王都バティンネスト
前回のあらすじ
ビビは乗り物酔いしやすい体質だった。
それはともかく、汽車に揺られながら俺たちは進む。
ようやく憧れの王都に着くと思うと、ドキドキが止まらない。とても楽しみだ。
「(うわー、すっげえ!)」
8時間の汽車旅の後、王都の姿がようやく見えるなり俺の心の口から出た第一声はそれだった。
城壁が覆うのは都市ではなく、荘厳な雰囲気を発しながら屹立する桁違いに巨大な城。
高さも幅もどれくらいなのかは見当もつかない。
その見当もつかないほど馬鹿でかい城、それこそが王都という街なのである。
超巨大城都市バティンネスト
通称『飛び立てない巣』
一体いつこの建造物が建てられたのか、そもそも誰の手によって建てられたのか、どうやって建てられたのか。
そんな事は俺が知る由もない、一説によれば城の主でもあり、王都という都の主でもあるバティンネスト家、その先祖の手によって築かれたとされている。
王とは、民と共に暮らし、民と共にあるもの。
そんな言葉から、馬鹿でかい城にしてその中に全ての民を住まわせて城の中を街と化したんだとかなんとか。
規模がすごすぎるのがまた神話らしさを醸し出しているが、しかし事実その城はこうして現存するのだ。
王都にいれば、雨を知ることはない。
そんな格言を思い出し、不思議と汚れのない城の外壁を俺は目に焼き付けていると、眠たげに澄んだ声が耳に入った。
「アルマ、窓に張り付いて、楽しい............?」
オマケに「ふわあ」とビビは欠伸を付け足す。
あれからずっと寝ていたのもあってか、肌の色も健康的なものになっていて大分元気そうだった。
「おはようさん。楽しいよ。はじめて見たもんだから、テンションあがっちまってる」
「おはよう。着いたの?」
「着きかけだ。城の全体像がやっと見えた、すげえな王都」
実際のところもう少し感動はしているが、上手く言葉に出来ない。
なんというか憧れの舞台とは違うけど、来れて光栄に思う。
「そう、だね。外の人達、からしたら、そうかも。ワタシは久々に帰ってきたって、感じ」
「2年ぶり、だもんな。ビビの家はどのあたりなんだ?」
「第1地区」
おーさすが王都っ子、ちゃんとわかってる。
王都はその広さも相まって、街と同じように地区によって別れている。
第1から第8まで、王族貴族がいるのは第7と言った具合に配備されていたのは記憶している。
「第1は。駅から近いのか?」
「うん。駅チカ、なんなら駅があるのが第1地区。迷うことはないと思う。もし、迷ったら」
エキチカ? なんだ、エキゾチックな力加減の略か?
まあ、いい。
「迷ったら?」
「博物館はどこですかって、聞いたら、いいと思う」
*
長旅の果て、汽車が終着したのは王都の入口、流れものを受け止める岸、第1地区だった。
ビビによれば、王都の公共機関の機能を集約させた地区がここにあたるらしい。
すっかりお日様はてっぺんから角度をつけ、夕方に差し掛かる頃。
俺はようやく王都の駅にへと入り降り立つと、すぐ様空気や景色の違い、そう言った情報を脳が整理し始めた。
駅は街並みをある程度一望できる作りになっており、平たく並ぶ家屋よりかは、背が高く厳かな雰囲気を漂わせる豪健な建物が多く目に入る。
ビビが言うならあれが市役所なりそういった建物なのだろう。
エルウーアでは1個しかなかった立派な建築物がそれはそれはキノコみたいにニョキニョキ生えているわけなのだから、田舎者の俺としては吃驚仰天、鳩が豆鉄砲をくらったわけで一声上げたい気分だが、辛うじて持ち合わせた理性と周りの空気がそれを踏みとどまらせた。
汽車から降りる人は、みんな寡黙を保って各々の目的地にへと足を運んでいく。
なんであんな落ち着いてられるんだ......ここ城の中なのにでかい建物はあちこちあるし、遠くには山もあるし川もあるし水路も見えるし、空というか天井のあたりにはでかいソルライトみたいなのが光々と輝いて太陽の代わり、城の照明の役割を果たしてるし。
実は俺みたいに叫びたい人も......。
「アルマ、何キョロキョロしてるの?」
「いや、ちょっとな」
町よりも遥かに綺麗な透明な瞳から視線が送られ、冷静さを取り戻す。
流石地元民、さも当たり前の風景みたいな対応してやがる。
実際、そうなんだけどさ。
「えっと、アルマ............あれ見える?」
あれと言ってビビが指さした先にあったのは、白い大理石で造られたらしき、建物そのものが美術品と言ってもいいくらいの建造物。
その姿はここからだと小さいが、実際に近付けば話は変わりそうだ。
「あれが言ってた博物館か?」
「うん。アルマ、観光したいかもだけど、まずはあそこに行く。いい?」
「いやいや全然大丈夫だよ。行くか」
「うん」
またこっそり武器になってもらって駅を出て、そしてまたまた影で人の姿に戻ってもらってから、つい先日のように思えるエルウーアでのあの時のように並んで王都の街を歩く。
過去では俺は彼女を案内する側だったが、今では逆で彼女に案内される側。
はぐれないように! と強く念を押されて彼女と手を繋ぎながら、見慣れない王都の街並みをインプットしていく。
通りかかる人の目線はみんなビビに注がれていて、やっぱり綺麗だよなと独り納得しながら、白畳のレンガ道を踏んでいると、ひゅうと不思議なことに城内のはずなのだが風が肌を撫でてみせた。
一体全体どういうシステムなんだ。
「あの太陽といい、山といい、あれって全部どうなってるんだ?」
「魔法だと思う。代々王家の人間が、管理、してるとか。すごい、厳重な結界が、何枚も張られてる。太陽について答えられるのはこのくらい」
「ビビでもそれだけしか知らないのか」
「うん。まず王都を落とすとして、狙われるのはアレだから機密がしっかりしてる」
「あれがもし消えたらどうなるんだ?」
「............すっごい暗いと思う。でも、外に合わせて、暗くなるけど、それよりも、もっと」
「わかりやすい解説、ありがとよ」
それから幾つか質問を重ね、王都という街について詳しく教えてもらう。
王都という城街の環境は魔法によって徹底的に管理がなされているらしく、魔法太陽と呼ばれるらしい照明をはじめとして、山に川にと計算された魔法によって出来上がったものらしい。
もちろん、それを可能にするのは王族であり城主であるバティンネスト家の存在。
第7地区に住まう彼らを頂点にこの街は、最強の要塞とも言える城に守られ成り立っている。
そんな説明を聞いている内に、博物館の目と鼻の先にまで俺たちはやって来ていた。
「これまた、デカイな」
建物に対して端正という言葉があっているのかは不明だが、『コ』の字状のカタチをした大理石の建物は広大な庭園に囲まれながらどっしりとその姿を落としていた。
庭園へと誘う開かれた鉄の門扉には「バティンネスト博物館」と仰々しい金字が刻まれている。
「あっ」
「うおっと?」
誰か懐かしい顔を見つけた...........そんな意味を込めた短い声を出し、ビビは突然駆け出した。
手を繋いでいるわけだから、つられて俺は少しバランスを崩したけど、なんとか持ち直して博物館へと続く真っ直ぐな道ではなく、その道を覆う緑の芝生を一緒に走る。
やがて、庭園内の薔薇の花園とも言える場所まで走らされると、ビビが足を止めた先には薔薇を丁寧に手入れする一人の男性の姿があった。
「(おおっ?)」
男の俺でもため息が出るくらい、サラサラと流れる長い金の髪、それに鼻や顎といったラインはシュッとして整っており男臭さを感じさせないながらも、男性としての機能はしっかりと果たした顔付き。いわゆる、イケメン。
顔付きだけでなく体もまた、ほっそりとしているものの筋肉を感じさせる屈強な体格で、男として点数をつけるなら100点満点いや、それ以上なんかじゃないのかと思わされてしまう。
そんな金髪パーフェクトイケメンな彼は、やって来た俺たちに気付いたようで薔薇から視線を俺たちにへと。
懐かしい顔を見たからか、パッと朗らかな雰囲気を出すと、口を開いた。
「あらあ!? ビビちゃんじゃないっ!? どしたの! あ! 隣の彼はカレシ!? カレシね! 手もしっかり繋いで彼好みにイメチェンまでしっかりしちゃって! んきー! 羨ましいわあっ!」
「......」
絶句。
薔薇園でパーフェクトイケメンオカマに遭遇した衝撃を、どう言葉にしたらいいのかはお婆ちゃんに教わらなかったので、稚拙な表現にはなるが、とりあえず、男にしては甲高い声にびっくりした、とだけ言わせてもらおう。




