星になる
前回のあらすじ
街に突如として、ドラゴンが襲来。
何も出来ないそう思っていたが、ビビは武器として俺の手を握ってくれた。
彼女となら......必ず。
「......っ。ふう」
彼女を手に取り、ゆっくり息を漏らす。
どこまでも透明な白に染まっていて、俺なんかが触れていいのかためらうくらい、洗練され尽くした剣。
不思議なことに全く重みは感じない。
それを、俺は今から使うのだと覚悟を決める。
「不思議」
「どうした?」
「アルマを付けた時もだけど。アルマに握ってもらうと、不思議と、なんでも出来る気がする」
「そっか......なあ、ビビ」
「なに?」
「ビビが旅をしてたのは、俺を見つけるためか?」
「............きっと、そう。ワタシの夢はワタシを使える人をみつけること。今は、アルマの望みを叶えること」
「なら、とりあえず今の俺の夢を叶えてもらわないとな」
この街を守る、婆ちゃんを守る。
星屑の剣である彼女を構え、剣先にドラゴンを見据える。
―グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
何度も防がれて埒が明かないと判断したのか、ドラゴンは大きく吠えてみせると上空で大きく顎を開き、これまでとは比べ物にならないくらい特大の火球を作り始める。
間違いなく、あれをくらえば街は終わる。
本能がそう理解をよこすのに、時間はかからない。
しかし、俺としてはじっとしてくれる分ありがたい攻撃でもあった。
「やれるか?」
「違う。一緒にやる。全力で」
「......ああ」
一度俺は息を大きく吸い込み、吐く。
次に、倒すべき敵を見る。
ソイツは、天空にて俺たちを、今まさに滅ぼす先を見ていた。
何を考えているのかなんて、わかりもしない。
「いくよ、アルマ」
「ああ」
キンと、研ぎ澄まされた音がこぼれる。
音はやがて、どこまでも澄んだ声となってこの世界への宣言にへと移り変わった。
「意思あるもの、星屑の剣として告ぐ」
それは正しく、意思の表明。
「今ここに、新たなる翔け星の一閃となることを」
新たなる星の誕生を祝う言葉と言ってもいい。
俺の周りに、否、剣に魔力が白い光となって帯び始め、光は淡く俺を包み始める。
「先は見えた。後ろへは振り返らない。全力を持って一筋を」
全力を出すことを告げると、やがて剣は魔力を増幅し、溢れんばかりの光に飲み込まれ俺は微かに目を細める。
カラダが燃えるように熱い、これが魔力。
俺には持てない力......
はじめて味わう光によって、俺のカラダが煌々と輝きつつも負担を覚えていた。
きっと、これが彼女の全力。
魔力の熱がカラダを喰らい尽くすかのように隅から隅まで駆け巡っていく。
しかし、それ以上に、確実に奴を葬りされる事をその熱は教えてくれていた。
「空の果てに描こう―彗星崩れ―」
「うおおおおおおおおおおおっ!」
刹那、星となった俺は地を蹴り、文字通り光の軌跡を描く蒼白の彗星となって雄叫びをあげながら宙にへとかける。
―彗星崩れ《エストレア・セレスティアル》―
ただ真っ直ぐにビビを構えて、莫大な魔力という物量をもって光速で疾走する。
それだけの攻撃。
されども、魔力は熱として集まり、新たな星となって俺は流れる。
こいつを殺すまで止まるわけにはいかない。
「届けよぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」
衝突の果て、銀光が煌めく。
魔力の塊と化した俺達は確実に対象の胸部を貫き通し、鎧とも言えるドラゴンの皮膚に、人が通れるほどの満月状の穴を開けてみせた。
その胸に心臓と呼ばれるものは消え果てていた。
―ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!???
貫かれたことに気が付かなかったのか、そもそも攻撃がくると予測もしていなかったのか、ドラゴンは胸部から鮮血を吹き上げ、少し遅れて苦悶に満ちた咆哮を吐く。
作り上げていた火球は火の雨となって散り、霧散していった。
追って、生気を失ったドラゴンも、重力に従ってその巨体を海にへと落としていった。
「はあ、はあ。や、やった......」
肩で息をしながら、その一部始終を見届ける。
不思議なことに、星となっている今は空を飛ぶことが出来ていた。
しかしそれも束の間のこと。
「ねえ、アルマ」
「なんだ?」
「ワタシ、振り返らないって、言った」
「え?」
ビビの言葉に素っ頓狂な声をあげた途端、俺を纏っていた光は消え失せ俺もまた、重力に従いはじめた。
「ひいいいいいぃっっっ!!!???」
月明かりの下、雲の絨毯の上で情けなくも悲鳴をあげて落下する。
これの解除手段、振り返ることかよっ!?
確かに、振り返らないって言ってたわ!
気づいた時にはもう遅く、あっさりと俺もまた海の方にへとカラダが落ちていく。
というか、やばい、普通にやばい。
なんかどこかで、結構な高さなら落ちた時は、地面より水の方が痛いと聞いたことがある。
いや、そんなことより夜の海に落ちる時点で誰かが見つけてくれるかどうかもわからないぞこれ。
「アルマ、元気そう。よかった」
と、1人焦っていると人の姿に戻ったビビが俺の手を強く握りしめて何を心配していたのかはわからないが、安堵の声をかけてくる。
「おう! 見ての通り元気だぜ! ちょっと暑いけど。ビビは?」
「元気。久々に、本気......それ以上だせて、気持ちいい。アルマのおかげ」
「そりゃよかったな」
目まぐるしく光景は変わり、会話も変わる。
「ねえ、アルマ。次のアルマの夢は何?」
「今ここで言わなきゃだめか、それ?」
「だめ?」
心配そうに訊ねてくる。
さっきまでの感じとは大違いだ。
「......だめじゃねえよ。ビビの夢は何だったっけ?」
「ん。ありがと。ワタシの夢は、生きてワタシを使いこなす誰かに会うこと。会って、その誰かの夢を叶えること。だから、アルマの夢は、何?」
「俺の夢か」
悲鳴と混乱に満ちた街の情景が思い浮かぶ。
それが直ぐに、誰もが笑って過ごす街の姿に塗り変わった。
「俺の夢は、これ以上妖魔に苦しむ人を増やさないことだ。ビビ、手を貸してくれるか?」
「うん、もちろん。120%を出せる、アルマを信じる。ワタシと一緒に、王都に行こう? 皆がいる。それから一緒に戦う」
「皆ってその......セミリアか?」
「うん」
やっぱり、ビビ以外にもセミリアはいるのか。
「わかった。一緒に行くよ。婆ちゃんにも言っとくし、今の俺のご主人はビビだしな。嫌がってもビビについて行くぜ」
「......? ワタシの、使い手はアルマ」
「いやいや、俺のご主人はビビだぜっ!?」
「「............」」
「ふふっ」
「へへっ」
何かおかしくて2人で笑い合う。
空の上、ちょっとロマンチックではあるが問題はすぐそこまで迫ってきていた。
「それよりなんだけどさ。このまま海に落ちたら滅茶苦茶痛いと思うんだけど、どうする?」
「............熱冷ましには......よし?」
「よくねえええええええ!!!! ああああああああぁぁぁっ!!!!????」
雲を通り抜け、今度はエルウーアの街が視界に飛び込んでくる。
こんな俺でも、ビビとなら守り通せた。
それが凄く嬉しい。
「アルマ、泣いてる」
「おう。めっちゃ怖いからな」
それから、2つの水柱が新しく立つのに、それほど時間はかからなかった。
*
「ビビ〜。本当にもう出るのか? 俺まだちょっとカラダが痛いんだけど」
「セミリアの力、使ったから、長居できない」
「はいはい」
「ったく。馬鹿なことするからだよ」
「婆ちゃんに言われたくねえよ」
あれから俺たちは、カラダに死ぬほどの痛みを覚えつつも、ビビがソルライトを救難信号代わりに使うという機転のおかげで、何とか救出され、家にへと転がり込むように帰ってきた。
結界が破れる前に決着をつけたおかげか、婆ちゃんは思っていたよりピンピンしていて、俺たちを優しく出迎えてくれた。
もちろん、俺のもう一つのスキルのこともその時教えてくれた。
スキル:意思あるものの復活
どんな武器でも潜在能力を引き出し、しかもそれがセミリアなら絆が強いほど能力を増す。
そんないつ使えるのかもわからないスキルは偶然にもビビというセミリアとの出会いで発揮されたわけだ。
本当に何があるかわかったもんじゃない。
そして、夜が明けた街では2つの噂でいっぱいだった。
ひとつは、ドラゴンは神の天罰によって討ち果たされたというもの。
一瞬すぎる出来事だったし、そういう噂が流れるもの無理はない。
しかしながら、辛うじて見ていた人はいるわけで、もうひとつの噂は俺がやったというものだった。
確かに俺とビビがやったが、別に英雄にはなりたいわけではないので今すぐにでも有耶無耶になって欲しい。
その願いが叶ったのか、救難信号を見て俺たちを助けてくれた町長は事情を知りながらも天罰派と言い張り、町長が言うならと、いずれ街の誰もが天罰だったと片をつけるだろう。
というか、そうあって欲しい
「アルマ、私はちゃんと見てたよ。アンタの輝きをね」
「小っ恥ずかしいからやめてくれよ」
「はっはっは! 今言わずにいつ言うんだい。忘れ物はないね?」
「ないよ。ビビも大丈夫か?」
「うん」
かく言う俺とビビは、王都に向けて街を出ることになった。
俺の所持者はビビなのだから、ビビがそうしたいなら、俺は黙ってついて行くだけだし、必然とも言える。
それに、猫語がちゃんと出来たのかも見てやらないとな。
肩掛けの大きなカバンをかけ、俺たちは店を出る。
「じゃあ、これでお別れだね。アルマ、アンタはもう私のものじゃない。ビビちゃんと頑張るんだよ」
ラマス武器屋の店先、婆ちゃんは名残惜しいといった雰囲気は見せず、俺に握手を求める。
「また帰ってくるよ婆ちゃん。俺を拾ったのがアンタでよかった。勝手に死ぬなよ?」
「ふん。アンタの知らないところで死ぬから安心しな」
「そうしてくれ」
別れの挨拶もまた、いつもの軽口の叩きあい。
らしいと言えばらしくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ビビちゃん」
俺の手を離し、今度はビビにへと握手を。
ビビは一瞬ためらったが、その手を取った。
「アンタのおかげで助かったよ。それ、付けてくれてるんだね」
「......うん。アルマが、こっちの方がいいって」
それとは、ヘアバンドのことだろう。
少し恥ずかしそうにビビは答える。
別に、ビビのしたい方にしたらいいと俺は思うのだけど、ここで口を挟むのは野暮なのは、俺でもわかる。
「そうかい。馬鹿なところもあるが、絶対に裏切ることは無いし、とにかく優しくていいやつだ。アンタに託すよ」
「はい............お疲れ様、でした」
「なんだい改まって、くすぐったいね。さ、もう行きな。こういうのは長くなるとダメなんだよ」
俺たちの背中を押し、早く行くように促す。
「うわっちょっ。押すな。別れくらいゆっくりでも」
「いいじゃないか。私はここにいるよ。それでいいだろう?」
「......ああ」
どんなに離れても、俺が誰かに移り変わろうとも、俺の帰ってくる家はきっとここだし、これからもそれは変わらない。
ラマス武器屋というヘンテコ武器ばっかりを集めたこの場所で過ごした彼女との、日々は消え失せることはないだろう。
目を閉じれば、浮かび上がってくる。
『よしっ! アンタはウチの店で働きな、決まりだよ!』
『うえええええ!?』
初めてあった時のこと。
いきなりそんなことを言うから、度肝抜かれたぜ。
『全く、お客様への対応がなっちゃいないよ』
『商品に呆れて帰ったんだし、俺悪くねえだろ!』
『なんだい!?』
『おおっ!?』
くだらないことで、喧嘩もたくさんした。
『アルマ。お前さんにもいつか、相応しい使い手が見つかるよ』
婆ちゃんの口癖。
でも、俺は婆ちゃんに家族のように扱ってくれたのが何よりも嬉しくて。
俺にとってはアンタも、相応しい使い手の1人なんだぜ。
「アルマ、行こ?」
ビビに......今の使い手に呼びかけられ、ハッとする。
婆ちゃんはどこまでも優しい笑顔を浮かべていた。
「じゃあな。アンタと過ごせて楽しかった。本当に......楽しかった」
「私もだよ。ほら、行きな」
「......おう」
その言葉を最後に、俺は前を見て歩き出す。
後ろを見ることは無い。
それをしてしまうと、いつまでも故郷を離れることができない気がしたから。
「............アルマ?」
「なんでもねえよ」
今の俺は、隣を歩く彼女と進まなければならないのだから。
俺は歩く。
―ありがとう
口にはできなかった、ただそれだけの思いを胸にして。
*
「行ったのか」
「なんだい爺、来てたのか。挨拶なら一足遅かったね」
「助けた時に嫌ほどお礼を言われたから、大丈夫じゃよ。それよりもじゃ」
「なんだい?」
「お主、もう限界じゃろう?」
「............はて、なんのことかね」
「とぼけんでもいい。あれだけの攻撃を防ぎきったのじゃ。どれほどの負担かはワシには想像できんが、今ここに立っておるだけでも奇跡に近いはずじゃ」
「......」
「やはり、か。お前さんは昔から無理をするのだけは得意じゃのう」
「手塩にかけた孫を見送りたくなるのは、当たり前だろう?」
「別に血は繋がっておらんじゃろ」
「それでも、私にとっては家族だよ。今無理をせず、いつすると言うんだい」
「......そうか。お主がどこまでみていたのかは知らんが、町長としてこの街を守ってくれたこと、本当に感謝する。ありがとう」
「......アルマも、あんたみたいに素直ならよかったんだけどねえ」
「アルマがどうかしたのか?」
「なんでもない......よ......」
「おっと! 大丈夫か?」
「......悪い、ね......ババアが......夜更かし、するもんじゃないね」
「本当にな。肩をかしてやるから、ゆっくりとおやすみ」
「ああ......すま......ない......お...や......すみ」
「......ゆっくりと休むのじゃよ。英雄」
*
町長はラマスを2階の自室で横にさせ、静寂に満ちた店内をぐるりと見回す。
「......おや?」
剣1本が入るほど、そんな壁掛けのスペースが、ぽっかりひとつ空いていた。
まるで、自分で動き出したかのように。
とりあえず、ここで一旦区切りです。
意思あり武器と、アルマの冒険がはじまります。




