王都へ
前回のあらすじ
無事、ドラゴンを撃退した俺とビビ。
スキル【意思あるものの復活】によってセミリアが使える俺は、セミリアが集うとされている王都にまで俺たちは行くことになった。
青い空、白い雲。
汽車が煙を散らす軽快な音が聞こえ、風を切って走り抜ける。
順風満帆。
まさに、その言葉が相応しい状況......とはいかなかった。
「おーいビビ〜大丈夫か?」
「だ、だいじょば......ない」
「だよなあ」
窓際に顔を出し、青白い顔で不調を訴えるビビ。
俺は、彼女の背中を優しく摩ってあげるしかできなかった。
エルウーアの街を出て、10日。
王都への道のりは、エルウーアからだと、長くもあり短くもあった。
選択肢としては陸路か海路となり、そして早いのが海の方。
まず、陸を使った場合、エルウーアからひたすら北上、その後に東の方にへと進む、もしくはエルウーアから海岸線沿いにひたすら歩いても王都には辿り着くのだが、どちらもそう簡単にはいかない。
このどちらを使おうとも、最終的には連なる山脈が壁となって、山越えをしない限り、王都への旅が終わることは無い。
その諸々を含めて足だけでとなると、衛星都市をいくつかハシゴし、ビビ曰く最短2ヶ月と言ったところらしい。
次に、海の場合は風や潮の流れにもよるが、なんと最短7日。
その代わりとして運賃が高いこと、海にて妖魔と出くわした場合、安全が保証されないこと。
この2点が問題となり、海に落ちるのだけはごめんな俺はそちらの案は蹴らせてもらった。
なら、どうするかとなるのだが、ビビの新たな提案として汽車が候補にあがった。
王都からは他のいくつかの大都市を繋ぐ汽車が走っていて、その大都市にさえ着いてしまえばあとは早いもの。
ただまあ、駅のあるそこまでにたどり着くのに10日間かかったわけだが。
そんな汽車ではあるが、最近できたばかりなのもあってか、船に引けを取らないくらい運賃が高い。
2等級車で1人ならギリギリなんとかなる所持金を持ち合わせていた俺たちは、武器である強みを活かして、ビビには一時的に剣になってもらって1人分の切符だけを買い。
そして、改札を通って車掌さんに切符を切って貰うなり、また人型になって乗り込むという裏技を利用させてもらった。
いや、1人は武器だから、うん大丈夫大丈夫。
あとはしばらく、汽車に揺られるだけとなったのだが。
「うー......」
ビビは乗り物酔いをしやすい体質だった。
かれこれ「うー」以外のセリフはあんまり聞いていない。
外の景色を見ていた方が楽とのことで、俺たちは窓を開けて風を体に受けていた。
「まさか、セミリアともあろう方の弱点が乗り物酔いとはなあ......」
「馬鹿に、しないで。慣れて、ないだけ」
「だとしてもだろ。というか、車内でグリモワール読んだのが間違いじゃねえか?」
馬車なり船なり、乗り物に乗って揺れている時に文字を読むのは中々の自殺行為。
それでも、猫語は習得したかったらしいビビは「大丈夫!」と威勢をはってみせていたが、10分足らずで今の有様だ。
「ご飯......美味しいご飯が、あったら、元気に......ここの、ご飯、まずい」
「それには賛同だな」
汽車には飲み物や食べ物を売る売り子さん、いわゆる車内販売があって、物珍しさにパンを買ってみたのだがこれがまあ酷い。
下手したらちょっとした妖魔なら倒せるんじゃないかと思うくらい、カッチカチのパンだった。
一応俺は(あと多分ビビも)飯を食べなくても生きてはいけるのだが、ただお腹は空くので背に腹は変えられない。
たとえカチカチのパンでも、空腹を埋めるためには食うしかない。
「アルマの、ご飯、食べたい」
「体調悪いのか元気なのかどっちだよ......でもそうだな、リクエストは聞いとくぜ。何食べたいんだ?」
「............お粥」
「弱ってんな......」
あまりにも可愛そうなので、また背中を摩る。
ビビはこんな有様だが、妖魔に襲われるといったことは、この10日間なかったのは幸いだ。
俺は剣をまともに振った試しがないから、普通の戦闘が多分一番困る。
その辺の訓練もしないとなあ。
ただ、ビビがそういうのは王都に着いてからでいいと、ここまで比較的安全なルートを選んでくれたわけだが、ちょっとは男らしいところをみせたかった気持ちもあるにある。
ビビの強さは十分知ってるので、俺は何もいえないわけだが。
「確かあと8時間......汽車......うー」
今なら俺でもビビを倒せそうだ。
もちろん、冗談だけど。
「頑張ってくれ。つーか思ってたんだけどさ、剣の姿になったらどうだ? そっちなら酔いとかないんじゃ」
「そうだけど。人目のある、密室空間で、あまりやりたくない。見つかったら大変。さっきは、仕方なし」
「それもそうか」
難儀なものだ。
セミリアはもうこの世から消えた、おとぎ話の存在。
それが一般的な解釈だ。
武器の姿になれる女の子なんて、見つかろうものならよくわからない闇市場なり、もしくは魔道研究機関でもある学園に連れ去られてなんてことになりかねない。
俺がビビに旅の話をしてもらった時、学園のことをよく知らないと濁した理由も今となってはわかる。
「でも、さっきみたいな、荷台に紛れて節約作戦は何回かやった」
「俺の心配を返してくれ......」
結構アグレッシブだった。
「それに、アルマに撫でてもらえない」
「ん?」
ビビが何か言ったような気がしたが、汽車のポーっと甲高い汽笛によってかき消されてしまう。
「すまん、今なにか言った?」
「なんでもない。ほら、アルマ、手が、止まってる」
「実は元気だろ......」
文句はたれつつも、よしよしと背中をさすってやる。
「......不元気不元気」
本当に辛い時は辛いとさえ言えないものらしいしなんだか顔付きがニヤニヤしてるが、まあ目を瞑っておこう。
これでも俺を装備しているご主人なのだ、今の弱々しい様からはとてもドラゴンを打ち倒した剣には見えないが。
「それにしても、ビビは世界を知ってるな。汽車なんて案、俺には全く出てこなかったぜ」
「世界を知ってないと、旅は出来ない。危ない道、お金を取られる道。知ってないと、すぐお金は、なくなる。情報は節約に繋がる」
「なるほどな。それなら高いものも知ってるわけだ」
「理由が大事。汽車なら、安全面はそこそこ、でも速さがある。船も同じ。そして、高い。歩きは、安全面は自分自身。速さはない。でも、お金は自分でどうにか出来る」
「ビビはよく何を使ってたんだ?」
「ワタシは、歩いてた。腕には自信、あったから。今は久々の贅沢」
「それであんなにお金もってたわけだ。そういや、路銀はどうしてるんだ? 宿をとったりならどこかで尽きるだろ」
「エルウーアは、なかったけど。大きな街には、オーファンっていう組合がある。そこで仕事探す」
「ああ」
聞いたことはある。
王都発端の個人が集まって形成された組織で、街の自警とまではいかないものの、それぞれが仕事の依頼、受注をすることで実質的、町の自治を納めているとか何とか。
いわゆる、傭兵業。
エルウーアの街にはオーファンが設立されるより前に、警備隊の存在が出来ており、自治に関しては警備隊の仕事だ。
ただ、オーファンは仕事ならなんでもいいらしく家の掃除とか、草刈りとか、牛の世話とかそういったものもあるのは、面白いなと思った。
「ビビはどんな仕事してたんだ?」
「んー......妖魔を狩ったり、賞金首捕まえたり。これが、一番、お金の、効率いいから」
「勝てるなら、そりゃな」
やっぱり腕がたつからか、そういった仕事を受けるんだな。
ビビは武器としても凄いが、人としても十分に強い。
これもまた、セミリアだからなのだろうか......いや、関係ないな、だったら俺の情けなさが余計に目立つ。
「ワタシ達が、倒したドラゴンも、賞金かけられてたと思う」
「まじで?」
「うん。でも、そういったのは、証拠として、カラダの一部を持ち帰らないとダメ。ドラゴンなら鱗と瞳。アルマ、持ってる?」
「持ってたらよかったが。生憎、全部海の中だ」
「残念、持ってたら。きっと、大金持ち」
「へえそうなのか。どのくらい貰えるんだ?」
「えっと、確か.........金貨60」
「金貨60っ!?」
額の大きさに叫んでしまう。
金貨1枚が銀貨1000枚だから......だめだ、想像もつかない。
到底働かずにやっていけるのは確かだ。
「ドラゴン狩り、500人とかの規模でやるから、普通はそれを山分け。しかも、それでも討伐成功率は、ゼロに近い」
そう、ドラゴンが恐れられる理由として倒したとされる報告がほんのちょっとしかないのだ。
そのちょっとに、俺たちも入り込みかけてるわけではあるけど。
「俺たちは2人でやったよな。つまり、1人金貨30枚ってわけだ」
「鱗と瞳が、あったらの話」
「はあー」
そういうことならきっちり回収しとくんだった。
いや、別にお金のためにドラゴンを倒したわけじゃないけど、思うところは思ってもいいでしょ!
「そもそも数も少ないから、きっと噂にはなってる、かも」
「天罰でやられたってか」
まあ、それが1番丸く収まる気もする。
町長も、それを知ってて天罰だと広めた可能性もある。
天罰なら仕方ないって、なる。なるよな?
「でも、なんで、エルウーアに、ドラゴンがいたんだろ......?」
「それは確かに気になるな。俺の知ってる話だと、ドラゴンって妖魔大陸とペリア大陸の狭間にいるって聞いてたけど」
大まかに世界は妖魔が蔓延る妖魔大陸、そしてスエルいわゆる人間が支配するペリア大陸に別れている。
妖魔大陸に何があるのかなんてのは、わからないが長いこと妖魔は人間を脅かし続けてるのは確かだ。
そして、ドラゴンは言うまでもなく妖魔でも最高位の存在なので、名前もそりゃ知られてる。
「それは赤と白。エルウーアに来たのは黒。でも黒もここ数年動きがなかった」
ドラゴンにも種類というか個体名があるのか。
大方エルウーアに来たのは黒いドラゴンだったから、黒なのだろう。
それはともかく、エルウーアは交易が盛んとは言え、王都や他の大都市ほど栄えているわけではないし、妖魔が蔓延る妖魔大陸からも近いというわけではない。
「何かドラゴンにもエルウーアを襲った理由があるのかもな。俺には到底わからない話だけど。ビビを追っかけてきたとか?」
「......否定は出来ない。ワタシみたいなセミリアは、ドラゴンのような、妖魔を打ち倒せるから。狙われるのも、わかるけど......それなら、既にやられてる」
「もしそうなら、2年も旅が出来るわけはないわな。なら別の理由か。見当もつかねえ」
「ワタシは、極力セミリアの力を使ってなかったから、気付かれてなかった、だけかも。でも、ドラゴン、倒しちゃった」
「おおかた、ビビと婆ちゃんのおかげだけどな」
ビビという矛と、婆ちゃんの盾。
どちらかが欠けていたら、エルウーアの街は消え去っていただろう。
「んーん。アルマが、いなかったら、出来てない。ワタシ、あそこまで力を出せたのは、アルマのおかげ」
「......サンキュ」
あの日のことを思い出す。
ビビと共に星となって駆け抜けた、あの日のことを。
結果として、ドラゴンを一撃で葬ったわけではあるが、カラダは魔力という光に包まれて、とにかく言葉にするのなら光となって燃えていた。
「彗星崩れは、魔力の塊となって突進する攻撃、けど、ワタシ自身、人間としての魔力は小さいから、使う時は使い手に魔力を、補佐してもらわないといけない。でも、ワタシのそれは、普通の人間じゃ無理な量の魔力」
「へえ」
「けれど、アルマに使ってもらうと。あたたかい感覚が流れてきて、それが全部、ワタシで準備できた。だから、アルマのおかげ」
「よくわからんが、足りない魔力を俺が使うと補えたってことか? 俺じゃなくて、自分の魔力で」
説明から答えを導き出す。
言葉にするのは簡単だが、俺としてはそんなに実感がないのでピンとこない。
「そう。多分、魔炎くんも。使うための魔力量は尋常じゃないと、思う。でも、アルマは、そういうのをどうにか出来るスキルなんだと思う」
「だから俺なら、大抵の武器は簡単に使えるってことか」
「かもしれない。アルマは、武器を補助する武器。武器の全力を出させる武器。ワタシの、捜し物」
「でも、それが人間にも効果あったらなあ......」
ステータスの上昇としては微々たるものだし。
ビビだけに......というわけじゃないけど。
「でも、そんなスキルだから、ワタシは会えた」
「............つくづく俺はビビ専用ってわけだな」
「ワタシだけじゃ、無いと思う。他のセミリアもきっと、アルマに使ってもらえば、出来ないことが、出来るようになると思う」
「ビビの彗星崩れみたいな?」
「うん。実は、あの時はじめてうった」
「まじかよ」
勝てる自信は何故かあったけど、つくづく行き当たりばったりだったんだな、あの時。
「アルマと、星になれて、ワタシは嬉しかった。この、嬉しいを、皆にもあげたい。アルマは、きっと、セミリアを使うためにいる。ワタシは、そう感じてる。だから、皆に会わせたい。会って、妖魔を......」
セミリアは妖魔を退けるもの。
その役割を俺なら担える。
「それで王都へってわけか。でも、その感じだとやっぱり、俺に期待しすぎな気もするけどなあ。俺以外に候補はいなかったのか?」
「いなかった。ワタシが2年間世界を回って、ワタシを使える人間は、誰一人」
「でも、それはビビを。だろ? 他のセミリアを使える人間だっていてもおかしくないはずだ」
「いないよ。そういう人間は、学園に、行くから」
「魔力があるなら。そりゃ魔法を使えるわけだから、魔道機関である学園に行く、か。で、セミリアとしては何されるかわかったもんじゃないから、行くわけにもいかないと」
「半分あたりで、半分ハズレ」
「どっちがあたりだ?」
「魔力のある、人間は、学園に行くってこと。そしてそれが、セミリアが、かつての存在となった理由。そして、何されるかは、分かってる」
「......?」
「............王都で、答えは、聞けると思う。ふああ、ワタシちょっと、寝るね」
「えっ。お、おう」
小さくあくびをして、ビビは俺の肩にとすんと、頭を置くと、すぐに寝息をたてはじめた。
「くー......くー......」
「寝るのはええな......」
まあ、体調が優れない時は寝るに限るし、すぐ眠りにつけるのはいいことでもあるが。
しかし、セミリアの使い手を学園が奪っている理由、それに学園がセミリアに何をするか......か。
一体なんなんだ?
そんな疑問を抱きながら、汽車は真実を知る場にへと着実に俺たちを運んでいった。




