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スイが見つけてくれた食堂に入る。見渡すと大きな荷物を持っている客が多い。うん、条件通りだ。
テーブルを囲み、取り敢えず注文を済ませてから、広いテーブルに地図を広げた。
現在地が港町ラーファ。ここからトリス王都は北西方向にある。
街道を進む場合、ルートは北回りと西回りのふたつ。北のルートは学術都市を通過し、西のルートは中継地として街を2つ通過するようだ。
まっすぐ北西方向には街道は通っていない。地図を見るに、森が広がっているようだ。
店員のおばさんが飲み物を運んでくる。おまちどうさま!と元気も愛想もいいおばさまだ。これは期待が持てる。
「あの、ここから王都に向かうにはどのルートがおすすめですか?」
サイファがおばさまを呼び止めて質問する。質問の内容は港で簡単に打ち合わせ済みだ。
「いろいろ見て回りたいなら西からぐるっとまわってくるのがいいよ」
「見ての通り小さい子どももいて・・・
馬車とかも出てます?」
前半は私を示しつつ、おばさまにこっそりと耳打ちするように。
明らかにメイドの格好をした3人が居るので、私がどこかのお嬢様で、それをどこかにお連れするための旅であることを匂わせるのだ。いやまあ実際にもそうなんだけれど。
「馬車の数なら北回りのほうが多いよ。トリスは学生や研究者が多いからね」
「ありがとうございます、参考にさせてもらいます」
サイファはお礼を言って、チップ代わりに銅貨を1枚おばさまのエプロンのポケットへと放り込んだ。この方法なら受取を拒否されることは少ないのだそうだ。
続いて料理が運ばれてきたので、地図をたたんでテーブルの上を広く開けた。
まずは腹拵え。
「いただきましょう」
と言ったはいいものの、皆私が食べ始めるまではその手を動かそうとはしない。
注文したパスタに手を付けると、なかなかに美味。スイは大当たりを引いてくれたようだ。
さて、ヴォイド形式で食べながら話を進めるとしよう。
「この街で1日は迎えを待とうと思います。明日までに迎えがこない場合、私達だけで王都に向かいます」
皆真剣な顔で頷いてくれる。異論はないようだ。
「ただ待っているだけでは時間の無駄になりますし、旅支度をある程度今日のうちに整えましょう。
旅慣れている者は?」
リッドが手を挙げる。
「ではリッドは道中の食料と水の確保をお願いします。最悪の場合どの街にも立ち寄らず野営のみで進むことを想定した上で、必要な量を決めてください。」
そう言って私はリッドに金貨を2枚手渡した。
「おまかせ下さい」
「それからジェーンはロロを飛ばして。お父様と、ザルツ様に現状の報告を。
あ、でも・・・うん、手紙は私が書きますので、一緒に行きましょう」
念の為、私の身分を証明するなにかしらを用意してもらうつもりだ。必要になったら空間転移で取りにいけばいい。
「スイはその間に宿の手配を。メルはリッドの手伝い。
サイファは馬と馬車をすぐに調達できるように目処をつけておいてください。
馬車に豪華さなどは必要ありません、旅のしやすさを最優先に」
指示を出し終えた頃には全員食事も終わっていた。
「全ての準備に、お金を出し惜しむ必要はありません。
3時間後にこの店の前に集合しましょう。
では、各自お願いします。散開」
そうしてそれぞれに街の雑踏の中へと消えていった。
スイが手配した宿屋の、広いスイートルーム。全員が一室にまとまったほうが話し合いがしやすいし護衛の負担も減るだろうと思ったので、私の一存で決めた。街で既に単独行動をそれぞれでしている時点で護衛も何もないような気もするのだけれど。
日が暮れるまでにはまだまだ時間がある。宿を確保したので、また各自で行動しても戻ってくればいいだけなので、待ち合わせなども必要ない分動きやすいだろう。
「3人とも、動きやすい服は持ってきていますか?」
全員が首を横に振る。迎えの馬車が来る予定だったのだから、本来はそんなもの不要のはずだったんだよね。
「では旅ができるよう服と靴を揃えて来てください」
そして資金を渡そうとして、少し悩んでしまう。
宿の支払いにせよなんにせよ、8歳児が財布を握っているというのもおかしな話だ。
「ジェーンに当面の旅の資金を預けます。今後の支払いはその中から出してください。
足りなくなっても構いません。
安全と、確実に王都に到着することが最優先です」
皮袋に金貨10枚を入れて、ジェーンに渡す。
「お嬢様、こんな大金・・・!」
およそ500万円分だものね、気持ちはわかる。
「不安でしたら、皆で分けて持ってくれてもいいですよ。
では、行ってらっしゃい」
あの3人は放って置いても無駄遣いなどはしないだろうし、別にされても問題ない程度の資金は持っている。指輪型のマジックボックスにはまだまだ金貨は入っているし、屋敷に取りに戻ることだって可能なのだ。
さて、迎えは・・・来ないんだろうなぁ。




