博物館―シークレット―
前回のあらすじ
王都、そして博物館につくなり最初に会った人物が金髪パーフェクトイケメンかと思ったら正しくは金髪パーフェクトイケメンオカマだった。
「あらあ? どうしたのカレ? お口ポカンしちゃってるわよ? もしもーし?」
「アルマ?」
「......はっ。聞いてくれビビっ! 金髪パーフェクトイケメンがいたと思ったらオカマだったんだ! これは白昼夢ってやつか?」
「もう、失礼しちゃうわねえ! あたしはちゃんと男よ! はいこれ」
いや、そこが問題なんだけど。
スーツに身を包んだ彼(彼女?)に胸ポケットから名刺を手渡され、現実を実感する。
バティンネスト博物館館長 カマタロー・トレセスデ
名刺にはそう書いてあった。
「アルマ、彼はカマタローさん。お茶目な館長で。リーダー。カマタローさん。彼は、アルマ。探してた、捜し物。ワタシを使える、人」
呆然としている俺に代わって、ビビは俺と館長さんの仲介人としてそれぞれ紹介をしてくれる。
俺の紹介の文言に館長さんは、ほんの少しだけ眉をひそめてみせた。
「あら? それは本当なの?」
「握手したら、わかると、思う」
「ふうん?」
そう言ってビビは、自然と俺たちだけで話す場をつくってくれた。
「えっと、紹介にあずかりましたアルマです。さっきはすいませんでした。よろしくお願いします」
「うふふ、ギャップ萌えってよく言われるわ。あたしは館長のカマタロー・トレセスデ。よろしくね」
ウインクもおまけして、彼はどこからともなく手を差し出す。
正念場だ。和やかな雰囲気ではあるが、痛感する。
ビビは握手するだけで大丈夫と言ってたが、本当に大丈夫なのだろうか?
恐らく目の前の彼もセミリアだ、俺のスキルの対象になるわけだけど、かける側としてはかけた実感がこれといってない。
だから、本当に上手くいくのか自分のことなのに半信半疑である。
彼の穏やかでありながら俺を見つめる鋭い目線は、まるで俺を品定めしているかのようだ。
いや、きっとしている。
......上手くいってくれよ。
「......」
少し水分が纏った手で俺は彼の手を触れる。
指と指、細胞と細胞が触れ合ったその瞬間
「いやぁん?」
「っ!!??」
な、なんだっ!?
いきなり目の前で、嬌声あげられたんだけどっ!?
野太く可愛くない声に、静電気に触れたように反射的に手を離してしまう。
作法としては失礼すぎるが、今はこれが正解だと思いたい。
「ハア......ハア......ごめんなさい、ちょっと待って」
「あ、はい」
肩を大きく揺らし荒く息を吐く館長さん、頬もなぜか紅く染まっている。
「カマタローさん、大丈夫?」
「ね、ねえ。ビビちゃん? 今もだけど仲良さそうに手を繋いでるけど、アルマ君に触れて何も感じ無いの? あたしビンビンに魔力きて感じちゃうんだけど」
「......魔力が増えてるのは、わかるけど」
「うそぉん!? もっとあるわよ! ビビちゃんマグロねえっ!?」
「まぐろ?」
ビビ、知らなくていい言葉だそれは。
それよりも。
「えっと、大丈夫ですか?」
「もちのもちで大丈夫だけど、これは予想外だったわ。パッと見、冴えないオトコけどここまでのヤリテク男をビビちゃんが連れてくるなんて......大人しい子ほどってやつね!」
絶対関係ないよそれ。
あと冴えないは余計だよ。
心の中で冷静にツッコミをいれるが、表に出すわけにも行かないので飲み込んでおく。
でも、あの反応の感じを見るからに、俺のスキルはセミリアにとっても静電気みたいな感じなのか?
ビビは鈍くてわかってないって感じだけど。
「あの俺の力ってどんな感じなんですかね? あんまり実感がなくて」
「今は治まったけど、あたしの中の魔力が一気に膨れる感覚がしたわ。風船が弾けるみたいって言えばいいのかしら?」
「なるほど?」
「セミリアって使い手の実力を知るために、共通して魔力感知の能力があるんだけど。アナタの魔力を知ろうと思ったら、逆に思い知らされちゃったっ♡ みたいな。いやん」
最後のいやんは兎も角、なんとなくは伝わった。
俺のスキルはセミリアの持つ魔力を増やしたり性能が上がったりするわけだから、感じるものも増えると言った感じか。
「カマタローさんは手を繋ぐだけで、わかるセミリア。ワタシは、その、魔力感知が苦手」
「ビビちゃんが平気なのはそのせいかもねえ。でも、ビビちゃん。どうやって、彼が違うってわかったのかしら?」
「それは............えっと、その」
ん? なんか視線が俺に向いてる。
すごく言いにくそうにもごもごしてるし。
ビビと肌を触れ合わせるイベントなんてあったっけ......。
「(ああっ!?)」
瞬間、鮮明に蘇ってきたのは何故か全裸のビビの体を拭かされたあの時のこと。
あれはそういう意味でやってもいたのか!
ちゃっかりしてるな!
「あら、二人とも顔赤くしちゃってどうしたの?」
「いや、なんでもないです!」
「うん! ぶつかった時に、たまたまわかったの!」
「あらそうなの?」
「「そうなんです!(なの!)」」
まるで熟年のコンビのような阿吽の呼吸で誤魔化す。
ビビの様子的にあの時はなんとも思ってなかったけど、いざ思い出すと恥ずかしくなってきたパターンかなあ。
気持ちはわかる。
「まあアルマちゃんが、あたし達が求めていた人だってこともわかったわ。改めて、ようこそ王都へ。そして博物館へアルマちゃん。あたし達は貴方を歓迎するわ」
少しおかしな人ではあるかもしれないが、館長さんはニコッと女性なら簡単に堕とせそうなスマイルを俺に向けてくれる。
博物館それはセミリアが集まるこの場所を意味する言葉でもあるらしく、それを俺に言ってみせたということは、少なからずとも俺は認められたということなのだろう。
閉館された人のいない博物館の中に入り、彼以外の他のセミリアのもとに案内されるまで、俺は密かにそう思っていた。
*
一応、博物館はセミリアの隠れ基地となってはいるわけではあるらしいが、表向きはカモフラージュなのかはともかくとして博物館としての機能を、本当に果たしていた。
見た目の通り広い館内には王都の成り立ちが書かれた古い文献や、かつて人がまだ人とされていなかった時代の古い武器などが展示されている。
公共の施設の閉館時間が早いのは王都も同じようで、誰もいない貸切となった館内を館長直々の説明も加えて案内されるという、なかなか体験出来ない経験を俺は味わっていた。
普通に勉強にもなるし俺も武器屋で育った身、武器のことを詳しく聞けるのはかなり楽しい。
「ちょっとアルマちゃんビビちゃーん。次はこっち、こっちよーん」
パタパタと子供のようにはしゃぎながら先を走り、俺達を大声で呼ぶ館長さん。
「博物館って、走ったり騒いだりするの厳禁じゃなかったっけ?」
「ワタシ達だけ、だから、無問題。貸切特権」
「それもそうか......? ちなみにさ、ビビはここで働いてたのか?」
「ちょっとだけ。でも、配置がワタシがいた時と大分違うから、新鮮。ほら、行こ?」
「おう」
ちょっとした昔話を聞いた後、次にやって来たブースは展示品はひとつしか配置されていないものの、いかにも目玉です! と言わんばかりに紫色のカーテンによる装飾が綺麗に施された円状の小さな部屋だった。
その部屋の中央には、腰元までの高さの台座があってその上には、不思議なことに中は霧がかったように不透明な水晶玉が幻想的な雰囲気を醸し出しながら、ポツンと置かれている。
まるで、占い師の館に来たみたいだ。
「はい、ご清聴お願いするわあ。ビビちゃんもアルマちゃんもいい?」
「............わかった」
「......? はい」
俺は当たり前として、なんでビビにまでその注意を?
首を傾げていると、館長さんの説明が始まった。
「えー、ココにある水晶玉なんだけど。見ての通りうちの看板、目玉展示品よ。なんとなんと、触ったらあの水晶玉の中に渦まく霧が晴れて、その人の未来を映すとされているわあん」
「へえ」
それはすごい。
婆ちゃんがいたら、嬉嬉として鑑定しはじめそうだ。
「というわけで、アルマちゃん。早速だけど触れてみてくれないかしら?」
「え、いいんですか?」
「全然大丈夫よん。ここに来たばかりでこれから不安でしょ? 水晶玉にみてもらいましょ!」
「そういうことなら......」
確かにこれから先、色々と不安ではある。
いかにも高そうなオーラを漂わせてはいるが、館長さんから直々に許可が出たわけだし、このご好意を無下にもできない。
「どこでもいいけど、人差し指をちょこんとのせるだけでいいからねえん?」
「わかりました」
1歩前に出て、水晶玉と対面する。
完璧な球体状で傷も汚れもひとつも無い、中身は館長さんが説明していた通り、霧みたいなモヤがクルクルと意思を持ったように渦巻いている。
これに触れるなんてちょっと緊張するな。
「......ふう」
一度深呼吸をしてから、指を伸ばす。
鏡よ鏡というわけではないが、水晶玉さんよ、よかったら俺のこれからを教えてくれ。
そう念じて、そっと水晶玉の頂点に人差し指の腹を置いた時だった。
「ひっ!?.......いっ? い、いやああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」
「ぐふぉっ!?」
声? と疑問を持つ頃にはそれは鼓膜を揺らす悲鳴に変わっていて、しかも水晶玉は女の子に変化してみせると、目に涙をためながら思いっきり俺をビンタしてみせた。
これがまた結構な威力で、壁にめり込むくらいには吹き飛ばされたのだった。
ドスンと重い音が響いて、後、ビビの壁1枚くぐもった心配の声が聞こえた。
「アルマっ!? 大丈夫っ!?」
「お、おう。生きてる......生きてるよな?」
「生きてると思う」
思うは困る。
いや、会話出来てるし生きてるわな。
パラパラと破片を零しながら頭を引き抜き、頭についた埃を手で払う。
「あいたたたた」
まさかこうなるとは思わなかった、まさか水晶玉が意思ありだなんて。
何度か首を回し、俺を吹き飛ばしてみせた誰かさんの正体を確認したくて、台座にへと目線を送る。
その先にいたのは、天使と見紛うような女の子だった。
白いワンピースに身を包み、ビビの透明とは違う長く煙のような掴めない白い髪を伸ばした、見た目だけなら10歳ほどの女の子。
涙をためきった瞳はキラキラと青く輝いていて、とても線は細く華奢で幼さを感じさせる体つきをしている。
あの細い腕のどこに、あんな力があるのか聞いてみたい。
「スイ......」
冷たい声で、ビビはそんな彼女のものと思わしき名前を呼んだ。
怒ってる、あれは怒ってる。
「び、ビビさんっ? 帰って!? いや、あ、あの、私そんなつもりじゃなくて、ご、ごめんなさいいっ!」
「ワタシじゃなくて、アルマに」
「あ、は、はい!! ご、ごめんなさい。あ、アルマさん!」
ビビが目の前にいること、そして俺を吹き飛ばしたことの動揺と罪悪感ふたつがごっちゃになった謝罪をもらう。
俺としては可愛いなと思った。
いや、吹っ飛ばされたわけだけど一瞬すぎて怒りが最早湧き出ないのが本音だ。
それに、当の本人はあんなに可愛らしい女の子なわけだし。
「あ、うん。大丈夫だから全然気にしないで」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
館長さんを見習って笑顔をみせてはみたものの、すっかり怯えられてるな......。
「はあい、スイちゃん落ち着いて。リラッークスリラックス。深呼吸よー。すーはー」
「か、館長先生。す、すー......はー......」
館長さんはそんなスイちゃんにそっと近付き、宥めていた。
なんだか大人のというか、保護者の片鱗を垣間見せられている。
「アルマ、ホントに大丈夫?」
「大丈夫だよ。ビビも俺の代わりに怒ってくれたんだよな。ありがとうよ」
「悪いことをしたら、謝るのは、当たり前」
「なら、俺も謝らないとな」
「......アルマ?」
さっきはお互いに驚いたが、今なら。
台座の上の彼女のもとへ。
「スイちゃん、だよね?」
「ひゃっ、は、はい。そうです」
「俺の名前はアルマ。これから、ここにお世話になるかもしれないやつだ。さっきはなんかごめんな」
「い、いえ。私こそ、お怪我はホントに?」
「大丈夫だよ」
「そ、そうですか。アルマ、さんに触られると変な感じがして、それに、力もいつもはあんなにないんですっ! な、なのに......」
「スイちゃんは、あたし並に敏感肌だからねえ。ビビちゃんはニブチンだし、アルマちゃんに触れられる感覚が、あたしだけなのかハッキリさせたかったのよ。ごめんねー」
館長さんの合いの手が入る。
そういうことなら、そうと事前に言って欲しかった。
「あんなに悲鳴あげられるのも、傷つくしなあ」
「あ、い、いえっ! あ、あれはいきなりだったからです。今なら!」
「......じゃあ。仲直りの握手といくか?」
「ぜ、ぜひぜひっ!」
アタフタとしながらも、スイちゃんは差し出した俺の右手を小さな両手でしっかり握ってくれた。
よかった......と思ったのも束の間のこと、スイちゃんの顔はみるみるうちに全身紅く染まっていって。
「......きゅう」
「スイちゃーん!?」
目を回して、ぐったりと館長さんに抱き上げられるのだった。
「スイちゃんも男を知ったわね......お母さん嬉しいわ。今日はお赤飯炊かなきゃ」
いや、呑気にそんな事言ってる場合か!?
というかお母さんて!
「アルマ............ワタシとも」
「なんの意地を張ってるんですか、ビビさんっ!?」
なんか、てんやわんやになってきたぞ。
さらに知らない誰かさんが滑り込むようにやって来る。
「ちょっと! ピュアピュアエンジェルたんのスイちゃんの悲鳴が聞こえたんだけど! なにごっ! なにあんたスイちゃんの手を握ってんのよ! 焼き殺すわよっ!?」
「患者はここか。ふわあ、壁も空いてるな......めんど」
うん、多分この2人もセミリアだろうな。
多分。
「アルマ、手」
「ちょっと聞いてんの。そこの男ぉ!」
「変態館長、壁の修理代の見積もり、このくらい」
「うっそー。高い実験だったわあ」
ワイワイガヤガヤ。
「......」
婆ちゃん、俺ここで上手くやっていけるかな。




