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お泊まり


前回のあらすじ


ビビの前髪の奥はとても円で綺麗な透明な瞳が隠れていた。


恋人のふりをしてもらうことのなった諸々のお礼にと、ビビがウチの店に泊まることになる。

 


「美味しいっ!」


 本日の献立のメイン料理でもあるボロネーゼを口に入れるなり、今まで見たことの無いハイテンションぶりで、彼女は感想を言ってくれた。


 どこか、目もキラキラと輝いている気もする。


 髪で隠れてて、見えないけど。


 ちなみに、献立はボロネーゼ、じゃがいものポタージュ、付け合せにタコを和えたサラダである。


 素朴ながらも手間のかかるメニューとなったし、その分頑張りはしたので、満足してもらえたようで悪い気はしない。


「はっはっは。それはよかったねえアルマ。こいつは料理の腕だけは確かだから」


「だけはってなんだよ。だけはって。他にも色々と出来るっての」


「はっ。接客もまだまだだってのに。大口叩くんじゃないよ。今日だってビビちゃんがいなかったら大変だったくせに」


「まあ、そうだけど......」


 いや、でもビビと歩いてなかったらあんな事もなかったわけで、ただスリを何とかできるのかと言われたら、首を横に振るわけで。


 ややこしくなってきた。


「美味しいから、元気出してアルマ」


 よくわからん慰めをかけられる。


 ともかく、俺の料理を気に入ってくれたのはよかった。


「そうしておくよ。アンタの口に合ったのならよかった、作りがいがある」


「これからも、頑張って」


「へいへい」


「気に入られてよかったじゃないかアルマ。そうそう、ビビちゃんの部屋だけど、アルマの部屋を使ってもらうことにしたからね」


「だろうな」


「部屋、2つしかなかったけど。いいの?」


「いいよ、客であるアンタが使ってくれ」


 適当に返事を返す。


 我が家ことラマス武器屋は二階建ての家屋で、1階は武器屋、2階が住居スペースとなっている。


 なんのカミングアウトかと思われそうだが、実は俺と婆ちゃんは相部屋だ。


 というのも、俺は本体である指輪を外されると意識と体が現界できないスキルの性質があるので、寝る時だけは婆ちゃんは指輪を外すこともあってか、人間体の俺は家にはいない。


 だから、俺の部屋も大して必要ないのだ。


 必要ないのだが、一応人間体として寝る用の部屋はある。


 婆ちゃんが酔った時とかは外さずに寝る日もあるので、そういった時にしか使わない。


 最後に使ったのは、もうかなり前のことだ。


「私みたいな老いぼれとアルマで一部屋くらいが、ちょうどいいんだよ。遠慮せず使っておくれ」


「わかった。ありがとう、ございます」


 婆ちゃんの言葉に納得してみせ、話題は次のものへと切り替わる。


「それで、ビビちゃんはこの街で何かしたい事とか、行きたい場所はあるのかい? 今ならアルマがつくよ」


「おまけみたいに言うなよ」


「アルマ、つかないの?」


「............つきます」


 多分、無理矢理でも付けさせられます、ついて行きます。


「アホはとりあえず置いといて、どうなんだい?」


「別に。これといって。ワタシは観光じゃなく、雰囲気を見るために旅してる、から。2日は、この街にいる」


 人混み嫌いらしい旅の仕方だ。


「おやそうかい。なら、店の掃除を手伝ってくれると助かるんだけどねえ」


「掃除?」


「ああそうだよ。いつもやっているのじゃなくて、商品も一度全部おろして、棚の上や中も掃除してほしい。倉庫は別にやらなくていいからね」


「てことは、棚卸的な大掃除ってことか?」


「それだね」


 俺の言葉に、婆ちゃんは頷く。


 別にいいのだが、なんでまた、唐突にそんな事を?


 ビビも俺と同じことを考えたのか、俺の思いを代弁してくれた。


「いいけど。どうして?」


「ちょいと、ね」


「「............?」」


 俺たち二人は顔を見合わせて首を傾げる。


「まあ、アルマはあまり大掃除をやりたがらないんだ。人手がいたら、やるだろう」


 悔しいけど、俺のことよく分かってるじゃねえか。


 一人で掃除はやりたくない。


「俺は全然いいけど......」


 ちらりとビビを横目で見る。


 相変わらず目元が隠れてて見えないから、表情がうまく掴めない。


「ワタシも、やる。美味しいご飯のお礼」


 割とやる気の様子だった。


 婆ちゃんはそんな彼女を見た軽く微笑む。


「胃袋つかんでおいて、よかったじゃないかアルマ。それじゃあ、二人とも頼んだよ」


「おう」「うん」


 そんな約束をとりつけられながらも、楽しい食事は続く。



 *


「るーるるー♪」


 食事を終え、婆ちゃんは自室に、ビビもまた自室へ。


 そして、俺は鼻歌を口ずさみながら、食事の後片付けをしていた。


 主婦のみなさんは食器や使った鍋を洗ったりするのが憂鬱だと聞くのだが、俺はむしろこの作業が一番好きだったりする。


 心を無心に出来るからというか、水の感覚が好きだからというか、自分でもよくわからないが食器洗いが好きなのだ。


 俺の本体が指輪なのもあってか、汚れたものを綺麗にしたり、磨いたりするのが好きなのかもしれない。


 とまあ、そんな感じで食器をどんどん洗っていく。


 ビビがいたから、今日はいつもより多い。


 1まーい、そしてまた1まーい。


 うんうん、やっぱりモノが綺麗になっていくのは気持ちがいい。


「お?」


 これは今日、ボロネーゼのソース用に使ったフライパンじゃないか、これまた汚れたなあ。


 しかし、今日は道具屋の兄ちゃんから貰った洗剤がある。


 こいつを使って、よく(こす)って......。


「おおー」


 みるみる汚れが水と共に流れ落ちていく様子を眺めながら、一人ニヤニヤとしていた時だった。


「アルマ、ご機嫌?」


「うおっ!? びっくりした!」


 急に背後から声をかけられて、肩を大きく揺らす。


 振り向いた先にいたのは、案の定、ビビだった。


 俺が片付けてる時、普段、婆ちゃんは話しかけてこないから完全に油断してた。


「ごめん。お湯が、欲しくて」


「お湯? 何に使うんだ?」


「体を、拭きたいの」


「ああ、了解。部屋で待っていてくれ。これ終わったら持っていくよ」


「わかった」


 ビビは頷くと、また空き部屋だった自室にへと戻る。


 旅人なわけだし、そりゃ汗もかくだろうしカラダを拭きたくもなるわな。


 お風呂があったらいいが、生憎にも狭い我が家にそんな豪華なものはない。


 そういや王都には、誰もが使える公衆浴場があるとか聞いたことあるな。


 ビビも使ったことがあるのだろうか。


 裸で......。


「って、何考えてるんだ、続き続き」


 考えが妄想になる一歩手前で我に返り、急いで食器を洗い上げる。


「お湯お湯」


 お湯を待っている人がいるので、ものの数分で洗い終え、今度は桶にお湯をはる。


 カラダを拭くのだから、ついでにキレイめなタオルも一緒に持っていき、俺はビビがいる部屋をノックした。


「アルマだ。頼まれてたお湯持ってきたぞ」


「ん、ありがと。入って」


 ドア越しにビビのそんなセリフが聞こえたので、遠慮なく入る。


「悪いな、待たせちまっ............うおっ!?」


 言葉が驚きで染まる。


 いやだって、ビビは何故か、全裸のままベッドの上で正座していた。


「......?」


「いやいやいや! なんでそんな俺がおかしいみたいな反応なんだよ!」


「カラダを拭くのだから、脱ぐのは当たり前」


「そうだけどさ! 確かにそうなんだけどさ! 全裸で待機しなくてもいいじゃん! ていうか、よく俺を入れたな部屋に!」


「寒かった」


「だろうな!」


「とりあえず、お湯ありがと。拭き終わったら返すね」


「服着てから返せよ!」


 桶とタオルを彼女に手渡し、俺は顔を赤くしてそそくさと部屋を後にした。


 あー、胸がドキドキする。


 なんであいつ、あそこまで平然と落ち着けるんだ、逆に尊敬するまである。


 婆ちゃんのは見ることもあるし、何とも思わないけど、やっぱり艶のある女性はまた感じ方が違う。


 胸の膨らみは程々だったが、女性だと理解させるものは感じられた。


 それに、ドア越しでも布が肌を舐める音が聞こえてきているような。


「うおっほん!」


「どうしたの?」


「なんでもないから!」


 あー、無心だ。食器を洗っていたあの時を思い出すんだ、俺。


 公衆浴場......。


「(いやいやいやいやいやいやいや)」


 生の艶姿を見てしまっただけに、お風呂に浸かる彼女の想像が容易についてしまう。


 前髪で目は隠してるのに、肌は丸見えってどうなんだそれ!


「アルマ、拭いたから入って」


「服着てるか?」


「着てる」


「よおし」


 なら、大丈夫とドアを開く。


 背中丸出し少女が、ベッドの上にいた。


「服着てから返せって言ったよな!」


「下は着てる。あと、背中拭いてほしい」


 確かに、寝間着のズボンを履いてるし、律儀にも靴下まで履いて、下は完璧だった。


 下は。


 ベッドの隅に目をやると、彼女の下着らしきキャミソールが目に入って、慌てて目をそらした。


 そらした先は彼女の陶磁器のように真っ白な背中なのだが。


「あの、俺じゃなきゃダメ? 婆ちゃん呼んでくるからさ」


「ダメ。お婆ちゃんと二人きりは、喋りにくい」


 そんなもんなのか。


 俺は人間ではないけど、男ではあるしその辺はわからない。


 彼女が嫌というなら、嫌なのだろう。


「わかったよ。背中拭けばいいんだな」


「うん、お願い」


「お、おう」


 タオルをお湯につけ、軽く絞ってから、真っ白でいてシワも汚れもない瑞々しい彼女の背中にあてる。


「ん」


 ちょっと艶っぽい声にいちいち反応していてはいつまで経っても終わる気がしないので、無心で往復作業を開始する。


 ゴシゴシ


 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ


「アルマ、ちょっと痛い」


「す、すまん」


 いけないいけない、彼女の肌に傷をつけたら弁償どころじゃないぞ。


 それにしても、女の人の肌ってこんなに滑らかで心地いいのか。


 気を取り直し、右肩のあたりから真っ直ぐ下に撫でていき、次は少し左へと。


 窓だ、窓を拭いていると思うんだ。


 ただ生憎にも、この窓は俺の気持ちなど露知らず、俺に話しかけてきた。


「ねえ、アルマ。今日はありがと。ご飯美味しかった」


「そうかい。じゃあ、ご飯のお礼として明日は頼むぜ。俺もしっかりと掃除したことないから、多分ホコリでいっぱいだろうしな」


「うん。頑張る。あと一応、これもお礼のつもり」


「うえっ!?」


「男の人って、好きなんでしょ?」


 好きだけど、好きなんだけど状況というかムードを考えて欲しいというか。


 嬉しいよ? 女の子の肌にさわれて確かに嬉しいよ?


 指輪の精霊人生悔いなしと言いたいが、お礼としてされるのは少し複雑な気持ちでもある。


「あー、緊張しすぎて、今は好きか嫌いかもわからなくなってるよ」


「嫌なの?」


「嫌じゃない! 断じて嫌ではない!」


「そう。よかった。ワタシ、あんまり面白いカラダしてないから......」


「そ、そうか? 俺からしたらすげえキレイな体付きだと思うけど」


「......うそ」


「嘘じゃねえよ。というか、なんで嘘つかなきゃいけなんだ。キレイすぎて、壊さないか怖いくらいだよ」


「..............................そう、悪くない気分」


 やたらと間を置いてからビビは小さくそう呟いた。


「そりゃよかった。ビビはよく、その、この作業を誰かに頼むのか?」


 恐る恐ると訊ねてみる。


 もしかしたら、ビビは案外手慣れているのかもしれないし、だとしたら馬鹿みたいに緊張してる俺は中々の笑いものである。


「アルマが、初めて。こんなに一緒に話す人も、アルマが、初めて」


「それは......光栄だな」


「光栄? ワタシといて、つまらなく、ない?」


「そんな事ねえよ。外からのお客さんだし。強いし、それにすげえ美人だし。男として有難いかぎりだ。俺は話していて楽しいと思ってるよ」


「ふうん」


 俺としては恥ずかしいセリフのオンパレードだったのだが、事も無げにビビは相槌をうつ。


 少しは信頼されてると思っていいのだろうか。


 そもそも、信頼がなきゃうちに泊まりもしないし、これも頼まねえな。


 もしかすると、彼女は、あまり恥ずかしがらない子なのかもしれない。


 ああ、そう言えば。


「いつの間にかアンタのことビビって呼んでるけど、大丈夫だったか?」


「別に大丈夫。ワタシも勝手に、アルマって呼んでる。お互い様。ワタシこそ、よかった?」


「全然いいよ。あとはそうだな。ビビはさ。王都にある公衆浴場って行ったことあるのか?」


「ある。すっごい、大きなお風呂。夜には王都の人、みんな来る」


「へえー」


「行ってみたいの?」


「そりゃあな。お風呂なんてしばらく入ってないし。俺も普段はお湯でカラダを拭くくらいだからな。憧れるよ」


「人多いよ?」


「風呂の時くらい、いいんじゃねえか? ゆっくり一人もいいけど」


「............裏切り者」


「ええ......」


 話に花を咲かせていると、俺の手は彼女の背中の左下に、つまりは背中を無事に拭き終わっていた。


 やり遂げたのである。


「とりあえず、背中は終わったぞ」


「ありがと。気持ちよかった。前はまだだから、終わったら呼ぶね」


「前まだだったのかよ......」


 普通、最後に背中な気もするが。


 でも、それは俺だけなだけで、もしかしたら世間一般的というか、王都流では前が最後なのかもしれないし、もしそうなら、田舎者の俺が口を出すわけにはいかない。


「悪い、俺もう寝るわ。桶は明日回収するから部屋に置いといてくれ」


「わかった。おやすみ。あと............」


「......なんだ?」


「なんでもない」


「そうか。じゃ、おやすみ」


 顔も合わせない挨拶の後に、部屋を出る。


 流石に夜も更けてきてる、そろそろ婆ちゃんも限界のはずだ。


 そんな考えを巡らせ、今度は婆ちゃんの部屋へ。


「何やら楽しそうだったじゃないか。アルマ」


 ベッドで読書にふけっていた婆ちゃんは、俺が入ると本から視線をあげてそう言った。


「......トランプで盛り上がってな」


 まさか本当の事を言うわけにもいかないので、誤魔化しておく。


 多分、婆ちゃんのことだからバレてるんだろうけど。


「その割には手が濡れてるね」


「......」


 バレてるなこりゃ。


「ふふっ、お似合いだし。いっその事、あの子の旅についていったらどうだい?」


「はあっ!? 何言ってんだよ?」


 つい、声が大きくなる


「そんな変な話かい? 街の奴らもアンタらの事を応援してるだろうし。街を出ても何も言われないよ」


「いや、そうじゃなくて。婆ちゃんはいいのかよ?」


 俺がいなくて、1人で。


「何とかなるよ。この街にいるのはアンタだけじゃない。昔馴染みの皆がいる。別に絶対とは言わない。考えとして言っただけさ」


「......そうか。でも、それはないと思うぜ。俺の所有者は婆ちゃんなんだからさ。アンタの最後まで、傍にいるよ」


 きな臭い言葉かもしれないが、俺の本心だ。


 指輪の所持者は婆ちゃんなのだから、いらないと言われる時まで俺は指輪として輝くだけ。


「こんな老いぼれにそんなセリフ使っちまうなんて、馬鹿だねえ。まあ、いいよ。もう寝るからね。指輪はどうする? あの子もいるし、今日は人間体で寝るかい?」


「アンタの好きにしてくれ」


「なら、外すとするよ。寝る時は外さないと寝れないからね」


「じゃあそうしてくれ。ビビのこと、頼むぜ」


「はいよ、おやすみ。アルマ」


「ああ、おやすみ」


 そう言って、婆ちゃんは指輪を外す。


 俺の意識はこの世界から弾かれるように、暗闇にへと沈んでいった。



 *



「ふう」


 今日買った猫と喋れるようになるかもしれないグリモワールを、ある程度のところまで読み、ビビは小さく息を吐く。


「どういうこと?」


 そして、ひとり疑問の声を残す。


 親しみのない学問は、なかなか理解が苦しいわけじゃない、逆に不思議と理解出来ているのだ。


 グリモワールを読み解くには魔法文字を理解するセンスも必要ではあるが、それ以上に必要なのは魔力である。


 魔力を対価として知識をよこす、それがグリモワール。


 そして、ビビはそこまで魔力が多いというわけではなかった。


 それなのに、先程から不思議とグリモワールが読めてしまっていた。


 理由はよくわからない。


 ビビはグリモワールを閉じると枕のそばにおき、体を横にしてから、今日の出来事を回想する。


 人気(ひとけ)のある港町エルウーアまで足を運び、いつもと変わらない、見つかるはずもない捜し物の延長戦。


 ここでも、捜し物は見つからない。


 そう諦めていた。


「アルマ......」


 彼に触られた右肩を撫でながら、今日出会ったばかりの青年の名を口ずさむ。


 一目見たときから、彼が何か違うのは感じ取っていた。


 だが、ビビはそれは気の所為だと思っていたし、感じたなにかの正体を、彼女自身はっきりとわかっていなかった。


 猫と喋れるグリモワールなんて変なモノを取り扱っていることから、敵ではないことはわかってはいたが。

 

 お婆さんが付けていた指輪にも感じるものはあったが、大切なものらしいなら取り上げるわけにもいかない。


 この街もハズレだと明日には出ようと、人を避けて裏道を使って宿屋を目指してみたが、道に迷って、そして彼を見つけた。


 最初は本当に、道を尋ねるだけのつもりだったし、そこで彼との関係は終わると思っていた。


 まさか地元の人たちに彼女に間違われるなんて思ってなかったし、自分を彼女にだなんて彼には申し訳ないことをしたが、スリ犯を捕まえたのと、家までの護衛がせめてもの彼女なりの償いだった。


 そのお礼に泊めてもらえるなんて、思ってもいなかったが。


 ここまできたのなら、彼に感じていた何かを確信に変えようと彼女は行動に出たのだった。


 そして、布越しでも彼に触れられた事で彼女は確信していた。


 普通ではない、彼の魔力の流れを。


 されども、肌に感じたのは氷のように冷たい妖魔の魔力とも違う、暖かい陽だまりのような初めて味わう感覚。


 気持ちよくて、それは決して、お湯によるものだけではなかった。


「......〜っ!」


 それと同時にビビは彼に裸を見られたことを思い出し、頬を赤く染め上げる。


 彼女も1人の少女であり乙女なのだ、当然素肌を見られることは恥ずかしい。


 しかし、恥ずかしさを出してしまうと、彼に遠慮させてしまう。


 だから彼女は平静を装っていた。


 自らの疑問を確信に変えるには、あれしか方法がなかったのだ。


 一旦裸になって全身で対象の魔力を感じないと、精密に魔力を感じることができない。


 魔力を感知したら、あとは触れてもらうだけ。


 ついでに、お礼も兼ねて。


 感知が得意な知り合いは手を繋ぐだけでもいいらしいが、ビビは苦手な方だった。


「アルマ、喜んでた......よね?」


 女性としての膨らみが足りないのは自覚しているが、彼はキレイだと確かに言ってくれていた。


 それに瞳のことも、これまで会ってきた人達は皆気味悪がっていたが、彼だけは褒めてくれた。


 きっと彼は、とても優しい人格の持ち主なのだろう。


 彼の作ってくれたご飯も、久々に美味しいと叫ぶくらいには、とても美味しかったし、優しい味がした。


「アルマ......」


 もう一度、彼の名を口ずさむ。


 今日一日だけで、自らのほとんどをさらけ出している。


 明日は何を作ってくれるのだろう、何を話してくれるのだろう。


 それを考えるだけで、心が踊る。


 彼と話すのは楽しい、そして彼も楽しいと言っていた。


 それがとても嬉しくて。


 こんな気持ちになるのは、初めてだった。


「......やっぱり」


 もう一度、グリモワールに目を通す。


 魔力を必要とするそれを、スラスラと読むことができる。


 そんなこと、普段なら不可能なはずなのに。


「......」


 彼に触れられてからだ。


 彼に触れられてから、自身の魔力量が飛躍的に増幅している。


「もしかしたら」


 探し求めていた捜し物。


 ただ、例えそうでなくても、彼と一緒にいたいと思う、この気持ちはなんなのだろう。


 でも、捜し物であるならば未だ見せていない彼女の秘密を彼が知る必要もある。


 それを彼は受け止めきってくれるだろうか。


 拒絶されたら......


「......寝よう」


 考えが消極的になる前に、彼女は首を横に振って振り払うと布団を被り目を閉じる。


 煌々と輝く月に雲がかかる時には、彼女は夢の世界へと旅たっていた。

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