大掃除
前回のあらすじ
ビビの全裸をみてしまう。
眼福。
婆ちゃんから頼まれていた大掃除をすることに。
「おはよう。アルマ」
「ん......ああ、おはよう。婆ちゃん」
いつも通り、朝の挨拶を交わす。
婆ちゃんが指輪を付けた時が、人間体としての―精霊であるオレの目覚めの時。【表情分体】スキルの発動条件
眠りよりかは意識が落ちていく感じで、声をかけてもらわないと意識がはっきりとしないが、覚醒してから眠気と言ったものは感じない。
窓から見える限り、空は明るく、天気は晴れのようだ、掃除日和と言っても申し分ない。
「ビビ起きてるかな?」
「どうだろうね。ちょっと様子見てきな」
「おう。そうする。朝飯は?」
「悪いけど、今日は出かける用事があってね。すぐに出るよ。店が綺麗になってるのを楽しみにしてようかねえ」
「へいよ。あんまり期待はしないでくれよ。夜には戻るんだよな?」
「もちろん、晩御飯は頼むよ」
「任せてくれ。じゃあ、ビビのところ見てくる」
朝の挨拶はその程度に、ビビのいる部屋にへと。
「ビビー? 起きてるか?」
「......」
「ビビー?」
ノックとコールを何度かかけてみるものの、返事が返ってくる気配がない。
こりゃまだ寝てるな。
「入るぞー」
一応、断りを入れてから部屋に入る。
ベッドには人型の膨らみがあった。
「......くー、くー」
可愛らしい寝息も聞こえる。
「うーん」
どうしよう。
掃除をするので起こしたい気持ちもあるが、客なわけでもあるしゆっくり寝ていて欲しい気持ちもある。
いやでも、変に昼に起きられて昼から作業開始となるのも御免だ。
ここは、起こすとしよう。
「朝だ。ビビ」
耳元で囁きつつ、肩を揺らしてみる。
「くー、くー」
効果なし。
とりあえずは、かけ布団を剥がすか。
「よっこいせ..................」
俺はめくれ上がった先の光景に、目を疑った。
ものすごく、ものすごくビビは背筋から両手両足に至るまで体の線という線をピンと伸ばしていた。
もうそれは、直線と言ってもいいくらいに、鉛筆と言っても過言ではないくらいに。
「......すげえ」
あまりの寝相の良さに、思わず感嘆の声がもれる。
俺も時々人間体で寝ることはあるが、丸くなってものすごく寝相が悪いと婆ちゃんに言われた覚えがある。
ぜひとも、この寝相の良さをご享受願いたいものだ。
寝てるから無理だろうけど。
「くー、くー」
それにしても、気持ちよく寝てるな。
ああ、そっか。長い前髪がカーテンみたいになってるというか、カーテンの役割を果たして光が入ってこないのか!
なんという策士、そのための前髪......ではなかったな。
というか、前髪上げたら起きるんじゃ?
「......」
思い立ったが吉日、そっと前髪カーテンをオープンし、彼女の可愛らしい寝顔の全貌を眺める。
「くー............ん、んん?」
「おお、起きた」
ものの数秒で寝息とは違う声が、確認出来た。
実験は成功だ!
「眩しい............んー、アルマ?」
「おう、おはよう」
彼女の真っ白な瞳が俺を捉える。
やっぱり綺麗だな、なんて考えていると何度か瞬きをした後に、彼女はゆっくりと身を起こした。
「んー、おはよ」
彼女は軽く伸びをすると、寝起きにしては案外しっかりした声量でそう言った。
「おはよう。ぐっすり眠ってたのに悪いな、起こしちまって」
「んー、大丈夫。掃除、だよね?」
「ああ。朝ごはん作るから、適当に準備出来たらリビングに来てくれ。何かリクエストあるか?」
「何でもいい。アルマのなら、多分、なんでもおいしい」
何でもいいが作る身としては1番困るのだが、そこまで言われたら悪い気もしない。
「はいよ。桶、もらっていくな」
「うん、ありがと」
昨日使った桶とタオルを回収して、部屋を後にする。
朝ごはんは無難に、パンと目玉焼きにベーコンあたりでいいだろう。
あとはサラダか。
旅人なわけだし、ちゃんと食べてもらって、これからのエネルギーにしてもらわないと。
意気込んでリビングに赴くと、すっかり出掛ける支度を整えた婆ちゃんがいた。
「アルマ、いってくるからね。頼んだよ」
「ああ。いってらっしゃい」
会話はそれだけに、婆ちゃんは1階にへと降りて姿を消す。
婆ちゃんとの仲なので、別段何処に行くのかとかも聞かないし、知ったところでどうもならない。
いつからか、これが当たり前の会話だ。
「さって、メシだメシ」
美味いやつ作って、旅人さんに頑張ってもらわないとな。
*
「よーし! やるぞー!」
「おー」
朝メシも食ってエネルギー満タンになった俺たちは、早速掃除に取りかかる。
格好も掃除に相応しく、エプロン、手ぬぐいマスク、ハタキと抜かりはない。
「とりあえず、壁にかけてある商品は動かさなくていいから。棚に飾ってあるやつとか、立てかけてあるやつを外に出そう。全部出したら、どこにあったかあやふやになるから、ちょっとずつ出して、掃除して、元あった場所に片付けるを繰り返す。わかったか?」
「らじゃー」
そういうわけで、早速取りかかる。
店のスペースである1階の他に、武器の試しが出来る草生えまくりの裏庭もあるのだが、そちらは後回しということで。
さて、掃除は勢いが大事だ。
テキパキと邪念にかられず、商品を店先に出し、ホコリをとって、濡らした布で拭いて。
と、最初は順調ではあったのだが、やはり掃除の悪魔というのは、ほくそ笑んでいるものなのである。
きっかけの一言はこれだ。
「ねえ、アルマ。これ、どう使うの?」
そう言ってビビが持ってきたのは、武器屋に置く商品としては似つかわしくない、真っ白なティーポットだった。
もちろん、俺は店員なので使用用途は頭に入っている。
「それは......魔法のティーポットか。水を入れたら茶葉を入れなくてもそのまま紅茶がでてくる」
「すごい」
「って、思うだろ?」
試しに俺は、バケツに入れたばかりの水をティーポットにへと入れる。
少し経つと、ポットの注ぎ口から湯気が立ち上がってきた。
ポットの付属品でもあるティーカップに、中身を注ぐと、そこには透明ではなく、オレンジ色の液体が注がれていた。
「おー」
感心したビビの声が聞こえる。
ここまでは、俺の説明通りだ。
中々、便利なモノに見えるかもしれない。
「ほら、飲んでみな」
「いいの?」
「いいから、熱いから気をつけてな」
「......う、うん?」
不思議そうにビビは俺からカップを受け取ると、何度かフーフーとした後にゆっくりと口をつける。
「............」
その後の表情は、決して明るいものではなかった。
「どうだ?」
わかってはいるが、感想は聞いておく。
「紅茶だけど、紅茶じゃない......水飲んだ方が、まし」
訝しんだ様子で、ビビは俺に飲みかけのカップを返す。
もういらないのだろう。
「まあ、そういうこった。ものすごく味が微妙なんだ。便利ではあるんだけどな」
「毎日、紅茶飲まないと死ぬ人以外には、売れないと思う」
「俺もそう思うよ」
苦笑しつつ、勿体ないので微妙な味の紅茶を飲みきる。
「あっ......」
「なんだ?」
「な、なんでも、ない」
「......?」
何故かビビの顔が赤くなったが、このティーポットの一件がとりあえずきっかけだったのだ。
掃除作業を再開してしばらく。
ビビに店先に出した商品の見張りを頼んでいると、彼女から声がかかる。
「ねえ、アルマ。これは何に使うの?」
「あー、それはだな......」
*
実演を終えて、またしばらく。
「アルマ、これ?」
「うわー、懐かしい。これは確か」
*
「アルマ、こっちは?」
「それかあ、癖があるんだよなあ」
*
「なにこれ?」
「それあったなあ! これはだな」
*
「......みたいな、感じだな」
「おー、いらない」
「だよなあ......って!」
「......?」
「全然掃除が終わってねえっ!!!!」
日はすっかり昇っているのに、まだ片付けてまでのルーチンを1回しかやってないぞ!
なんなら日が昇ったころには終わっていると思ってたのに!
いけない、店員だからついつい訊かれると詳細に1から答えてしまう。
「ビビ! このままじゃ日が暮れるどころか、婆ちゃん帰ってきちまう」
「......っ! それは、ダメ。やらなきゃ」
「やるぞ! 悪いがここからは会話はなしだ。婆ちゃんに怒られちまう」
「うん、怒られるの、やだ」
それからは、ビビも事の重大さを理解してくれたのか、質問はすっかりなくなりテキパキと俺たちは作業を進めた。
......はずだった。
*
「あ、アルマ。助けて......」
「どうしたビビ!?」
店先で商品の見張りを任せていたビビが、今にも泣きそうな震えた声で助けを求めてきた。
スリを瞬殺した実力を持つビビを泣かせるなんて、どんな強者が?
恐る恐る外に出ると、豪快に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「おう、アルマ! 蛸壺受け取りに来たぜ。それにしても、お前にいつの間に彼女が出来てたなんてなあ!」
「あ、おっちゃん!?」
昨日タコをくれた漁師のおっちゃんがいた。
「なんだ? そんなに驚いて?」
「いや、返しに行こうと思ってたから。まさか来てくれるなんて」
「ちょっと暇になってな。あとついでに噂を確かめに来たぜ。いつの間に作ってたんだあ?」
「いつの間にかだよ。つーか、泣きかけてたんだけど」
「彼女、随分とシャイだなあ。アルマの何処に惚れたのかきいただけなんだが」
「ああー、ごめん」
おっちゃんの言葉に、彼女がああなった諸々の納得がいく。
街の地元民は結構グイグイ来る人が多いし、ビビはちょっと、口下手な感じの子だし、なんなら実際は付き合ってもいないのにそんなことをきかれたら、パニックになるのも理解はできる。
あれ、俺も割かしグイグイ行ってたような気も......。
「いやいや、気にすんな。目元見えないけど、可愛いくていい子じゃねえか」
「俺もそう思うよ」
「はっはっは! お前もそんなこと言うことになるなんてなあ。ノロケかあ?」
「素直な気持ちだよ、壺持ってくる」
「おう」
「あ、あの」
確か、蛸壺は2階に置きっぱなしだったな、とか考えていたら、ひょっこりと扉から、ビビが返そうと思った壺を持ってでてきていた。
「こ、これ?」
「それそれ! サンキューなビビ」
「う、うん」
蛸壺を俺に手渡すと、おっちゃんと顔を合わせたくないのか、そそくさと店の中にへと。
「ビビちゃんって言うのか、献身的で可愛いじゃねえか」
「そうだけど、あんまりちょっかい出さないでやってくれ」
「泣かれちゃ困るし、そうするか。それにしても、今日は忙しそうだな? 店先に商品なんか出してるし」
「婆ちゃんに掃除頼まれてな。大掃除だよ。ビビには商品の見張り任せてたんだ」
「あの子にか? 大丈夫なのかそれ?」
さっきの様子を見たら、おっちゃんがそう言うのもわかるが、俺は彼女を強さを目の当たりにしてるので、その辺の信頼は置いてる。
「ああ見えて滅茶苦茶強いから大丈夫だ。多分、おっちゃんも瞬殺だな」
「うへえ、人は見かけによらねえなあ......気をつけるぜ。じゃあ俺はこのへんで」
「おう、わざわざありがとうな、おっちゃん」
「いいってことよ! 今日は人が少なくて暇だしな」
「人が少ない?」
「たまにはみんな休めってことで。町長が貿易を一旦止めたみたいでな。思い切ったことするよなあ」
「ああ......やりそう」
町長は何度か会ったことがあるし、挨拶もした。
なんと言うか、ダイナミックなお爺さんだ。
婆ちゃんとは昔からの仲らしいが。
「ま、そんなわけだよ。じゃあなアルマ」
相変わらず別れは背中で語り、おっちゃんは街にのまれていく。
「か、帰った?」
その背中を見送っていると、噂をすればなんとやら、ビビはまた忽然と店先に姿を現した。
「帰ったよ。大丈夫だったか?」
「びっくりした」
おっちゃんは声が大きいし、勢いがあるからなあ。
俺も最初は戸惑った、今は慣れたけど。
「地元の人たちは、皆お喋りが好きだからな。外に出てたら、もう何回かこんな事あるかもだし、外に出すのはやめとくか」
「大丈夫、次は、自分で何とかする。掃除はちゃんとやらなきゃ」
「......なら頼むけど。何かあったらまた呼んでくれよ」
「うん、ありがとうアルマ」
「俺こそありがとうな。さっきの壺も助かったよ。さっさと終わらせて、今度はうまいお茶でも飲もうぜ。俺のいれるお茶は悪くないって婆ちゃんの、お墨付きなんだ」
「......うん」
*
エルウーア大通りの最奥にある、街で一番立派な建物と言っても過言ではないのがエルウーア市役所である。
見事なレンガ造りのその建物は4階建てとなっていて、海風に曝されながらもエルウーアの日常を長く見守ってきた。
そんなエルウーア市役所4階にある町長室で、望遠鏡を片手にラマス武器屋を覗く男がいた。
「おほー、やっておる、やっておるなあ。共同作業じゃあ」
男はやや興奮気味に近況を口にしていると、他の部屋より大きめの扉が開かれると同時に、呆れた声が後を追った。
「なーにが、共同作業だい。ちゃんと仕事してくれないと困るよ。必死に階段登ってやって来たのに、出迎えがそれとはうんざりだよ」
そして、男の解説に溜息混じりに感想を返しながらやって来たのはラマス武器屋の女店主、ラマス。
ラマスは我が物顔で、洒落た椅子に深く腰をおろす。
「そう言わずにのう、ラマス。嬉しいんじゃよワシは。お主は嬉しくないのか?」
「どうだかね、町長」
「相変わらず素直じゃないのう、お主は」
町長と呼ばれたシワの多い男性は、望遠鏡で覗くのを止めると、ラマスが座る対面の席に着いた。
「それにしても、遅かったの」
「街のやつに色々と絡まれてね。今日はやけに人の数が少ないじゃないか」
「皆、休むべきだと思っただけじゃよ」
「そんな中、私とあんたは働くわけだ。どっちが先にくたばるか競走といくかい?」
「ワシが絶対に負けるのう、そりゃ。お前が死ぬところが想像できんわい。引き分けはどうじゃ?」
「そっくりそのまま返すよ。引き分けは嫌いじゃないね」
挨拶がわりの会話を交わし、町長はラマスにコーヒーを差し出すと、口を開いた。
「それで、ビビと言ったか。あの娘はどうなんじゃ?」
「どうもこうも。いい子だよ。旅の目的はよくわからないけどね。ただ、アルマに何かを感じてるみたいだ」
「アルマにのう............意思ありを使うスキルなんぞ、いつ使うことになるのやら」
「いつか来る、私はそう信じてるよ」
「じゃが、アルマは確か、この街から出るつもりはないのじゃろ? こんな町にいたらいつになるのかわからんぞい」
「まあねえ」
ラマスはコーヒーに口をつける。
―意思あり
それは、スキルと魔力どちらも持った意思ある武器の称号でもあり、世界を恐怖で脅かす存在である妖魔を討ち果たす武器達の総称。
人と同じ姿を取り、感情を持ち、武器となれば絶対の力を約束する、しかしそれ故になのかは不明だが、今では幻想の存在とされるモノ達。
そしてアルマの、精霊の指輪の第二スキル【意思あるものの復活】
どんな武器でも能力を向上させ、そしてセミリアとの絆によって成長する限定的でいて特別なスキル。
当の本人は気づいていないようだが。
「実を言うとな。最近、この辺りでドラゴンの出現報告があがっておってな。街がいくつかやられたらしい。そして、ワシはこのドラゴンがこの街にくるんじゃないかと、何となく思うんじゃよ。それも、今晩にな」
「そいつは弱ったね。アンタの勘は昔からよく当たってるだけに」
「はて、そうじゃったかの?」
「そうさ。カルアーネのやつがお見合いで結婚することも。この街が船との交易で栄えることも。ワタシの武器屋が繁盛しないことも、全部お前が言ってた覚えがあるよ」
「最後のはワシ関係ないじゃろ。しかし、ドラゴンか、どうしたもんかのう」
残念そうに町長は声を落としていく。
しかし、決して失望の意味はこもっていなかったのを、ラマスは見逃さなかった。
「落ち込むわりには、元気じゃないか」
「覚悟、かの。自分の街くらい自分で守るわい。結界をはろうかと考えておっての」
「それを、私に手伝えって言うんだね?」
「馬鹿言え。死ぬのはワシだけでいい。お前さんには話し相手になってもらいたかっただけじゃよ」
町長はそう言うと微笑んで、お茶請けの菓子に手をつけた。
「なんだい。死ぬ気満々じゃないか。私も混ぜなよ。勝たれるのは嫌いだが、引き分けは嫌いじゃないんだ」
ラマスもまた笑って、菓子に手をつける。
町長の笑みは消えていた。
「............本当に良いのか? もし、ドラゴンが来たとして、流石に守りきることは出来ん。結界が破られた瞬間ワシらは死ぬ。わかっておるのか?」
「時間稼ぎ出来るのなら文句ないよ。それと、条件がある」
「......なんじゃ?」
「この街にはまだ、指導者の存在が必要だ。だから、やるのは私1人だ。異論は認めない」
「..................引き分けは嫌いではないのでは?」
「それ以上に勝つのが好きなんだよ」
「はて、それは勝ちと言えるのか。怪しいもんじゃがな。それに、アルマはよいのか?」
「人の命を守れるなら勝ちに決まってる。アルマには、私じゃない使い手が見つかったしね。それに、まだ決まってもない未来のことだ。ないならないでいい。今からすぐでいいのかい?」
「うむ。結界との契約をしてもら、ぬおおっ!?」
話の途中、町長は一驚の声をあげる。
それもそのはず、町長室の大きな窓から突如として天高く昇る黒い火柱が見えたのだ。
驚かない方が難しい話だろう。
しかしながら、ラマスは気を取り乱すことはなく、冷静に火柱とその出現箇所を判断し、それから頭を抱えた。
「はああ......悪い。ありゃウチの商品だ。アルマのやつめ、何かやらかしたな」
「お、おお。そうじゃったか。ドラゴンでも来たのかと思うたわい」
「ドラゴンが来たら、あの程度じゃ済まないさ。あれは、私も1回だけ使ったことがあるヤツだね。ものすごく魔力を食われる大食らいの武器だよ。威力は見ての通りお墨付きだが」
「ほう、そうじゃったか。しかし、そんなものを使ってアルマのやつは大丈夫かのう?」
「大丈夫さ。何かとタフだからね。今頃、私に怒られないか心配してるだろうよ」
「ほほ、そうかい」
「(......気づいてないのか)」
微笑む町長はなんとなしに話を流している様だが、ラマスはアルマを高く評価している部分があった。
あの火柱は、魔炎の剣のものだ、そしてそれは先の説明の通り威力の代償に膨大な魔力を持っていく。
だからこそ、返品も多い。
人間は魔力が切れると動けなくなったり、気を失う者もいる、そしてあの剣はそのレベルの魔力を必要とする代物だ。
それなのに初めてアレを使った時、アルマは何の気もなく普通に立ってみせていた。
水を出す、炎の球を出す、光を灯す。
そのレベルの下級魔法を使うのと変わらない様子で、アルマはあの剣を使える。
逆に、元は武器であるからか魔力は少なく下級魔法はてんでダメだが。
他にも武器屋にある商品は癖のあるものが多いが、アルマはどれも全て使いこなせてみせた。
全ての道具を扱えるなんて、普通の人間には到底できない事でもあり、彼のもうひとつのスキルの存在を意味してはいるのだが、本人はステータスと分かれるスキルに目を取られて気づいていない。
本人が気付かないので、自らの強さは自ずと気付くことをモットーにしているラマスは指摘はしていないが。
「(いつになったら気付くのかねえ)」
それに、いつになったらセミリアとの邂逅が果たせるのか。
セミリアにはスキルがあるはずだから、スキル持ちの人間はセミリアかもしれないが......あのビビという少女はどうだったか。
火柱が勢いをなくすと、今度は雲行きが怪しいものにへとなっていき、空が段々と鉛色に染まっていく。
やがて、雨粒が街にへと降りたっていった。
「おや、雨か。お前の店、確か掃除しとったが」
「流石に雨なら仕方ないさ。怒るのも畑違いってもんだね」
「そうしてやれ」
途切れることの無いリズムの雨音が、市役所を包む。
今頃、慌てて店先に出した商品を戻しているのだろうと、慌てるアルマの姿を想像しながら、ラマスはコーヒーを喉に通した。