、いいか。使える魔法が増えるのはいい事だし。


「これで、知らない街に行った時、猫に道を聞ける」


「そんな理由で買ったのかよあれ!」


 衝撃の事実。


 人見知りにもほどがある。


 よくあの時、俺に声かけたな。


 1回見知っていれば、何とかなるとかなのだろうか。


「............にゃーにゃー」


「すまん、なんて言ったんだ?」


 猫語はさっぱりなんだ。


「魔法使えないくせに文句言うアルマ、嫌い」


「ぐほおっ!」


 素直に傷つくというか、猫語と言葉の文量があってねえぞ!


「あ、間違えた......にゃーにゃー」


「ぜってえわざとだろ......で、今度はなんだ?」


「アルマは、旅しないの?」


「旅?」


「王都、行ってみたそう、だから」


「......」


「王都行きたいなら、ワタシが案内する。1人で、とは言わない」


 ゆっくりとたどる言葉の重みから、髪で隠れていても、彼女の眼差しが俺を真剣に捉えていることがわかる。


 確かに王都は憧れるし、行ってみたい。


 ビビがいてくれるなら鬼に金棒、いや指輪に金棒。


 これほど素敵な提案はないだろう。


 だが、俺は首を横に振った。


「悪いな、ビビ。俺は行けないよ」


「また、ここに、帰ってくる......でも?」


「それでもだよ」


「............お婆ちゃん?」


「そうだ」


 頷く。


 俺の所有者は婆ちゃんだ、婆ちゃんがこの街にいるのなら指輪である俺もここにいないといけない。


 それが、道具としての俺の想い。


 婆ちゃんも王都に行くっていうなら、もちろん着いていくけど、ビビは婆ちゃんが少し苦手そうだし、それはないだろう。


「..............................そっか」


 たっぷりの間を置いて、ビビは喜怒哀楽を感じさせない呟きを残す。


 ここで会話を切るのは申し訳ない気がして、俺は明るく声を出した。


「その代わりさ、ビビの話を聞かせてくれよ」


「ワタシの?」


「ああ、旅人なんだし。色んな場所に行ったんだろ? その話が俺は聞きたい。ほら、旅気分を味わいたい的な......ダメか?」


 かなり無茶というか、わがままなのは自覚している。


 断っておいてなんて奴だとか思われそうだが、ビビは俺の頼みを受け入れてくれた。


「......いいよ。聞きたい街の話、ある?」


「そうだな......エルウーア以外の港町の事とか。もちろん、王都もだろ。あとは、そうだ学園がある街とか」


「ん............じゃあ」



 *


 それからビビは、巡った街の事をたくさん話してくれた。


 エルウーアよりも大きな港町、魚を集めた水族館という建物がある街、人よりも動物の方が多い街、天まで伸びる大きな大樹がある街......もちろん、王都のこともだ。


 学園は入ったことはないらしいが、とにかくたくさんグリモワールがあるらしい。


 魔道学園なのだから、当然といえば当然だが。


 そんな話を聞いている内に、大掃除は終わりを迎えた。


「よっし。おわりだ」


「おめでとう、お疲れ様」


「ビビもな。色々聞けて楽しかったぜ」


 小さな拍手を受け止め、俺は労いの言葉を送る。


 拍手が止むと、次に彼女の改まった声が続いた。


「......アルマ」


「なんだ?」


「ワタシ、明日にはここを出ようと思う」


「............そう、か」


 それしか言えない。


 寂しいとか、悲しいとか、旅人なのだから旅たつのは当たり前だとか、もしかしたら俺の言葉が関係あるのかな、とか。


 ぐるぐると答えの出ない感情が回って、それしか言えなかった。


「......ねえ。お話、してもいい?」


 ビビはそれ以上を言わず、突然そう切り出す。


「話?」


「旅をして、小耳に挟んだ話。アルマに、感想をききたい」


「......いいぜ」


 俺の返事に彼女は、その小さな口でさっきのように、語りを始める。


 視線は読めない。


「......登場するのは、2人。女の子、そして彼女のお友達。女の子には、親と呼べるものは、いない。それでも、お友達にはいた。


 ある日、二人仲良く、時間を忘れて遊んでいると、日が暮れてしまった。いつもなら、バイバイさようならと言うけれど、別れるのが寂しい女の子は、お友達にこう言いました。


 ――ワタシ達、星にならない?


 と。


 素敵な提案に二人は盛り上がり、二人は星になりました。


 いつまでも一緒に輝き、いつまでも一緒にいれて楽しい、そう思ったのも束の間。


 気付けばお友達は燃え尽きていて、輝いていたのは、女の子ただ1人だけでした。


 ひとりぼっちになった女の子は、誰もいない暗闇を、ただ眺め、過ごすのでした。


 星となる誰かを待ちながら。


 おしまい」


 語り終えると、ビビは俺をじっと見てきた。


 髪で隠れていても何となくわかる、感想待ちだ。


 さて、なんと返せばいいのやら。


 単純な感想としては、不思議な話だったし、読み取れる教訓もある。


 元はと言えば、友達が提案を断れば女の子が永遠に寂しさに包まれることは無かった。


 つまりは、時には寂しさを受け入れる心も必要だということなのだろう。


 それとも、女の子と友達は何か別の種族で、生きる時間が違うとかそんなのかもしれない。


 けれども、それが正解なのかは俺にはわからない。


 俺は、そう考えただけ。


 もし、救われる何かを答えるとしたら、俺は。


「............俺が、新しい星になる」


「............」


 彼女は何も言わない。


 驚いているのか、はたまた肩を落として馬鹿にしているのか。


 わからないけれど、俺は続ける。


「俺なら、きっと彼女の新しい星になれるよ。ずっと、女の子のそばにいてやれるさ。それこそ、うんざりされるくらいに」


 まあ、人間じゃないし燃え尽きることも、俺ならない。


 ずっといてやれる自信だってある。


「......アルマは、優しいね」


 俺の答えにビビは薄く笑ってそう言った。


「我儘なだけだぜ」


「んーん。優しいよ。ご清聴ありがとうございました」


「こちらこそ。感想として、あってたのかはわかんねえけど。さっ、明日出るなら今日は......いや、今日も。掃除を頑張ってもらったのも兼ねて、ご馳走にしないとな」


「お婆ちゃんに、褒めてもらわないと。もらえる、よね?」


「怒られることはないと思うぜ。じゃ、飯の準備するか」


 昨日出会って、明日別れる。


 それなのに、たったそれだけの短い時間だったのに彼女とはとても長い時間を共にしてきた気がする。


 願わくば、星になりたいと、小さくそう思う。


 外に目をやると、雨はまだ降り続いていた。

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