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予想通り、日が暮れてすっかり暗くなっても迎えは来なかった。
こうなったら覚悟を決めなくてはならない。私が王都にたどり着けずに終わってしまえば、アルディアの名誉に傷がつく可能性がある。ザルツが私の訪問を公表していたとすれば、ザルツに恥をかかせることにもなるだろう。なにかを出し惜しむつもりはなかった。
「リッド、私は旅に慣れているわけではありません。
今日行った準備以外に、必要なことがあれば教えてください」
「一通りは揃えましたし、大丈夫とは思いますが」
その言葉に、少し安堵して頷く。
「では、明日の朝に馬車と馬を手配して王都にむけて出発します。
サイファ、お願いしますね」
「おまかせ下さい」
さて、では皆にも覚悟してもらうことにしよう。
「ルートは西回りを行きます。最初にスカラという街を通ることになりますが、ここまでは街道を行き、夜はスカラで宿を取ります。
護衛の2人は最大限の警戒を。
もし、何かが起きた場合。そこから先は街道も街もすべて無視して直線距離を突っ切ります。森は多少迂回することになるでしょうけれど」
敵の正体も目的もわからない以上、強硬手段に訴えてくる可能性は否定できない。何かが起きたら、というのはつまりそういうことだ。
「探知魔法を使っての索敵をしながら進みますので、不意打ちの可能性は低いと思いますが・・・
仮に誰かが怪我をしたり、旅の続行が困難だと私が判断した場合。
その時はその場で全員をアルディアに送り返します」
皆は私の言い方が、アルディアに帰る、ではなかったことを不思議に思ったようだが、空間転移の存在を明かしていない以上それに思い至ることはないだろう。
「明日からは私も剣を持ちます。
レイ、申し訳ないのだけど・・・パーティーに無事出席できるまで、隠れていてもらえる?」
頷いたレイは、私のポケットに入り込んで、顔だけ出す。レイがいるかいないかだけでも私の正体は判別しにくくなるはずだ。それだけ転生者というのは目立つのだ。
「みなさん、明日から負担をかけますが、よろしくお願いします」
翌朝はやくに馬車を購入し、ラーファの街を出発した。目指すは西。
真西に進むとスカラの街を通過してルストという街に突き当たる。そこから今度は真北に進むのが西回りのルートだ。
街道を進んでスカラの街を目指す道中は至って平和だった。今のところは、だけどね。昼頃に馬と自分たちの休憩をはさみ、ひたすら西へと進む。スケジュールにはまだ少し余裕があるが、この余裕をできるだけ維持、あるいはより余裕を持たせたいので結構な強行軍だ。御者台に座るジェーンは勿論、メイドの3人にはかなりの負担だと思う。
そのまま旅は順調にすすみ、スカラの街には何事もなく到着した。予定通り宿をとって明日に備える。宿も高級なところを選んだので防犯はしっかりしている。敵の正体によっては権力でなんとかされてしまうかもしれないので、警戒は怠らない。念の為6人で交代で見張りを立てた。
翌朝、私達はルストを目指して再び街道を進む。
そして、懸念した事態は起きた。
「右手側、森の方に集団がいますね」
探知魔法が捉えたのは、精霊の力の反応が不自然に密集している様子だった。
魔物の反応ではない。そして、綺麗に隊列を組むかのように並んだそれは動物であるはずもない。
「騎士団か、兵士か・・・いずれにせよ訓練を受けた人間だと思います」
「どうしますか姫様」
「このまま街道を行ってください。
私も御者台に移ります。
もし戦闘になったら、3人は馬車の中に隠れていてください」
「姫様も戦うおつもりですか!?」
護衛の2人もメイドたちも驚いたように言うけれど、でもさ。
「何のために剣を持っていると思ってるんですか・・・」
「護身用でしょう?」
間違ってはいない。
「攻撃は最大の防御、という言葉があってですね。
まあそれはいいでしょう。
盗賊を偽装して襲ってくる可能性があります。
切り捨てて構いません。
できれば数人はお話できる状態で残したいですけれど」
にっこりと、私はそう言って笑った。
案の定、その集団は襲ってきた。一見盗賊に見えなくもない、汚れた服装や髪。
しかし剣に錆は見られないし、何よりその瞳は以前遭遇した盗賊のギラギラしたものとはかけ離れていた。どちらかというと、そこにあるのは迷い。
任務とは言え子供を連れた集団を盗賊に偽装して襲うのだ、良心があるならば迷いも出るだろう。
けれど、そんな事情を私が慮ってやる必要はない。来るなら返り討ちにしてやるまでだ。
私を世間知らずのただの幼い姫だと侮ったこと、絶対に後悔させてやる。




